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Study116: stand firm「立ち向かう」
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「これで容認しろ、と?」
涼子が携帯電話の画面から、その冷たい視線を上げた。
期末試験の結果が保護者に通知されるのはまだ先となる為、真崎が順位表を写真に撮っていた。
「2位とはたったの2点差、今回の首位はまぐれに近いわね」
何とも厳しく涼やかな反応に、夢月は亜然とする。
これが親の反応なのだろうか。
「条件クリアはトップ3入り、まぐれな首位でも充分だろ」
真崎は涼子の反応を予想してかのように、さらりと返す。
「そう言う考え方だから、詰めが甘くなるのよ」
「んじゃ、紛らわしくトップ3入りとか言わねーで、ダントツ首位とれって言えよ」
涼子と真崎の間に漂う空気が、席に座り5分も経たずに冷ややかに凍りついた。
似た者親子なのだろう………互いに纏う空気も表情のなさもそっくりである。
割り込めない雰囲気に息を呑む夢月に涼子が目を向けた。
「貴女は、教師を辞めるのかしら」
切れ長の瞳は有無を言わさぬ迫力を滲ませてくる。
『教師失格です。だから辞めろと言われるなら辞めます。だけど、真崎くんとの関係はやめません』
あの言葉の、覚悟を確かめられているのだろう。
涼子に挑まれている。
立ち向かわないと。
アレは嫌、コレも嫌とか言ってられない。
私が本当に嫌なことは見えているんだから、それを回避する為にできることはやらないとっ
今月下旬に学校は夏休みに入る。
自分が辞めても夏休み中に求人をかけて後任が決まるだろう。
二学期までには体制が整い、学校や生徒への負担も最小限で済む。
真崎との関係がバレて、進路に差し支えるよりはマシだ。
「辞め………」
「待った!」
口を開いた夢月を遮るように、真崎が肩を掴んできた。
「夢月は辞めさせない」
きっぱりと言い切る真崎に夢月は戸惑う。
「真崎くん、大丈夫だよ。教師以外の仕事で当分凌ぐから」
「夢月はオレの卒業見届けて」
「学校辞めても卒業式は見に行くよ?」
「そー言うことじゃなくて」
真崎が僅かな苛立ちを乗せて眉を顰めた。
「辞めずに隠し通してみせなさい」
単調な涼子の声が告げる。
意外な言葉に真崎も夢月も耳を疑い涼子を見やった。
「首位を維持して、しっかり節度を持ち、周囲に関係を悟られずに卒業してみなさい」
「なんか企んでるだろ………」
「人聞き悪い言い方しないでちょうだい」
猜疑心に満ちた目で睨みつける真崎を失笑し、涼子が目を伏せる。
表情が乏しいだけに涼子の真意が全く掴めない。
「その代わり、同棲は止めること。隠し通せなかった時は潔く別れること。それくらいの覚悟を持ちなさい」
だけれど、言葉の端々に何か柔らかさが垣間見えたようで、夢月は涼子に不信感を抱けなくなっていた。
真崎は涼子を睨みつけたまま黙り込んでいる。
同棲を止めることも、バレたら別れると言う覚悟に対しても真崎は了承しないだろう。
真崎の中では涼子に対する反発心が膨らんでいる。
だから見えないのかも知れない………涼子の不器用な歩み寄りが。
「わかりました」
夢月は一つ息を吐いてから、涼子を見据えて応えた。
涼子が携帯電話の画面から、その冷たい視線を上げた。
期末試験の結果が保護者に通知されるのはまだ先となる為、真崎が順位表を写真に撮っていた。
「2位とはたったの2点差、今回の首位はまぐれに近いわね」
何とも厳しく涼やかな反応に、夢月は亜然とする。
これが親の反応なのだろうか。
「条件クリアはトップ3入り、まぐれな首位でも充分だろ」
真崎は涼子の反応を予想してかのように、さらりと返す。
「そう言う考え方だから、詰めが甘くなるのよ」
「んじゃ、紛らわしくトップ3入りとか言わねーで、ダントツ首位とれって言えよ」
涼子と真崎の間に漂う空気が、席に座り5分も経たずに冷ややかに凍りついた。
似た者親子なのだろう………互いに纏う空気も表情のなさもそっくりである。
割り込めない雰囲気に息を呑む夢月に涼子が目を向けた。
「貴女は、教師を辞めるのかしら」
切れ長の瞳は有無を言わさぬ迫力を滲ませてくる。
『教師失格です。だから辞めろと言われるなら辞めます。だけど、真崎くんとの関係はやめません』
あの言葉の、覚悟を確かめられているのだろう。
涼子に挑まれている。
立ち向かわないと。
アレは嫌、コレも嫌とか言ってられない。
私が本当に嫌なことは見えているんだから、それを回避する為にできることはやらないとっ
今月下旬に学校は夏休みに入る。
自分が辞めても夏休み中に求人をかけて後任が決まるだろう。
二学期までには体制が整い、学校や生徒への負担も最小限で済む。
真崎との関係がバレて、進路に差し支えるよりはマシだ。
「辞め………」
「待った!」
口を開いた夢月を遮るように、真崎が肩を掴んできた。
「夢月は辞めさせない」
きっぱりと言い切る真崎に夢月は戸惑う。
「真崎くん、大丈夫だよ。教師以外の仕事で当分凌ぐから」
「夢月はオレの卒業見届けて」
「学校辞めても卒業式は見に行くよ?」
「そー言うことじゃなくて」
真崎が僅かな苛立ちを乗せて眉を顰めた。
「辞めずに隠し通してみせなさい」
単調な涼子の声が告げる。
意外な言葉に真崎も夢月も耳を疑い涼子を見やった。
「首位を維持して、しっかり節度を持ち、周囲に関係を悟られずに卒業してみなさい」
「なんか企んでるだろ………」
「人聞き悪い言い方しないでちょうだい」
猜疑心に満ちた目で睨みつける真崎を失笑し、涼子が目を伏せる。
表情が乏しいだけに涼子の真意が全く掴めない。
「その代わり、同棲は止めること。隠し通せなかった時は潔く別れること。それくらいの覚悟を持ちなさい」
だけれど、言葉の端々に何か柔らかさが垣間見えたようで、夢月は涼子に不信感を抱けなくなっていた。
真崎は涼子を睨みつけたまま黙り込んでいる。
同棲を止めることも、バレたら別れると言う覚悟に対しても真崎は了承しないだろう。
真崎の中では涼子に対する反発心が膨らんでいる。
だから見えないのかも知れない………涼子の不器用な歩み寄りが。
「わかりました」
夢月は一つ息を吐いてから、涼子を見据えて応えた。
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