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第四章「アイリスの節」
002#目覚め②
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目が覚めたら、別荘の寝室にいた。
「今は……いつだ……? 」
こんな時でも何故か冷静を保っていられる自分を少し不思議なように思えたのだが、そんなことは置いておこう。
今はまだ慌てるような時間じゃないと思いたい。
不思議と体は軽く、今までと同じ感覚であった。
「……起きたか。リリ・ゼラニウム。いや、真名ロイス・リリ・デージー」
見覚えのない金髪の少年が寝ていたベットの隣にある椅子に座っていた。
「あなたは誰なの? なぜ私の名前を知っているの? 」
聞きたいことが沢山あった。
自分が気を失っている間に何が起こっているのかを理解したかった。
そして、あの約束の日が近いのならそこに向かう準備をしたかったからだ。
「落ち着け。ロイス。何故デージー家の申し子がここにいるかは分からない。でも、ここに来たってことは相当大変なことに巻き込まれたんだろ? 」
この男はあからさまに何かを知っている様子だった。
もしかしたら、あの日父親に言われた意味が分かるかもしれない。
全てを話すことにした。
「私がここに来た日、ゼラニウム家の王妃が何者かに殺されたの。理由は分からない。でも、ミラ……王子がなにか関わっているは……ゲホッ……ゲホッ……」
突然喉を掻き切るような痛みに襲われた。
それを見て男は何かを察したかのように肩を叩く。
「ある程度は理解した。ロイス、これから俺の言うことは、どんなことであろうと受け止める自信はあるかい? 」
真剣な顔立ちだった。
今までの人生の中で色んなことがあったが、それ以上にありそうな大きなことに少し恐れがあった。
それでも聞かなければという使命感に駆り立てられ、そっと首を頷けた。
「そうかい。なら話そう。5年前、君の父親であるクラム……クラム・ゼラニウムが討たれた。それだけではない。他にも君の付き人、ゼラニウム家に仕えてきた家臣たちが突然何者かに殺されている」
想定外の事だった。
父親の訃報ならまだしも、何もしていない自分の直近までもが殺されているという事に驚きを隠しきれなかった。
「5年前……? 今は……いつ……? 」
気になることは沢山あった。
最初に気にしたのはやはり時間の事だった。
「君がここの別荘で倒れてから5年が経過している。理由は分からない。何せ、自分が来た時にはもう気を失っていたからな」
時間の進み具合は残酷だった。
約束の日まで時間が無い。
こんなにも長い時間寝ていたのに足腰の衰えがないのは不幸中の幸いなのだろう。
ゆっくりとベットから立ち上がり、揺らつく体を支えながら出口へと向かって歩き出した。
「行かなきゃ……キロルの所へ……」
足元を見ながら前へと進み、扉へと手をつけた時であった。
男は再び肩を叩いた。
「ごめん。ロイス。守れなかった……」
彼は悲しい顔をしていた。
「守れなかったって何を……」
ポケットから首飾りを取り出した。
その首飾りの装飾部にはスターチスの花が付いている。
「君の……大切な……人を……」
この言葉を聞いた時、この人が何を言いたいかが分かった。
「え……? 」
これ以上に出る言葉が無かった。
涙が自然と流れてくる。
「キロルは……5年前に……死んだ」
「今は……いつだ……? 」
こんな時でも何故か冷静を保っていられる自分を少し不思議なように思えたのだが、そんなことは置いておこう。
今はまだ慌てるような時間じゃないと思いたい。
不思議と体は軽く、今までと同じ感覚であった。
「……起きたか。リリ・ゼラニウム。いや、真名ロイス・リリ・デージー」
見覚えのない金髪の少年が寝ていたベットの隣にある椅子に座っていた。
「あなたは誰なの? なぜ私の名前を知っているの? 」
聞きたいことが沢山あった。
自分が気を失っている間に何が起こっているのかを理解したかった。
そして、あの約束の日が近いのならそこに向かう準備をしたかったからだ。
「落ち着け。ロイス。何故デージー家の申し子がここにいるかは分からない。でも、ここに来たってことは相当大変なことに巻き込まれたんだろ? 」
この男はあからさまに何かを知っている様子だった。
もしかしたら、あの日父親に言われた意味が分かるかもしれない。
全てを話すことにした。
「私がここに来た日、ゼラニウム家の王妃が何者かに殺されたの。理由は分からない。でも、ミラ……王子がなにか関わっているは……ゲホッ……ゲホッ……」
突然喉を掻き切るような痛みに襲われた。
それを見て男は何かを察したかのように肩を叩く。
「ある程度は理解した。ロイス、これから俺の言うことは、どんなことであろうと受け止める自信はあるかい? 」
真剣な顔立ちだった。
今までの人生の中で色んなことがあったが、それ以上にありそうな大きなことに少し恐れがあった。
それでも聞かなければという使命感に駆り立てられ、そっと首を頷けた。
「そうかい。なら話そう。5年前、君の父親であるクラム……クラム・ゼラニウムが討たれた。それだけではない。他にも君の付き人、ゼラニウム家に仕えてきた家臣たちが突然何者かに殺されている」
想定外の事だった。
父親の訃報ならまだしも、何もしていない自分の直近までもが殺されているという事に驚きを隠しきれなかった。
「5年前……? 今は……いつ……? 」
気になることは沢山あった。
最初に気にしたのはやはり時間の事だった。
「君がここの別荘で倒れてから5年が経過している。理由は分からない。何せ、自分が来た時にはもう気を失っていたからな」
時間の進み具合は残酷だった。
約束の日まで時間が無い。
こんなにも長い時間寝ていたのに足腰の衰えがないのは不幸中の幸いなのだろう。
ゆっくりとベットから立ち上がり、揺らつく体を支えながら出口へと向かって歩き出した。
「行かなきゃ……キロルの所へ……」
足元を見ながら前へと進み、扉へと手をつけた時であった。
男は再び肩を叩いた。
「ごめん。ロイス。守れなかった……」
彼は悲しい顔をしていた。
「守れなかったって何を……」
ポケットから首飾りを取り出した。
その首飾りの装飾部にはスターチスの花が付いている。
「君の……大切な……人を……」
この言葉を聞いた時、この人が何を言いたいかが分かった。
「え……? 」
これ以上に出る言葉が無かった。
涙が自然と流れてくる。
「キロルは……5年前に……死んだ」
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