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supplementary tuition番外編
記憶の残影 04
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以前、担任代行で夢月がSHRに来ていた時に、「クレームはチャンスだ」と語り出した事がある。
何の話かと思えば、マーケティングにおけるノウハウと受験勉強のコツとを掛けたアドバイスだった。
クレーム=苦情、企業や商品などに対する不満をそのまま欠点と捉え、そこを改善する事でプラスに変える。
受験勉強のコツも自分の弱点を知り、対処、克服に移行できるかどうかだと、目を輝かせて熱弁していた。
自分の弱さを知る事が、強さに繋がる。
前置きは長かったけれど、納得のいく話だった。
当時は机上の範疇であれば、自分の弱点を見つけるのも克服するのも、そんなに難しい事ではなかったのだ。
今となっては弱さを認めた段階で、その弱さに屈伏したような敗北感がじわじわと込み上げ、そこから目を逸らそうとしてしまう。
守りたいものがある、強くあろうとすればするほどに、自分の弱さを認識する事が意外と難しいのだと知った気がする。
雲一つなく晴れ渡る空に、飛行機が白い軌跡を残し飛んで行く。秋も深まる季節だと言うのに、真っ直ぐに照り付ける陽射しに汗ばんだ。
「おいおい真崎くん、ヤル気が見えないぞー」
3A執事喫茶、と書かれたプラカード片手に空を見上げる有都に佐竹がペットボトルを差し出す。
サンキュ、と受け取った有都は佐竹の顔を見て怪訝に眉を寄せた。
「…………執事って化粧すんの?」
「そっち系の執事?」
「どっち系だよ」
「いーんだよ、雰囲気でりゃあ」
いつもはワックスで固め上げている佐竹の前髪が今日は額を隠している。
手軽に誂えた感の漂う燕尾服に、眼鏡をかけ、手には白い手袋、執事に成り切っている今日の佐竹は普段と姿勢も違って見える。
今日は学院祭初日、有都のクラスは教室を使っての執事喫茶をオープンしているのだ。
学院祭の演し物は、体育祭で勝ち得た順位で優先的に実施が決まる。クラス内に於いても参加選手に役割を選べる権利があるのだ。
「真崎、お前は自分で呼び込みヤルって言ったんだかんな、ちゃんと呼び込めよなー」
「燕尾着て『お嬢様』なんて言えるかよ」
「真崎が執事やったらぜってーウケるじゃん!客来んじゃん?儲かるじゃん!卒業旅行ハワイとか行けんじゃねー!?って企画してやったのに、ノリ悪りぃな」
「卒業旅行行かねーし」
「なんっでだよ!どこまでノリ悪りぃんだよっ」
「置いていけねーだろ」
すでに執事とはかけ離れた動揺ぶりの佐竹を有都はジロリと横目に睨んだ。
二人が立つ校門から玄関までの道には、一般開放と客を呼び込もうとする在校生でそれなりに人通りがある。
間違っても「夢月」と言う固有名詞だけは口に出せない。
事情を知る佐竹には察して貰わなければ困る。
「……………………? ──── っ、あー、だよな」
言わんとする事が無事に伝わったのか、佐竹が納得するように頷いた。
「だからオレで稼ごーとすんなよ」
「なーるほどね、真崎お前、彼女来ないから寂しーんだろ?だから高校最後の学院祭もテキトーなんだなっ!」
体育祭の時にもそんな事を言われた気がする。
寂しいかと言われるとピンと来ないが、何がどうあれど彼女のいない校内は退屈で仕方がない。
反感と諦めの中にいた1年目も、ひたすらに焦がれた2年目も、必死に口説き落とした3年目に負けないくらいに自分の中には彼女がいた。
「…………そーかもな」
口元だけに小さな呟きを残し有都は校舎を振り返る。
愉しげに飛び交う賑わいがやっと聞こえてきた気がした。
何の話かと思えば、マーケティングにおけるノウハウと受験勉強のコツとを掛けたアドバイスだった。
クレーム=苦情、企業や商品などに対する不満をそのまま欠点と捉え、そこを改善する事でプラスに変える。
受験勉強のコツも自分の弱点を知り、対処、克服に移行できるかどうかだと、目を輝かせて熱弁していた。
自分の弱さを知る事が、強さに繋がる。
前置きは長かったけれど、納得のいく話だった。
当時は机上の範疇であれば、自分の弱点を見つけるのも克服するのも、そんなに難しい事ではなかったのだ。
今となっては弱さを認めた段階で、その弱さに屈伏したような敗北感がじわじわと込み上げ、そこから目を逸らそうとしてしまう。
守りたいものがある、強くあろうとすればするほどに、自分の弱さを認識する事が意外と難しいのだと知った気がする。
雲一つなく晴れ渡る空に、飛行機が白い軌跡を残し飛んで行く。秋も深まる季節だと言うのに、真っ直ぐに照り付ける陽射しに汗ばんだ。
「おいおい真崎くん、ヤル気が見えないぞー」
3A執事喫茶、と書かれたプラカード片手に空を見上げる有都に佐竹がペットボトルを差し出す。
サンキュ、と受け取った有都は佐竹の顔を見て怪訝に眉を寄せた。
「…………執事って化粧すんの?」
「そっち系の執事?」
「どっち系だよ」
「いーんだよ、雰囲気でりゃあ」
いつもはワックスで固め上げている佐竹の前髪が今日は額を隠している。
手軽に誂えた感の漂う燕尾服に、眼鏡をかけ、手には白い手袋、執事に成り切っている今日の佐竹は普段と姿勢も違って見える。
今日は学院祭初日、有都のクラスは教室を使っての執事喫茶をオープンしているのだ。
学院祭の演し物は、体育祭で勝ち得た順位で優先的に実施が決まる。クラス内に於いても参加選手に役割を選べる権利があるのだ。
「真崎、お前は自分で呼び込みヤルって言ったんだかんな、ちゃんと呼び込めよなー」
「燕尾着て『お嬢様』なんて言えるかよ」
「真崎が執事やったらぜってーウケるじゃん!客来んじゃん?儲かるじゃん!卒業旅行ハワイとか行けんじゃねー!?って企画してやったのに、ノリ悪りぃな」
「卒業旅行行かねーし」
「なんっでだよ!どこまでノリ悪りぃんだよっ」
「置いていけねーだろ」
すでに執事とはかけ離れた動揺ぶりの佐竹を有都はジロリと横目に睨んだ。
二人が立つ校門から玄関までの道には、一般開放と客を呼び込もうとする在校生でそれなりに人通りがある。
間違っても「夢月」と言う固有名詞だけは口に出せない。
事情を知る佐竹には察して貰わなければ困る。
「……………………? ──── っ、あー、だよな」
言わんとする事が無事に伝わったのか、佐竹が納得するように頷いた。
「だからオレで稼ごーとすんなよ」
「なーるほどね、真崎お前、彼女来ないから寂しーんだろ?だから高校最後の学院祭もテキトーなんだなっ!」
体育祭の時にもそんな事を言われた気がする。
寂しいかと言われるとピンと来ないが、何がどうあれど彼女のいない校内は退屈で仕方がない。
反感と諦めの中にいた1年目も、ひたすらに焦がれた2年目も、必死に口説き落とした3年目に負けないくらいに自分の中には彼女がいた。
「…………そーかもな」
口元だけに小さな呟きを残し有都は校舎を振り返る。
愉しげに飛び交う賑わいがやっと聞こえてきた気がした。
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