眼ノ球

*花*

文字の大きさ
上 下
3 / 43
一章 夢は現実に

三.今

しおりを挟む
「生きる」と決心した俺だが、今は生きるという気力をだんだんと失いかけていた。

支えは、すかすかの骨のように脆くなっていて、『生きる』ことがとても辛く、苦しくなっていた。


やっぱりこれも自分の不幸体質のせいなのか――


俺はとある会社で働く会社員、三十三歳。独身。俺が働いている会社は、ブラック企業だと言ってもいいだろう。俺が勤めている会社は、労働時間がとても長く、休日もほとんど休みがない。日々、残業、残業の繰り返しだ。しかもその上、毎日俺を厳しく叱ってくる。ああだこうだとしつこく。

それで疲れている上で、俺が昼食を食べている時、ふとこんな会話が耳に入ってきた。

「晋太さんって、塩顔でイケメンだよね~!センター分けの髪型とちょー似合ってる!!」
「うんうん!それに、私、晋太さんの綺麗で、めっちゃ好み何だけど!」
「それ、分かる~!」

はい出た。

俺は褒められるのが苦手だった。しかも目のことなんて周りにどれだけ言われたことか。
俺は幼い頃から目のことはとてもよく褒められていた。「細目だけど綺麗でかっこいい」だとか「色気を感じる目」だとか色んなことを言われてきた。

そんなに俺の目がいいのか…………?

とたまに自分自身を鏡で見つめてみるが、よさがよく分からなかった。

会社では嫌なことが毎日、毎日続く。
上司からの厳しい叱り声。周りから聞こえてくる苦手な褒め言葉。
あー、うるさい、うるさい。黙ってくれよ。

でも、「うるさい」という言葉の裏腹で、その度に自分を責め続けていた。

全部、俺のせいなんだ――
俺の出来がよくないから――
と。

そして、『生きる』という気力も落ちてきていた。もううんざりだ。辛い。苦しい。死にたい。

――

頼れる人なんていないんだ――
助けてくれる人なんていないんだ――

……じゃあ、俺を心配してくれる人も?
いないのか?

『だったら、俺なんかいなくても――』


そう思っていた時に、謎の目玉が現れたんだ。本当、こんな時に何の用なんだ。

ふと背後で「大丈夫カー?」とまた、脳に直接届くような声が聞こえてきた。その声に反応し、少し顔を上げた。俺はそこで衝撃的な場面を目撃してしまった。

「え」
「ン?」

…………ドアを……すり抜けている……!?
……どうやってだ……??

俺は混乱し、青くなりながら、震えた声でこう言った。心臓がバクバクしている。

「お前……本当に何者なんだよ……」
「オレカ?オレハ……ッテ、ア!オイ!待テ!!」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ!!ついてくるな!!」

俺は恐怖のあまり、その場から逃げたくなり、猛スピードで階段を駆け下りていった。
その時。

あっ……

俺はスピードを出しすぎて、高いところから階段を踏み外した。

やばい。落ちる。
もしかしたら、これって、死ぬんじゃ――

俺はスピードに乗り、そのままごろごろと転げ落ちていった。でも最後は、マットのような、少しふわふわとした物があり、奇跡的に頭は打たなかった。

「痛っ……っ……」
「オイ!オレ二感謝シロ!」
「…………へ?」

俺はぺたぺたとマットのような物を触ってみる。今だからこそ気づいたことがあった。

少し冷たい……しかも、ぶにゅぶにゅしてる……深紅の色…………これってもしや――

「うわっ!!目玉……」
「フン!オレガイナキャ、オ前、死ンデタゾ!」
「あ……確かに……そうだな…………ありがと。さっきはごめん。変に疑って」
「……オレモ……悪イヨナ……急二現レタラ驚クヨナ……俺ノ方コソ、ゴメンナ……」

と目玉は、俺に負担をかけないよう、ゆっくりと初めて出会った時の姿に戻った。

「……オ前、一人デ歩ケルカ?」
「…………大丈夫だ」
「オウ、分カッタ」

と目玉は少し心配そうにこっちを見てから、後ろを向き、俺の前をふよふよと浮いていた。

今だ――

俺は最初からそうだった。裏で考えていたことがあった。この目玉を殺す。こんなやつ、俺に何をしてくるか分からない。しかも、どこから来たのかも分からない。あの時は優しく声をかけたり、心配してくれたりしてくれたが、本性は根っからの悪い悪魔かもしれない。俺の人生にはそんなやついらない。邪魔だ。そして、怖い。

心臓が今までにないくらい激しく鼓動している。
得体の知れないやつを殺そうとしているからか――

俺はよろよろと立ち上がった。まだ足や腕がズキズキと痛んでくる。俺はふつふつと湧き上がる殺意と恐怖心を拳に込め、ぶんと大きく振り上げた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

縁側と親父とポテトサラダ

ホラー
流行りにのってみました。

さきみだれ

積雪の銀ギツネ
ホラー
むかしむかし、山と山に囲まれた小さな村がありました。 そこにはサクラが男と過ごす、小さな幸せがありました。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

冥界行きの列車

倉谷みこと
ホラー
 深夜二時、駅の四番ホームに『冥界行きの列車』が姿を現す。列車の扉が完全に開くまでその場にいると、駅員らしき男に無理やり列車に乗せられてしまう――。  その町の駅には、そんな怪談話があった。  その真偽を確かめようと、田沢彰彦(たざわ あきひこ)、笠井忍(かさい しのぶ)、大貫兼悟(おおぬき けんご)の三人は駅に集合した。  午前二時、四番ホームで待機していると、周囲の空気が一変する……。 *小説家になろうとカクヨムにも掲載してます。

寺院墓地

ツヨシ
ホラー
行ったことのない分家の墓参りにはじめて行った。

青少年に対するゲームの影響

蓮實長治
ホラー
たのむ……誰か……あのゲームの中の……かつて俺だった「モノ」を……殺してくれ……

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

処理中です...