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Study23: selection「選択」
しおりを挟む初めて触れられたその場所で、口付けを交わす。
二人だけの空間は儀式のように神聖で尊い時間に思える。
視聴覚室にある教材室に吐息が漏れた。
「……んっ」
くらくらするほど甘く激しく舌が絡み合う。
真崎の舌が熱くて、蕩けてしまいそうだ。
快感を予期するような体の疼きに、上昇する体温。
熱い吐息を唇の合間に漏らし、求め合う。
真崎の手が腰へと回され、口付けが深まった。
もっともっと繋がりたくなる。
夢月が真崎の首筋に手を回したとたん、唇が放れた。
「やべ………抱きたくなる」
興奮を鎮めるように深く長い息を吐き、真崎は夢月の肩に額を置く。
「あと、2日くらいかな」
夢月は薄っすら頬を染めた。
月経期間は長くても4日程度だ。
「それなら、まー、ちょうどいいや」
見切りを付けたように真崎が夢月から離れる。
「ちょうどいい?」
「母親が帰ってきてんの。保護者会あるだろ」
明後日、授業参観と保護者会があり、明日はその準備で夢月も残業が決まっている。
「そっか、名古屋だっけ?」
「あー、うん。……って、オレ言ってないよな、名古屋」
真崎が顔をしかめ、腕を組んだ。
「……あれ?あ、春香さんが」
「あれから来た?春香」
真崎が呼び捨てにするのを聞くと、心に靄がかかる。
重黒い嫉妬が噪ぎ出すのを感じる。
「来て、ないよ」
夢月は真崎から目を逸らし、携帯を眺めた。
自分で名前を出した癖に、嫉妬とは厄介なものだ。
「わかりやす………すぐ目逸らす」
真崎が夢月の手から携帯を取り、何やら操作する。
夢月が取り戻そうと机を降りた。
「オレは春香に恋愛感情持ったことねーから」
携帯の画面を見たまま真崎がぶっきら棒に告げる。
「彼女ってのも、いたことない。今までは」
「え?」
春香元カノ説もなくなる。
一途に何年も好きな彼女が謎になる。
混乱している夢月の手に携帯を返し、真崎が夢月を机の上へと戻した。
子どもでも抱えるようにひょいっと簡単に体を持ち上げられてしまう。
「LINEにオレのID入れといた」
「ほんと?」
「夢月、友だち少ないな」
夢月と一緒に真崎が画面を覗いた。
「ほっといてよっ」
「昨日は、ほっとくなって言ってたけど?」
「あれは………」
顔を上げると間近で真崎と視線がぶつかる。
細められた瞳に僅かな憂いを浮かべていた。
「保護者会終わったらすぐに名古屋に戻るから、そしたら夢月のとこに帰る………」
真崎の唇が寄せられる。
目を瞑りながら、夢月は「うん」と直ぐに頷けない迷いに気づいた。
一緒にいたい。
側にいたい。
自分だけを見ていて欲しい。
自分だけに触れて欲しい。
真崎との部屋での時間は何物にも代え難い貴重なものだけれど、それを当たり前に求めていいのだろうか。
教師の自分を忘れていい訳がないのに、忘れそうになる。
守らなくてはいけない一線がわからなくなる。
いつだって、分岐点がある。
仕事を終え、夢月は職員室を後にしながら軽く振り返る。
成りたくて目指した教職、努力して得た教員免許、学費を稼ぐ為に色々なバイトをした。
キャバクラだってそうだ。
勉強する時間を作りたくて、短時間でも稼げるバイトだったから選んだ。
沢山の選択をして、今がある。
簡単に手に入れた今ではないのに、辞めてもいいのかもしれないと思う時がある。
執着が薄らいでいるのがわかる。
自分の中で何かが変わった。
いずれ、また選択しなければいけない日がくる。
それが分かる。
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