15年後のスターチス

小糸咲希

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第四章「アイリスの節」

010#西から昇る月

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「ロイス! どうしたんだ! ロイス! 」

目を閉じていたみたい。
そして、溢れ出すように思い出す怜也と付き合った時の話。
目の中から雫がひとつ落ちていた。
この世界はどうやら現実のようだ。
景色を懸命に覚えている。

「ジョン……? なんでもない。」

その時はただ眠かった。
また目を閉じると、彼と別れる前の景色が浮かんだ。

「……別れないとお前とあいつを殺す……」

再び来る脅迫に近いメールに頭を悩ませながら今日は1人でゆっくりと歩いている自分を眺めていた。

「この時は……あいつが脅してきたメールに……1回考えて別れを切り出す前なんじゃ……止めないと……」

歩く自分を精一杯止めようとしたが、見えていないのか、一向に気が付いている気配がない。
そして、このまま彼を呼び止め別れ話を始めていた。

「また……あいつの思惑通りに……? なるの……? 」

自分には何も出来ないという無力さに呆れを切らしていた。
十字路に着き、彼は渡ろうとせず足を止めていた。
やはりこれは交通事故ではなく、意図した殺人なのだ。

「危ない! 」

もしかしたら気づくかもしれない。
そう思い、大きな声で叫んだ。
手元には黄色いスターチスの花を握っていた。

「この花を渡したら……未来は変わるかもしれない……」

思い切って走ろうとしたが、彼の意識はどんどんと遠くなって行っている。

着いた頃には彼はもう動かなかった。

「……」

再び目が覚めた。
今度は立っていたのではなく、寝転がっていた。
そして、手には黄色いスターチスがあった。

「ロイス。急に倒れるからびっくりしたぞ」

ジョンは相変わらずパイプを蒸し、こちらを眺めている。
どうやらもう、夕暮れ時のようだ。

「ここの世界は……西から太陽が登るのね……」

今までは当たり前のように思っていたものも、よく見れば違うという事は、よくある。

「ロイス、君はもしかして、キロル、そしてミラと同じで別世界から来たのか? 」

この男は何か知っている。
そして落ち着きも凄くあった。

「俺の勝手な考えだが……」

ジョンは知っている限りの事を話した。

「スターチス……伝説? 」

彼が言うには前世で付き合っていた2人の死が偶然同じだった時に起こる現象だと言う。 
思っていたよりも薄く感じてしまったが今はそれどころでは無いのかなと思い、突っ込むことはやめた。 

「それと……キロルに今から俺は会いに行ってくる。ロイス、着いてくるんじゃないぞ? 」

ジョンは念を押して、その場を去っていった。
着いてくるなと言われたら行きたくなるのもあったが、本当にあの人に会えるならと思えば、少し怖い思いをしてもいいと思ったので黙って着いていくことにした。
ただ、この判断が後に大変なことになるというのを知らずに。

第四章完
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