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supplementary tuition番外編
秘密は蜜より甘く 2
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「面会、ですか?」
他愛もない話をしていると思っていた。
悠都の会社の近くに美味しい小麦パンの店がオープンしたとか、胎教には音楽がいいとか、そんな話の流れで唐突に悠都が「ところでね」と清水蓮の名を出したのだ。
「夢月ちゃんはデリケートな時期だし、切り出すのもどーかな、と迷ったんだがね。伝えるだけ、伝えようかとね」
戸惑う夢月に悠都は申し訳なさそうに眉を下げた。
清水蓮が面会を望んでいる ────
それは夢月にとって酷く歪な印象しか与えない、奇妙な申し出に思える。
有都に、なら分かる。
それを望む相手がなぜ自分なのか、その理由が気になって仕方がない。
それにだ、なぜ清水蓮の希望を悠都が伝えてくるのか、関係性が繋がらない。
「その反応からすると有都は何も打ち明けてはいないのかな?」
当惑して黙り込んだ夢月の顔を覗き込むように、悠都は首を傾げた。
その仕草は有都と同じだ。
「柴田さんから打診がいってるはずなんだよ」
刑事の柴田の名が出て、夢月は数日前に有都が電話を受け取っていたことを思い出した。
巡査部長から警部補に昇格し、以前のように気軽に出歩けないのだとそれを愚痴る内容だったと有都からは聞いている。
あの時、携帯電話を握る有都の横顔は確かに少し曇っていたのかもしれない。
清水蓮の事、新城柚李や園田に関わる話も出ているのだろう、と思わなかった訳ではない。
だけれど、今回の件に関して夢月は、何を伝え、何を伝えないかを有都に一任している。
有都が打ち明けていない何かがあると、知っているから。
「それならそれで、彼が伏せているなら面会は必要ないんだと思います」
そう告げると、一瞬悠都の眉根が寄せられたが、直ぐに目元は優しく緩んだ。
「有都のこと、信じてくれているんだね」
「…………大切にしてもらってますから」
改めて口にすると照れ臭くなり、夢月は右耳に髪をかけながら目を伏せた。
少し前なら揺らぐ気持ちもあったかもしれない。
だけれど、自分でも不思議なくらいに夢月は今穏やかに有都の隠し事を受け止めていた。
きっとその隠し事は後ろ暗いだけのものではなく、有都なりの考えがあるのだ。
配慮や労り、そう言う優しさを含む時に有都は隠したがる。
「参ったなぁ、こうもはっきり言われたら頼みにくいね」
「…………頼み?悠都さんが私に?」
「実はね、今日の来訪はやましい企みなんだよ」
目を合わせてきた悠都の瞳は切実にその色を変えていた。
まるで迷子の子どもを探し求める様に困窮し、縋るような、それでいて探し出す事を諦めない強さを沈ませた親の目に見える。
「有都がいると話にならない。夢月ちゃん、君にだけ打ち明けたい真実があるんだよ」
この時に、夢月はぼんやりと覚悟した。
きっと悠都のこの申し出は断れないのだと。
他愛もない話をしていると思っていた。
悠都の会社の近くに美味しい小麦パンの店がオープンしたとか、胎教には音楽がいいとか、そんな話の流れで唐突に悠都が「ところでね」と清水蓮の名を出したのだ。
「夢月ちゃんはデリケートな時期だし、切り出すのもどーかな、と迷ったんだがね。伝えるだけ、伝えようかとね」
戸惑う夢月に悠都は申し訳なさそうに眉を下げた。
清水蓮が面会を望んでいる ────
それは夢月にとって酷く歪な印象しか与えない、奇妙な申し出に思える。
有都に、なら分かる。
それを望む相手がなぜ自分なのか、その理由が気になって仕方がない。
それにだ、なぜ清水蓮の希望を悠都が伝えてくるのか、関係性が繋がらない。
「その反応からすると有都は何も打ち明けてはいないのかな?」
当惑して黙り込んだ夢月の顔を覗き込むように、悠都は首を傾げた。
その仕草は有都と同じだ。
「柴田さんから打診がいってるはずなんだよ」
刑事の柴田の名が出て、夢月は数日前に有都が電話を受け取っていたことを思い出した。
巡査部長から警部補に昇格し、以前のように気軽に出歩けないのだとそれを愚痴る内容だったと有都からは聞いている。
あの時、携帯電話を握る有都の横顔は確かに少し曇っていたのかもしれない。
清水蓮の事、新城柚李や園田に関わる話も出ているのだろう、と思わなかった訳ではない。
だけれど、今回の件に関して夢月は、何を伝え、何を伝えないかを有都に一任している。
有都が打ち明けていない何かがあると、知っているから。
「それならそれで、彼が伏せているなら面会は必要ないんだと思います」
そう告げると、一瞬悠都の眉根が寄せられたが、直ぐに目元は優しく緩んだ。
「有都のこと、信じてくれているんだね」
「…………大切にしてもらってますから」
改めて口にすると照れ臭くなり、夢月は右耳に髪をかけながら目を伏せた。
少し前なら揺らぐ気持ちもあったかもしれない。
だけれど、自分でも不思議なくらいに夢月は今穏やかに有都の隠し事を受け止めていた。
きっとその隠し事は後ろ暗いだけのものではなく、有都なりの考えがあるのだ。
配慮や労り、そう言う優しさを含む時に有都は隠したがる。
「参ったなぁ、こうもはっきり言われたら頼みにくいね」
「…………頼み?悠都さんが私に?」
「実はね、今日の来訪はやましい企みなんだよ」
目を合わせてきた悠都の瞳は切実にその色を変えていた。
まるで迷子の子どもを探し求める様に困窮し、縋るような、それでいて探し出す事を諦めない強さを沈ませた親の目に見える。
「有都がいると話にならない。夢月ちゃん、君にだけ打ち明けたい真実があるんだよ」
この時に、夢月はぼんやりと覚悟した。
きっと悠都のこの申し出は断れないのだと。
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