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supplementary tuition番外編
追憶の彼女 03
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過去二度のキャンプファイヤー、一度目はその場にいなかった。
二度目は、炎越しに彼女を眺めた。
18才になるまでは想いを明かさない。距離も縮めない。
その炎は自分への警めを噛み締めるには都合の良いものだった。
揺らめく熱が時折視界を遮ながら、彼女の微笑みを照らし、その距離を知らしめる。
炎がやけに綺麗で嫌味なほどに鮮やかだった。
後夜祭のキャンプファイヤー、それは恋人のいない男子生徒たちには神聖で特別なもの。
軽く30年以上前から校内で語り継がれてきた口伝である。
在校中にその炎を恋人と見なければ、生涯独身、運命の出会いには恵まれない、と言う。
それを頑なに信じる佐竹にとっては、今後の人生を脅かすほどに後夜祭のキャンプファイヤーは神聖な儀式なのだ。
「その炎、一人で見るになかにけり!」
「眉唾すぎ…………」
ジンクスを熱く語る佐竹を有都は受け流す。
信号が青に変わり歩き出した有都を追い越し、佐竹が前に出た。そして振り向くと、じろりと有都に非難の目を向けた。
「真崎、あのジンクス舐めてっと痛い目見るぜ」
「オレはどーでもいい」
「だよな、そうでしょうとも、あんな可愛いカノジョいたらそーなるわ!」
ホームセンターの入口で叫ぶ佐竹を横目に有都は素知らぬ顔で塗料コーナーを目指す。
ジンクスを信じてるか否かと問われたら、信じ込んではいない。
ただ炎越しに彼女を眺めながら「三度目は一緒に」そう思いはした。
隣に並んでそれを眺める事が、儚く奇跡の様に尊いことのように思えたのだ。
「有くん…………、有くんってばっ」
塗料の棚を眺めながら、思い耽っている有都の腕が不意に掴まれる。
聞き覚えのあり過ぎる鈴を転がすような声音に、有都は思い切り眉をしかめていた。
「もー、何度も呼んでるのにっ」
やっと有都を振り向かせた春香が、頬を膨らます。
「…………何の用?」
「用がないと呼んじゃダメなの?」
「見かけたからって声を掛け合う仲ではねーな」
腕を振り払う有都に、春香は不満げに顔をしかめた。
夢月から春香の事は聞いている。
蓮の一件を謝っていたと、春香なりに罪悪感を抱いているのだろうと、夢月は言っていたが…………
…………そーは思えねぇな。
それだったら見かけたくらいでは声をかけてこないだろう。
それに倦怠期がどうのと夢月に吹き込んだ張本人だ。油断ならない。
「有くんは何してるの?私はね、学校祭の買い出しぃ」
「……………………」
「ねーねー、聞いてる?ねー、有くん」
無視を決め込みペンキの缶を手に取る有都の顔を、春香が覗き込もうとした時だった。
「あっ、いたいた!置いてくなよ、真崎ぃ、軽く迷子になったじゃんか」
バタバタと靴底を鳴らし佐竹が棚の間を走ってくる。
佐竹の方向からは春香が隠れて見えなかったらしい。近づいて春香が有都の影から顔を出し、慌てて足を止めた。
「え?あ? ──── えっ?!真崎の追っかけの??」
見覚えのあるその顔に佐竹は狼狽ている。
このタイミングで佐竹と立ち去ろうと有都が春香に背を向けたとたん、春香がガッシリとシャツの背後を掴んだ。
「はじめまして、幼馴染の春香ですっ」
「あれ?幼馴染なんだ」
「はい、そーなんです」
「オレは真崎のクラスメイトやってる佐竹慎!よろしくね、春香ちゃん」
最初の狼狽えはどこへやら、幼馴染と聞いたとたんに佐竹は目を輝かせ距離を詰めてくる。
嫌な予感しかしない。
二度目は、炎越しに彼女を眺めた。
18才になるまでは想いを明かさない。距離も縮めない。
その炎は自分への警めを噛み締めるには都合の良いものだった。
揺らめく熱が時折視界を遮ながら、彼女の微笑みを照らし、その距離を知らしめる。
炎がやけに綺麗で嫌味なほどに鮮やかだった。
後夜祭のキャンプファイヤー、それは恋人のいない男子生徒たちには神聖で特別なもの。
軽く30年以上前から校内で語り継がれてきた口伝である。
在校中にその炎を恋人と見なければ、生涯独身、運命の出会いには恵まれない、と言う。
それを頑なに信じる佐竹にとっては、今後の人生を脅かすほどに後夜祭のキャンプファイヤーは神聖な儀式なのだ。
「その炎、一人で見るになかにけり!」
「眉唾すぎ…………」
ジンクスを熱く語る佐竹を有都は受け流す。
信号が青に変わり歩き出した有都を追い越し、佐竹が前に出た。そして振り向くと、じろりと有都に非難の目を向けた。
「真崎、あのジンクス舐めてっと痛い目見るぜ」
「オレはどーでもいい」
「だよな、そうでしょうとも、あんな可愛いカノジョいたらそーなるわ!」
ホームセンターの入口で叫ぶ佐竹を横目に有都は素知らぬ顔で塗料コーナーを目指す。
ジンクスを信じてるか否かと問われたら、信じ込んではいない。
ただ炎越しに彼女を眺めながら「三度目は一緒に」そう思いはした。
隣に並んでそれを眺める事が、儚く奇跡の様に尊いことのように思えたのだ。
「有くん…………、有くんってばっ」
塗料の棚を眺めながら、思い耽っている有都の腕が不意に掴まれる。
聞き覚えのあり過ぎる鈴を転がすような声音に、有都は思い切り眉をしかめていた。
「もー、何度も呼んでるのにっ」
やっと有都を振り向かせた春香が、頬を膨らます。
「…………何の用?」
「用がないと呼んじゃダメなの?」
「見かけたからって声を掛け合う仲ではねーな」
腕を振り払う有都に、春香は不満げに顔をしかめた。
夢月から春香の事は聞いている。
蓮の一件を謝っていたと、春香なりに罪悪感を抱いているのだろうと、夢月は言っていたが…………
…………そーは思えねぇな。
それだったら見かけたくらいでは声をかけてこないだろう。
それに倦怠期がどうのと夢月に吹き込んだ張本人だ。油断ならない。
「有くんは何してるの?私はね、学校祭の買い出しぃ」
「……………………」
「ねーねー、聞いてる?ねー、有くん」
無視を決め込みペンキの缶を手に取る有都の顔を、春香が覗き込もうとした時だった。
「あっ、いたいた!置いてくなよ、真崎ぃ、軽く迷子になったじゃんか」
バタバタと靴底を鳴らし佐竹が棚の間を走ってくる。
佐竹の方向からは春香が隠れて見えなかったらしい。近づいて春香が有都の影から顔を出し、慌てて足を止めた。
「え?あ? ──── えっ?!真崎の追っかけの??」
見覚えのあるその顔に佐竹は狼狽ている。
このタイミングで佐竹と立ち去ろうと有都が春香に背を向けたとたん、春香がガッシリとシャツの背後を掴んだ。
「はじめまして、幼馴染の春香ですっ」
「あれ?幼馴染なんだ」
「はい、そーなんです」
「オレは真崎のクラスメイトやってる佐竹慎!よろしくね、春香ちゃん」
最初の狼狽えはどこへやら、幼馴染と聞いたとたんに佐竹は目を輝かせ距離を詰めてくる。
嫌な予感しかしない。
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