眼ノ球

*花*

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二章 剥き出しの闇

六.説明

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「…………んで、説明って何だよ」

何とか俺は家に辿り着いた。家の鍵を開けた。ガチャと音を立てて開いた。家の中は真っ暗闇と静寂に包まれていた。。そりゃそうか。誰も家にいないわけだし。
俺は居間の電気をつけ、洗面所で手洗いとうがいをした。それとついでに顔も洗った。さっきまでのことを洗い流すように、バシャバシャと勢いよく顔に冷たい水をかけた。
そして、居間へ戻り、俺はまだ食べていない弁当を温めた。
すると、ふと俺の背後から視線を感じた。多分アイだろう。

「おい、どうした?」
「ドウシタ?ジャネーヨ!オレガアレダケ夜道ハ気ヲ付ケロッテ言ッタノニ!」
「いやいやいやいや、俺のことも考えて欲しいものだよ。俺だって気を付けてたよ!だけどあんな暗がりに急におっさんが出てきて、いきなり俺を襲ってくる!でもって変な生き物が現れ……」

あ、そうだよ。あの生き物の正体って一体なんなんだ?どこから来たんだ?

「な、なぁ……あのおっさん食べた生き物って……」
「アァ、オレダケド?」

え。

俺はその一言で尽きた。アイは至って平然な目をしている。その目には「なんで?」という疑問が浮かんでいるように見えた。俺はぽかんと口を開けたままアイを見つめた。それから宙を見つめたり、またアイを見つめたりするのを繰り返した。

こいつが?あのおっさんを?ありえないだろ。こいつが。

そんな俺の行動を見てたアイは、「キィ……」とため息をつくように鳴いてから、目を伏せた。そして、「今カラソノ謎ノ物体ニツイテ説明スルツモリナンダガ……」と言ってきた。
それとほぼ同時にピーピーと電子レンジの音が鳴った。俺は温かい弁当を取り出し、テーブルの上に置いた。アイも当たり前のように俺の前でふよふよと浮いていた。

「いただきます」

と俺はきちんと挨拶をしてから、弁当の蓋を取った。ほかほかと湯気が沸き立っていた。割り箸を割り、食べ始めた。
俺の様子を見ていたアイは「話シテモイイカ?」と聞いてきたので、俺は頷いた。アイは直接脳に話しかけてきた。だが今回はキィーンと言う音は鳴らなかった。少し不思議に思いながらも、俺はアイの話を聞いた。

「じゃあ、話すか。まずはあの謎の物体について。何で俺があの姿に変化したかと言うと、まぁ、ざっと言って、『俺が気に食わないやつは食べる』あ、いや、『晋太を守るために敵を倒す』の方が響きがいいか。ほら、前にも言っただろ?俺がここに来たのは『お前のことを守るため』『そばにいるため』だって。言われたことはしっかり果たさないとな。だから俺は食った。あいつを。後、俺は自由に形が変形できるからな。お前が階段から落ちそうになった時、クッションみたいになっただろ?そういうことだよ」

ぺらぺらと喋りまくるアイに対して、俺はご飯をもぐもぐしながら聞いていた。その頭には『?』が沢山浮かんでいた。なかなか上手く事情を飲み込めていない中、それでもアイはまだ話し続けてきた。

「あ、後補足することがある。お前、この社会が今とても暗い感じがすると言ってただろう?」
「あ、あぁ」
「でも、こういう風に見えるのはだけなんだ。ほら、俺はお前の兄……つまり人から生まれたものなんだ。一方あの紫色の瞳のやつは人の気持ちから生まれたもの。だから、俺みたいに喋ることが出来ないんだ。それで、あいつらは文字で表している」
「そうなのか」
「それと後もう一つ。お前、俺が見えるだろう?後あの紫色の瞳の目玉、文字、霧。これは全て、普通の人には見えないんだ。お前から見える景色は何もかも暗いものに見えるが、普通の人からして見れば、そうでもないんだよ。いつも通り。変わってないんだよ。で、後」

まだあるのかよ……

俺は弁当を食べ終わり、片付けてから、ソファーに座った。テレビでも見ようかと、リモコンを手に取った。そして電源を入れた時。アイが急に「キィー!!」と鳴いてきた。
何なんだよ……と思い、渋々ながらもアイの方を見た。

「ナイスタイミング!!後、この社会では、あの目玉……いや、自分の気持ちを隠して生活している人、そして全く……では無いと思うが、気持ちが見えてこない人もいるんだよ。ほら、テレビの方を見て」

と言ってきたので、俺はテレビの方に目をやった。テレビにはニュースが映っていた。女性キャスターが明るい声で何かを話していた。すると、また後ろから声が聞こえてきた。

「凄く綺麗に微笑んでるだろ?そして、お前には見える目玉、渦巻いている霧、文字が見えないだろ?」
「あぁ……確かに。じゃあ、皆が皆めっちゃ暗いって訳じゃないのか」
「んー、まぁそういう事になるな。だから、人々の悪な気持ちが見えてしまっているから、本来、普通に見える景色が、余計に暗く見えてしまう」

アイはそう言った後、「話はこれでおしまいだ」と言い、ふわふわと浮かびながら、俺の隣に来た。

「お前……ほんとよく俺の近くに来るな」
「イヤ、ソレハ、オ前ガ寂シクナラナイヨウニ……一人デ悲シクナイヨウニ、ソバニイテヤッテルンダ!感謝シロヨナ!」
「…………ふふっ、それ本当かよ」
「オイ!何笑ッテル!オレハ本当ノコトヲ言ッテイルンダゾ!!」
「そうかそうか」

今日の朝にも思ったけど、やっぱり、誰かがいてくれるって嬉しいな。

俺はアイの方を見つめた。アイは「ナンダ?」とでも言うように、少し目玉を傾げていた。深紅の瞳が俺を見つめ返してくる。

お兄ちゃん……

俺の頭に、兄のことが過ぎった。アイが兄の眼玉から出来ただなんてまだ未だに信じられていない。だけど、こいつが嘘をつくようなやつだとも思えない。時には色々ちょっかいを出してくるけど、性格は兄と同じで、何の仕事に対しても責任感が強くて、真面目で、頼れる存在だった。そんなやつが言うんだから、きっと本当だ。
そして、アイが俺にとって兄のような存在になるんだよな。かけがえのない大切な存在に。こいつと日々を過ごすことになるのか。

俺はとても小さな声で「ありがとな」と呟いた。

「ア?何カ言ッタカ?」
「いいや~何にも。じゃ、俺そろそろ寝るから、歯磨きしてくる」

俺はソファーから立ち、洗面所へと向かった。やっぱりアイはついてくる。まるでペットのように。俺は歯磨きを終えた後、居間の電気を消し、自分の部屋へと向かった。


「それじゃ、おやすみ」
「アァ、オヤスミ」

体がベッドに吸い込まれていく。そして、俺の体は深く沈んでゆく。布団の中で、俺はアイは浮かびながら寝るのかという疑問を持ったが、今は眠気の方が勝ってしまい、俺はゆっくりと目を閉じた。

どうかあの夢は見ませんように――





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