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Study147: somatoscopy「診察」
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白衣と薄化粧のせいか肌の白さが際立ち、まるで生気のない人形に見えてしまう。
真っ直ぐに夢月を捉えた瞳は、値踏みするかのように瞬きなく貫いてきた。
「どうぞ、お座りください」
少し低く落ち着いた声が告げる。
言われるままに目の前の椅子に座ると、彼女は問診表へと目を向けた。
問診表には生理周期から最終月経の開始日、妊娠検査薬の使用状況、過去の妊娠の有無、過去の病歴、アレルギーの有無の記入がある。
その真剣な横顔からは悪い感じは受けない。
真崎は清水の後輩に頼んだのだと言っていた。
リアクションからはそれがこの人だとは知らなかったようだが、清水はどうなのだろうか。
真崎と関係があったことを知りながらのセレクトだったのだろうか。
…………清水ならやり兼ねないが、そうだとしたらタチが悪い。
「そんなに睨まないでくれるかな」
問診表を眺めながら、ポツリと彼女が言う。
明らかに自分に向けたものではないと分かり、夢月は後ろを振り返った。
以前彼女に向けていた顔とは全然違い、冴え冴えとした眼光で真崎が冷たい軽蔑を向けている。
「別に、他意はないのよ。清水先輩から依頼された子が偶然手術に入ったから代打なの」
問診表から目を上げ、彼女が真崎を見た。
女らしい情緒的な眼差しは自分に向けたものとは全く違い、待ち侘びた恋人を迎えるようなものだ。
ざわざわと胸が鳴る。
「担当が私だと都合悪いなら予約取り直して貰うし、今は特別に人払いしているから呼ぶまで看護師は来ないわ。通常だと段取り的に何度も待合室で待ってもらうけど、私なら一通り済ませてあげる。清水先輩が指名した後輩ではできないわよ」
彼女は問診表を片手に椅子を回転させ夢月へと向き直った。
胸のポケットにある職員IDに、新城 柚李と名前が見える。
眼差しとは釣り合わない挑むような口調に違和感を覚える。
先程、真崎に向けた瞳は見間違えだったのだろうか。
「人払いしてるなら、ちょっといい?」
不意に真崎が夢月の椅子を回転させ自分へと向き直らせた。
しゃがんで一度視線を下げてから夢月の膝に手を置く。
「とにかく、ごめん。勘付いてると思うけど、また過去のツケが回ってきてる。けど、苗字も知らない程度の関係だった」
「……………………うん」
「それでも嫌なもんは嫌だろうから、このまま診察続けるかどうか、夢月が決めて」
まるで今し方不貞を働いたような顔をして真崎が見上げてきた。
恐らく自分よりもこの状況に当惑している。
消したい関係が、隠したい過去がそこにあり、真崎はそれを悔やんでいる。
ここで診察を止めると答えたら、真崎の中の罪悪感を深めてしまいそうな気がする。
「正直、気になるよ。だけど、これからも一緒にいたいからこれくらい大丈夫になりたい」
過去は消せない。
真崎といるなら受け入れていかなければいけない。
「……………………凄い」
新城柚李が驚きを呟いた。
「まるで別人ね…………」
その驚き方には失望さえあり、若干の怒りもあるように見える。
自分が見ている真崎と、彼女の中の真崎はかなり違っていて、彼女にとっては今の真崎は気に入らないようだ。
「診察に来たのはオレじゃないので、彼女に集中してください。よろしくお願いしますね、先生」
真崎のぶっきら棒な言い方に不快感が見て取れる。
真崎が彼女に向ける目は、春香に向けていたそれと同じだった。
真っ直ぐに夢月を捉えた瞳は、値踏みするかのように瞬きなく貫いてきた。
「どうぞ、お座りください」
少し低く落ち着いた声が告げる。
言われるままに目の前の椅子に座ると、彼女は問診表へと目を向けた。
問診表には生理周期から最終月経の開始日、妊娠検査薬の使用状況、過去の妊娠の有無、過去の病歴、アレルギーの有無の記入がある。
その真剣な横顔からは悪い感じは受けない。
真崎は清水の後輩に頼んだのだと言っていた。
リアクションからはそれがこの人だとは知らなかったようだが、清水はどうなのだろうか。
真崎と関係があったことを知りながらのセレクトだったのだろうか。
…………清水ならやり兼ねないが、そうだとしたらタチが悪い。
「そんなに睨まないでくれるかな」
問診表を眺めながら、ポツリと彼女が言う。
明らかに自分に向けたものではないと分かり、夢月は後ろを振り返った。
以前彼女に向けていた顔とは全然違い、冴え冴えとした眼光で真崎が冷たい軽蔑を向けている。
「別に、他意はないのよ。清水先輩から依頼された子が偶然手術に入ったから代打なの」
問診表から目を上げ、彼女が真崎を見た。
女らしい情緒的な眼差しは自分に向けたものとは全く違い、待ち侘びた恋人を迎えるようなものだ。
ざわざわと胸が鳴る。
「担当が私だと都合悪いなら予約取り直して貰うし、今は特別に人払いしているから呼ぶまで看護師は来ないわ。通常だと段取り的に何度も待合室で待ってもらうけど、私なら一通り済ませてあげる。清水先輩が指名した後輩ではできないわよ」
彼女は問診表を片手に椅子を回転させ夢月へと向き直った。
胸のポケットにある職員IDに、新城 柚李と名前が見える。
眼差しとは釣り合わない挑むような口調に違和感を覚える。
先程、真崎に向けた瞳は見間違えだったのだろうか。
「人払いしてるなら、ちょっといい?」
不意に真崎が夢月の椅子を回転させ自分へと向き直らせた。
しゃがんで一度視線を下げてから夢月の膝に手を置く。
「とにかく、ごめん。勘付いてると思うけど、また過去のツケが回ってきてる。けど、苗字も知らない程度の関係だった」
「……………………うん」
「それでも嫌なもんは嫌だろうから、このまま診察続けるかどうか、夢月が決めて」
まるで今し方不貞を働いたような顔をして真崎が見上げてきた。
恐らく自分よりもこの状況に当惑している。
消したい関係が、隠したい過去がそこにあり、真崎はそれを悔やんでいる。
ここで診察を止めると答えたら、真崎の中の罪悪感を深めてしまいそうな気がする。
「正直、気になるよ。だけど、これからも一緒にいたいからこれくらい大丈夫になりたい」
過去は消せない。
真崎といるなら受け入れていかなければいけない。
「……………………凄い」
新城柚李が驚きを呟いた。
「まるで別人ね…………」
その驚き方には失望さえあり、若干の怒りもあるように見える。
自分が見ている真崎と、彼女の中の真崎はかなり違っていて、彼女にとっては今の真崎は気に入らないようだ。
「診察に来たのはオレじゃないので、彼女に集中してください。よろしくお願いしますね、先生」
真崎のぶっきら棒な言い方に不快感が見て取れる。
真崎が彼女に向ける目は、春香に向けていたそれと同じだった。
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