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Study119: symptom「兆し」
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出かけて行く涼子の背中を見送り、テーブルに戻ると真崎が椅子にいなかった。
勝手に決断したことを謝ろうと思ったのだが、リビングルームにはいない。
気が引けたがベットルームを覗くと、窓際に座る真崎がいた。
宝石箱を暗闇に散りばめたような夜景を、ぼんやりと見つめる横顔が酷く大人びて見えて夢月は息を飲んだ。
その目鼻立ちは改めて眺めると作り物のように端正なのだけれど、内面は若干歪な部分もある。
強引で自分勝手、完璧主義で少し意地が悪い。
主導権を握りたがる部分があるから、おそらく勝手な決断に怒っているだろう。
「真崎くん………」
声をかけると窓ガラスの中で目が合う。
夜景を映したそのままの瞳が細められ、外された。
それだけのことが、何故か胸を騒つかせる。
何かの兆しを予期したような、正体の分からない不快な騒めき、漠然たる不安。
「………本気?同棲解消」
「うん、ごめんね」
「夢月はそれで平気なワケ?」
寄せた眉と、覇気のない声。
怒っていると言うより、拗ねているように見える。
真崎の横に座るが真崎は視線すら動かさない。
「平気じゃないよ?眠る時とか朝起きた時に真崎くんがいないのは、すっごく淋しい」
それに気紛れに目が覚めた夜中、隣に眠る真崎の温もりに酷く安心する。
独りじゃないと、強く感じる。
別々の生活はすでに、違和感しかないだろう。
「………淋しいけど、我慢したい。涼子さんに認めて貰いたいから」
涼子の名を出すと真崎の眉間に一層深い皺が刻まれた。
「………オレは、我慢できない」
「会えなくなるワケじゃないし、土日はお泊りとか、ね?」
窓の桟に手をついて真崎の顔を覗きこむと、やっと真崎の目が夢月を映す。
「土日泊りくらいで足りんの?夏休み入ったら学校で会う事もねーけど?」
「あっ……………」
そういえば、夏休みと言うものがあった。
生徒は休みでも職員は出勤するし、夏期講習もあれば合宿もある。
首位の真崎はどちらも参加非該当、すれ違う毎日になる。
「………バカじゃね?どうせなら夏休み明けに呑めよな」
「ごもっとも、です」
呆れたように真崎が深く長い息を吐いた。
「………………ごめんなさい」
夢月は心底自省し項垂れる。
「私、真崎くんとは別れたくなくて」
「別れねーよ………」
「違くて、私たちがどうのって言う別れるんじゃなくて、社会的にそうされるって言うか、涼子さんもそうだけど、私たちを取り巻く常識とか規範とか、引き裂く力ってあると思うの」
容易に会えなくなる状況を作られる。
抗ってもどうにもできない力が確かにある。
離れている間、無性に怖かった。
離れたくなくても会えない現実に押し潰されそうだった。
「真崎くんだってそれが分かるから隠そうとしてくれるんでしょう?」
顔を上げると真崎の視線とぶつかった。
「少しずつでいいの。分かってくれる人が欲しいし、真崎くんのお母さんには分かって欲しいっ」
言い切ると堰を切るように感情が溢れ出して、視界が涙で霞んだ。
愛しさや不安や、願いや切なさが入り混じり暴れているようで、胸の中がぐちゃぐちゃになる。
不思議なくらいに涙を抑え切れない。
気持ちが不安定過ぎて、怖い。
「夢月………」
真崎が涙を拭うように頬を手の平で包み込み、そっと身体を寄せて来た。
「いいよ、同棲解消は納得いかねーけど、分かったから」
真崎が宥めるような口付けをくれる。
唇を食す様に、柔らかさを味わう様に、重なる唇に涙が引いていく。
「………そんなふうに泣くなよ」
真崎は片方の手は咽ぶ夢月の首筋に、もう片方は背中へと回し引き寄せた。
温かい腕の中が迎い入れてくれる。
気が遠くなるほどに愛しい場所。
勝手に決断したことを謝ろうと思ったのだが、リビングルームにはいない。
気が引けたがベットルームを覗くと、窓際に座る真崎がいた。
宝石箱を暗闇に散りばめたような夜景を、ぼんやりと見つめる横顔が酷く大人びて見えて夢月は息を飲んだ。
その目鼻立ちは改めて眺めると作り物のように端正なのだけれど、内面は若干歪な部分もある。
強引で自分勝手、完璧主義で少し意地が悪い。
主導権を握りたがる部分があるから、おそらく勝手な決断に怒っているだろう。
「真崎くん………」
声をかけると窓ガラスの中で目が合う。
夜景を映したそのままの瞳が細められ、外された。
それだけのことが、何故か胸を騒つかせる。
何かの兆しを予期したような、正体の分からない不快な騒めき、漠然たる不安。
「………本気?同棲解消」
「うん、ごめんね」
「夢月はそれで平気なワケ?」
寄せた眉と、覇気のない声。
怒っていると言うより、拗ねているように見える。
真崎の横に座るが真崎は視線すら動かさない。
「平気じゃないよ?眠る時とか朝起きた時に真崎くんがいないのは、すっごく淋しい」
それに気紛れに目が覚めた夜中、隣に眠る真崎の温もりに酷く安心する。
独りじゃないと、強く感じる。
別々の生活はすでに、違和感しかないだろう。
「………淋しいけど、我慢したい。涼子さんに認めて貰いたいから」
涼子の名を出すと真崎の眉間に一層深い皺が刻まれた。
「………オレは、我慢できない」
「会えなくなるワケじゃないし、土日はお泊りとか、ね?」
窓の桟に手をついて真崎の顔を覗きこむと、やっと真崎の目が夢月を映す。
「土日泊りくらいで足りんの?夏休み入ったら学校で会う事もねーけど?」
「あっ……………」
そういえば、夏休みと言うものがあった。
生徒は休みでも職員は出勤するし、夏期講習もあれば合宿もある。
首位の真崎はどちらも参加非該当、すれ違う毎日になる。
「………バカじゃね?どうせなら夏休み明けに呑めよな」
「ごもっとも、です」
呆れたように真崎が深く長い息を吐いた。
「………………ごめんなさい」
夢月は心底自省し項垂れる。
「私、真崎くんとは別れたくなくて」
「別れねーよ………」
「違くて、私たちがどうのって言う別れるんじゃなくて、社会的にそうされるって言うか、涼子さんもそうだけど、私たちを取り巻く常識とか規範とか、引き裂く力ってあると思うの」
容易に会えなくなる状況を作られる。
抗ってもどうにもできない力が確かにある。
離れている間、無性に怖かった。
離れたくなくても会えない現実に押し潰されそうだった。
「真崎くんだってそれが分かるから隠そうとしてくれるんでしょう?」
顔を上げると真崎の視線とぶつかった。
「少しずつでいいの。分かってくれる人が欲しいし、真崎くんのお母さんには分かって欲しいっ」
言い切ると堰を切るように感情が溢れ出して、視界が涙で霞んだ。
愛しさや不安や、願いや切なさが入り混じり暴れているようで、胸の中がぐちゃぐちゃになる。
不思議なくらいに涙を抑え切れない。
気持ちが不安定過ぎて、怖い。
「夢月………」
真崎が涙を拭うように頬を手の平で包み込み、そっと身体を寄せて来た。
「いいよ、同棲解消は納得いかねーけど、分かったから」
真崎が宥めるような口付けをくれる。
唇を食す様に、柔らかさを味わう様に、重なる唇に涙が引いていく。
「………そんなふうに泣くなよ」
真崎は片方の手は咽ぶ夢月の首筋に、もう片方は背中へと回し引き寄せた。
温かい腕の中が迎い入れてくれる。
気が遠くなるほどに愛しい場所。
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