15年後のスターチス

小糸咲希

文字の大きさ
上 下
16 / 38
第二章「カリンの節」

009#眠気

しおりを挟む
目が覚める。
今日の天気はとてつもなく青い空が広がっていた。
朝にすることを終わらせると城下町に用事があるのを思い出し、身支度をし始めた。
軽く服装を整え、帽子を被ると家を出た。
ここから城下町は徒歩で10分ぐらい掛かる。
目的地に到着し、中へ入る。
いつもなら血気盛んな町は何故か静まり返っていた。
不思議な世界であった。
普段ならはしゃいで歩く子供たちの姿もなく、街で喋る大人たちもいなかった。
幸い、目的である店は空いていたのでそこに向かい買い物を済ませた。
帰り際どうしても気になったので店主に状況を聞いてみた。

「今日とても町が静かですがなにかあったんですか? 」

その質問に対し、店主は少し驚いた様子を見せたが、直ぐに答え返してくれた。

「一昨日か? 前国王様がお亡くなりになられてな。今日新しい国王様が継かれたのだが、そいつが戦争するって言い出してな。今大騒ぎでみんなひきこもっているんだよ」

想定しているよりもとても大きな出来事だった。
国王が新しくなった?
もしかしてジョンがこんなことをしているのではないかと心配になった。

「国王様の新しい名前って分かりますか? 」

確認のために一応聞いてみた。

「えーと……ジョンだった気がするな」

最悪なことになっていた。
先に浮かんだのは国の戦争のことや戦争を仕掛けられた国の心配ではなく、ジョンのことだった。
 
「分かりました……。ありがとうございます」

この時の表情はとても暗かったと思う。
それでも足の運びは止まらなかった。
ただひとつ頭に浮かんだのは、ジョンに会わなければということだけである。
お城の中に正々堂々と入れる保証はなかった。
ダメ元ではあるが1回行ってみようと思い、城の前の扉へと足を運んだ。
偶然なのかは分からないがたまたま正門の扉が開いており、呆気なく侵入ができた。
中に入った時だった。
突然頭にとてつもない痛みが襲ってくる。
中を抉るような途方もない痛みはすごくキツイ物だったが、数歩行けばなんともなくなった。
多分大丈夫だろうと思いもっと先へ足を運んで行った。 
石造りの廊下は何となくであるが不気味に感じた。 
もう少し歩くと赤色の大きなドアが現れた。
自分の身長の数倍はあるであろう。
その大きさに圧巻されながらもゆっくり扉を引いて中へ入った。
その中にはジョンがいた。

「……キロル。来たのか……」

赤色の王族衣装に身を包んだジョン。
いつも通りの顔をしていた。

「ジョン……戦争なんてやめようよ……」

真っ先に出たのはこのセリフだった。
その言葉を聞き、ジョンはいつもの笑顔で笑っていた。

「それは……出来ない」

「なんで? 」

「なんでもだ! 分かったらさっさとどっかに行け! 」

当たりが強くなっていた。
どんだけきつい言葉を言われようと今日は絶対に引かないと決めていた。

「俺は自室に帰る。次見かけたら、一生ここに来れないようにしてやるから」

ゆっくりと背中を向き歩き始めるジョンにどんな声をかけたらいいか分からなかった。
思ったことを大声で叫ぶことにした。

「君って、辛い時いつも笑っているよね。どんだけしんどくても笑って、自分の感情を押し殺して……」 

足を止め背中を向けたまま、彼は一向にこちらを向こうとはしていない。

「親父が死んだ今、俺が意志を継ぐしかないんだ……だから、キロル……ごめん」

頭を下げて立ち去っていく彼を止めたかった。
少し怖かった。
足も震えていた。
それでも、ここで止めなければいつか後悔する日がくる。
前世でも、嫌なことは逃げてさっきも喧嘩して別々になった。
ここでまた同じことをしたら今度は一生会えないかもしれない。
言うなら……今しかない。

「本当にそれが本心なの? 本当にバカ。いつも笑って、自分の意見を言わないでやり過ごそうとしてる! 辛いことがあったら助け合うってあの日約束しただろ! 自分だけで溜め込まないで少しは人に頼ることも覚えろよ! 馬鹿野郎! 」

今までにないほど大きな声で叫んだ。
周りの兵士の目つきは変わり、数人は確実に武器を構えていた。

「ジョン……いつかの日、約束したよね……? 抱え込むなら2人で背負おうって……」

彼は振り向き始める。
それでも体は疲れていたのか、どんどんと力を失っていく。
どうしてだろう……こんなにも大変なのに……眠気が酷くなっている……。
急にくる脱力感とジョンが何かを大声で叫んでいるのがわかった。
力が入らなくてそのまま地面へと叩きつけられる感覚の痛みはじわじわと遠くなって行っていた。
そのまま地面へと叩きつける衝撃と暗くなる世界を眺めてるのであった。

第二章[完]
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...