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Study139: Something is missing「何かが足りない」
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「あのさー、ここは恋に悩める青少年の悩み相談室じゃないんだけどね」
清水がマグカップ片手にソファに横たわる真崎を見下ろした。
真崎は携帯画面から清水へと視線を移す。
「保健室はそもそも青少年の悩み相談室だろーが」
「アルトのは青少年の健全な悩みからかけ離れてるじゃないか」
「………そーでもねぇよ」
真崎は深く息を吐いて、携帯を持つ手を下ろし目を閉じた。
明日は終業式、夏休みに入る訳だが、問題が一つも片付いていない上に………
夢月がわかんねぇ………
昨日、バスケットコート横で夢月からキスをしてきた。
夢月からされるキスは多くない。
そう言った事には酷く奥手で、未だにキスだけで恥らうレベルだったのに、昨日のキスは今までと違い、躊躇いがなく熱烈だった。
かと思えば、逃げる様に立ち去ったし、あれからほとんど目を合わさない。
婚姻届と指輪を渡したのは早まったのか。
………喜んでいたよな?
見間違いでも、勘違いでもなく、そう見えた。
それとも何かが足りないのか。
段取り?配慮?
「それはそーとさ、病院行かないの?」
足元のクッションが沈み、清水がソファに座ったことがわかる。
「夢月は夏休みに入ってから行きたいらしいから、しかも一人で」
「あれ?それで拗ねてるの?」
「ちげーよっ」
「もしかしてプロポーズ失敗とか?」
失敗も何も、YESを貰ったところで入籍できない現状では、プロポーズにはならない。
清水はその現状を良く知っているだろうに。
「してねーよ………」
「じゃー、なんで同居したくないのかな」
ぽつりと呟いた清水の台詞に、真崎は上体を起こす。
「なんだよ、それ」
「誘ったんだよ。3人で一緒に暮らそって」
「はあ?!」
思ってもみない事態に真崎は声を上げ、唖然とした。
そんな事を清水からは勿論、夢月からも聞いていない。
「いつ言ったんだよ」
「あー、ほら彼女の友達が来てた日?かな」
友達と言えば、美咲が来ていた日、婚姻届や指輪を渡す前だ。
話す機会はあったはずだけれど、なぜ夢月はその事を言ってこないのだろうか。
話題にしたくない程に嫌な提案だったのか。
確かに、妊娠を考えたら今後の生活を考え直さないといけないが、妊娠確定する前にそんな話をしたら、夢月の性格上混乱しそうだ。
「アルトもさ、若いわりにはちゃんと受け止めて考えてるけど、実際妊娠してたらアレがイヤ、コレがイヤとか言ってらんないよ。妊娠出産にはお金がかかるんだから、節約できるとこはしていかないと!」
「…………………… 」
清水は珍しく真顔で熱弁を奮うが、そう言う時の清水は信用ならないことを真崎は知っている。
じっとりと不信の目を向ける真崎に清水は畳み掛ける様に距離を詰めて来た。
「一緒に住めば節約できるし、色々誤魔化せるじゃないか」
「…………蓮、お前、一緒に住みたいだけだろ」
「あは、バレた?」
這い寄る体勢で真崎に顔を寄せ、ヘラヘラと清水が笑う。
鼻先が触れそうな距離に、真崎はこれが夢月ではない事を心底残念に思えた。
「バレた?じゃねーよっ」
「だってさ、今のままだとアルトそのうち出ていっちゃうけど、彼女も一緒に住めばずっといるかもしれないじゃないか」
「やめろ、その思考回路」
「いやいや、きっと楽しいよー、3人で同居。あっ、いずれは4人になるのか、ヨシ、いいね、楽しそー」
「盛り上がってるところ悪いけど、ソレないから」
清水の身体を避けようと肩に手を突いた時、保健室の扉が控え目にレールを滑り開く。
「…………あ」
「 ──── えっ?」
開きかけの扉の向こうに夢月が見えた。
清水がマグカップ片手にソファに横たわる真崎を見下ろした。
真崎は携帯画面から清水へと視線を移す。
「保健室はそもそも青少年の悩み相談室だろーが」
「アルトのは青少年の健全な悩みからかけ離れてるじゃないか」
「………そーでもねぇよ」
真崎は深く息を吐いて、携帯を持つ手を下ろし目を閉じた。
明日は終業式、夏休みに入る訳だが、問題が一つも片付いていない上に………
夢月がわかんねぇ………
昨日、バスケットコート横で夢月からキスをしてきた。
夢月からされるキスは多くない。
そう言った事には酷く奥手で、未だにキスだけで恥らうレベルだったのに、昨日のキスは今までと違い、躊躇いがなく熱烈だった。
かと思えば、逃げる様に立ち去ったし、あれからほとんど目を合わさない。
婚姻届と指輪を渡したのは早まったのか。
………喜んでいたよな?
見間違いでも、勘違いでもなく、そう見えた。
それとも何かが足りないのか。
段取り?配慮?
「それはそーとさ、病院行かないの?」
足元のクッションが沈み、清水がソファに座ったことがわかる。
「夢月は夏休みに入ってから行きたいらしいから、しかも一人で」
「あれ?それで拗ねてるの?」
「ちげーよっ」
「もしかしてプロポーズ失敗とか?」
失敗も何も、YESを貰ったところで入籍できない現状では、プロポーズにはならない。
清水はその現状を良く知っているだろうに。
「してねーよ………」
「じゃー、なんで同居したくないのかな」
ぽつりと呟いた清水の台詞に、真崎は上体を起こす。
「なんだよ、それ」
「誘ったんだよ。3人で一緒に暮らそって」
「はあ?!」
思ってもみない事態に真崎は声を上げ、唖然とした。
そんな事を清水からは勿論、夢月からも聞いていない。
「いつ言ったんだよ」
「あー、ほら彼女の友達が来てた日?かな」
友達と言えば、美咲が来ていた日、婚姻届や指輪を渡す前だ。
話す機会はあったはずだけれど、なぜ夢月はその事を言ってこないのだろうか。
話題にしたくない程に嫌な提案だったのか。
確かに、妊娠を考えたら今後の生活を考え直さないといけないが、妊娠確定する前にそんな話をしたら、夢月の性格上混乱しそうだ。
「アルトもさ、若いわりにはちゃんと受け止めて考えてるけど、実際妊娠してたらアレがイヤ、コレがイヤとか言ってらんないよ。妊娠出産にはお金がかかるんだから、節約できるとこはしていかないと!」
「…………………… 」
清水は珍しく真顔で熱弁を奮うが、そう言う時の清水は信用ならないことを真崎は知っている。
じっとりと不信の目を向ける真崎に清水は畳み掛ける様に距離を詰めて来た。
「一緒に住めば節約できるし、色々誤魔化せるじゃないか」
「…………蓮、お前、一緒に住みたいだけだろ」
「あは、バレた?」
這い寄る体勢で真崎に顔を寄せ、ヘラヘラと清水が笑う。
鼻先が触れそうな距離に、真崎はこれが夢月ではない事を心底残念に思えた。
「バレた?じゃねーよっ」
「だってさ、今のままだとアルトそのうち出ていっちゃうけど、彼女も一緒に住めばずっといるかもしれないじゃないか」
「やめろ、その思考回路」
「いやいや、きっと楽しいよー、3人で同居。あっ、いずれは4人になるのか、ヨシ、いいね、楽しそー」
「盛り上がってるところ悪いけど、ソレないから」
清水の身体を避けようと肩に手を突いた時、保健室の扉が控え目にレールを滑り開く。
「…………あ」
「 ──── えっ?」
開きかけの扉の向こうに夢月が見えた。
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