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しおりを挟むアリスの希望により海岸レストランにはゴンドラは使用せずに歩いて向かうことになった。
賑わいを見せていた街はすっかり落ち着き、運河から水の流れる音が優しく聞こえる。
辺りを照らすオレンジ色の街灯と眩いばかりの星空が広がっていた。
歩みを進めるアリスとベルーゼの間には沈黙が続いていた。
アリスは何か考え事をしているような様子でぼんやりと空を見つめ歩いている。
ベルーゼはアリスに掛ける言葉が見つからずにいた。
『アリスの気持ちを拒絶した』という変わらない事実がベルーゼの胸を締め付ける。
(お嬢様は、強引に拒絶をした俺を嫌いになってしまうだろうか。
例え嫌われてしまったとしても、ずっとお嬢様の側にいたいことは変わらない。)
ベルーゼは決意を新たに大きく息を吸って、ゆっくりと静かに吐き出した。
ふと夕日に染まったアリスの顔が浮かんだ。
瞳を潤ませ、言葉に詰まりながら一生懸命に想いを伝えてくれた。
お嬢様が、俺を、男として。
『わたくしは、ベルーゼが大好きですの。』
ベルーゼの胸がドキリと大きく跳ねる。
可愛くて愛おしくて堪らない“子”からの”女性”として
意識して欲しいというお願いは、図らずもしっかりとベルーゼに届いていた。
(いや、何ドキドキしてるんだよ、俺。)
顔に熱が帯びるのを感じて、思わず頭を掻いた。
特に会話も見つからないまま、海岸レストランに到着するとアランの姿があった。
アランは2人の様子を見て、一瞬ハッとした表情を浮かべたが、
すぐにいつもの穏やかな笑みに戻る。
「お疲れ様。2人とも来てくれてありがとう。
珍しいね・・・、歩いてきたのかい?」
ベルーゼはアランからの指摘にぎくりとしながらお辞儀をする。
きっとアリスの様子に何かを感じ取ったのだろう。
アランにとってアリスは目に入れても痛くないような
可愛くて可愛くて仕方ない大切な娘である。
そんな大切なアリスを傷付けてしまったベルーゼは、
居た堪れない気持ちでいっぱいになり、口をぎゅっと結んだ。
「お父様もお疲れ様ですの~。今日は、歩きたい気分でしたの。」
「ミュージカルは楽しめたかい?」
「ええ、迫力があって、とても素晴らしかったですの。」
「楽しめてよかった。お化粧した姿もとても似合っているよ。
ベルにサプライズするんだって、とても張り切っていたもんね。」
「・・・ソウデスワネ。」
アリスはシュンと肩を落とし、カタコトになって返事をした。
アランはコホンと咳払いをして、話題を変える。
「アリー、研究所の方は大丈夫だったかな?」
「キリの良いところまで進んだから大丈夫ですわ。」
「さすがだ。でも、あんまり無理しないようにね。」
アリスはコクコクと頷きながら返事をする。
「勇者様ご一行はまだいらしていなくてね。
悪いけれど、少しお店の中で待っていてくれるかな?星の間だよ。」
「分かりましたわ~。」
「ベル。アリーを頼んだよ。」
「・・・承知いたしました。」
何処となくアランの語尾が強いような気がした。
アランの言葉に他意があるように感じてしまうのは、
先程の出来事があったからだと、ベルーゼは自身を納得させると
アリスをエスコートしながらレストランへと入った。
レストランの星の間は、大きな窓から海を見ながら食事が出来る部屋だ。
夜空に輝く星が穏やかな海に映し出され、幻想的な景色を見せる。
室内には程よい明るさの照明とロウソク、白を基調とした品のよいインテリアが並ぶ。
雰囲気のよいこのレストランは客人に喜ばれるためアランがよく会食に使用する。
アリスの椅子を引き、部屋の入り口に待機するため離れようとしたとき、
とても小さな声で呟く声が聞こえた。
「ベルーゼ・・・、ごめんね。」
アリスは憂いのある表情を浮かべると、目を伏せて床を見つめた。
「おじょうさ」
「アリスさん!!!!!!!!!」
ベルーゼの声を遮るように、どこかで聞いたことのある声が部屋中に響き渡る。
大きな声に驚いたアリスの身体がビクリと跳ね、声のする方へ視線を向けた。
声の主は悪びれもせずアリスに近付くと両手を伸ばして手を握る。
「アリスさん、エドワードです。
もしかして、とは思っていたけれど、領主さんの娘さんだったなんて。
また会うことが出来て本当に嬉しいよ。」
(また勇者かよ!!なんてタイミングの悪い・・・。
お嬢様と距離が近くないか?いきなり手を握るなんて!)
ベルーゼがエドワードに敵意を向ける中、
アリスはエドワードに握られた手をほどくと、席を立ちカーテシーをした。
「ごきげんよう。勇者様。」
「こんな短期間に何度も会えるなんて、もしかして僕たち、
運命の赤い糸で結ばれてい・・・いてててて」
遅れてやってきた武闘家の娘、ドロシーがエドワードの耳をつねる。
アリスからエドワードを引き離すと、アリスから一番遠くの席に座らせた。
「ごめんなさいね。うちのバカが。」
「いえ、問題ないですわ。」
アリスが穏やかな笑みを浮かべると、
エドワードもドロシーもぽーっと顔を赤らめ見入っている。
程なくして勇者一行の残り2人とアランも部屋に入ると、会食が始まった。
アリスに話し掛けるタイミングを逃したベルーゼは、
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、部屋の入り口に移動をすると姿勢よく待機を始めた。
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