眼ノ球

*花*

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五章 本当は……【前】

七.再夢

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「っ……!?何だよこれ……!?」

ひゅっと息が細くなる。大勢の目玉から、血の匂いが漂ってきて、胸が苦しくなって、辛くなる。俺は驚きと戸惑いで、その光景を眺めることしか出来なかった。そして、この光景を見て、俺は思い出した。『あの夢』のことを。そのことを意識し始めた時。
何だか体が重くなった気がした。身動きが取れなくなっているような気がした。勝手に嘲笑う声が聞こえてくる、幻聴も感じた。手が伸びてくる、幻覚も。
俺はズブズブと真っ暗闇の世界へ溺れていく感覚を覚えた。目玉がだんだん消えていく。動揺している月琉も真っ暗に染め上げられる。二人とも瞬時に消えた。もう誰もいない。ここに残されたのは、無数の目玉と異常な自分だけ。ここは俺の部屋なのに。いつもなら平然としたふつうの一軒家なのに――

ゆっくりと目を閉じていく。心音がとっ、とっと静かに響く。なぜだか呼吸が遅くなる。いつもの夢の中なら、怖くて逃げ出したくて堪らないだろうけど、今は違った。冷静に、ただ考えていた。

どうして、ここにいるんだろう。
何で俺は今、こんな目にあっているんだろう。
どうしたら、ここから出られるんだろうか――

そんなことを考えていても、ただ闇は暗く深くなっていくだけだった。まるで底なし沼のように、どっぷり沈んでいくだけだった。体を動かさなくちゃ、行動しなくちゃと自身に言い聞かせてみても、体は岩のように重く、動かせない。何も出来ない。目だけ動かせたって何の役にも立たない。いや、俺自身この世に何の役にも立ってないだろ。闇に蝕まれ、光を失っていく中、ぼーっと思った。

俺は一体――


どうしたらいいんだ?

――もう死んでしまってもいいんじゃないか?だって、誰も俺のことを必要としていないだろ?

もういっその事、このまま暗闇の夢の中で――

俺が誓った『生きること』を諦めかけていた時。ふとどこからか微かな声が聞こえてきた。黒まみれの夢に、ぽうと一つの淡い光が灯ったような気がした。声の正体を探りたいが、体が動かない。俺は必死に目で探した。あちこちへぎょろぎょろと動かした。すると今度は、「……しんた!……」と誰かが必死になって俺の名前を叫ぶ声が聞こえた。でも、耳にはぼんやりとしか入ってこない。声も出ない中、俺は『眼』だけで何とか思いを伝えようとした。もう、誰でもいい。誰か、誰か助けてくれないか。淡い光は、徐々に煌々と明るくなっていき、輝いていた。無数の目玉は、一つ、二つとしゅわしゅわと粉々に灰になって消え失せていく。それと同時に、ぴきりと亀裂が入った。その隙間からは、『希望』の一筋の光が差し込んできている。ほんの僅かな光でも、眩しいくらいに、目の中へ容赦なく入ってくる。そしてまた声が聞こえてくる。すると、亀裂はどんどん深くなっていった。ぴき、ぴきと、夢の終わりを伝えるように、沢山の亀裂が入る。今にも崩壊しそうなくらいに。

そしていつの間にか、体は動いていた。強い束縛感から解放されたように。
俺は手を前に、ぐっと伸ばしていた。
足が小さく一歩前に出ていた。

隙間から漏れる光明を、この手で掴み取るように。あの声をこの耳で聞くために。あの正体をこの目で確かめるために。

――

それが俺の人生での使命だから。それに俺には、『あいつ』がいるじゃないか。最初会った時は「何だこいつ」とか「変なやつ」だって思っていた。けど、一緒に生活するにつれて、そんな程度の奴じゃないって思い知らされたんだ。時にイラつくところもあるけど、根っからは良い奴だって知った。俺を助けてくれる、頼もしい奴だって知ったんだ。

――『アイ』。俺はお前がいなかったら――

すると、バキッと真っ二つにとても大きな亀裂が入った。終わりを告げるように、真っ暗闇の夢は粉々に崩れていき、カッと光が溢れ出てきた。俺は咄嗟に目を強く瞑った。


少しして目を開けると、そこにはいつも通りの俺の部屋が広がっていた。
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