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Study012: shakey「よろめく」
しおりを挟む何だ?何があった?
真崎がいたような、いないような?
夢月は洗面台の前で、昨晩の記憶を手繰り寄せる。
新年会ならぬ、新年度会。
毎年5月に行う職員行事で居酒屋にいた。
そして、脇目も振らずにビールをガブ飲みした……気がするけれど、どうやって帰ってきたのか。
『夢月はオレのだから』
真崎がいた気がする。
記憶があやふやで、夢なのか現実なのかがいまいちわからないけれど、夢ならとんでもない願望だし、現実なら痛いだけの失態だ。
インターホンが鳴り、夢月は我に帰る。
ここに引っ越してきてから日曜日に訪ねてくるような知り合いはいないはずだから、宅配便か?
それにしてはしつこく鳴らされるインターホンに、夢月はリビングに走った。
モニターを見て、思わず飛び退く。
真崎が、いる。
しかも、エントランス前ではなく玄関前にいる。
ここのセキュリティーは厳しく、暗証番号がないとエントランスにも入れず、エレベーターも動かない。
もしかして、昨日のは現実?
真崎くんが送ってくれた?
だとしたら、全力で会いたくないっ
………よし、居留守!
「いないんだ、じゃあ動画見て待ってよ」
足音を忍ばせモニターから離れる夢月の耳に真崎の声と、再生された動画の声が聞こえた。
夢月は青ざめて玄関へと走る。
ドアを開けると、してやったりな顔で口元に笑みを乗せた真崎が目を細めた。
「……おせーよ」
「玄関から先には入らないでね」
玄関に入ってくる真崎に夢月は慌てて声をかける。
気まずい、会いたくないと思っていたはずなのに、顔を見るとふんわりと温かい想いが胸に宿った。
「へぇ、大胆。玄関でヤルの?」
夢月の顔を覗きこむように顔を近づけ、真崎がニヤリと笑う。
「ヤラないわよ!」
「じゃあ、お邪魔しまっす」
夢月の手にコンビニの袋を押し付け、真崎は靴を脱ぎさっさと中へ入った。
恐る恐る袋の中を覗くと、二日酔いドリンク、スポーツドリンク、お茶にゼリー。
二日酔いセット?!
現実、確定だっ
しかも送って貰ってる………
もしかして、ヤッた??
夢月は真崎の後を追いリビングに入る。
自分の部屋に真崎がいる光景に違和感と背徳感が入り混じり、夢月は冷静になれた自分を知る。
どうあっても、教師と生徒である関係は変わらない。
「あの、昨日って……」
結構贅沢だよな、と部屋を見渡す真崎の背中に夢月は声をかけた。
振り向いた真崎が夢月に近づいて手を伸ばす。
冷静になりかけた鼓動が一瞬乱れた。
触れられる、と思ったら真崎が袋からスポーツドリンクを取り出す。
「昨日ねー……」
溜め息混じりに蓋を開け真崎はぐびぐびとスポーツドリンクを流し込んだ。
やけに喉仏が目について、夢月は目を逸らす。
何をどうしても真崎を意識してしまって落ち着かない。
一息ついた真崎が、眉を寄せて見下ろしてくる。
「ぐたぐたに酔って、鈴木にお持ち帰りされそうになり、夜の公園でもはや教師とは思えない言葉を叫び、部屋に入るなり吐くわ脱ぐわ、帰っちゃイヤってベットに誘っておきながら即寝、何もせずに帰らせて頂いたけど、何か?」
「………………え?」
認めたくはないが、所々はぼやけた記憶の中にある。
公園で叫んでいた辺りまでは。
「………それ、かなり盛ってるよね」
吐いて、脱いで、誘ってなんて、事実であれど認めてはいけないレベルの失態だ。
「さあ、どうかな。体に聞いてみる?」
真崎が片手で夢月の腰を抱く。
夢月は動揺して手にしていた袋を落とした。
ゴロゴロとフローリングの床をペットボトルが転がる。
わかっている……生徒で、彼女がいて、脅迫者。
よろめいてはいけない。
なのに間近にある真崎の瞳に射抜かれ、指一つ動かせない、逃げられない。
激しく脈打つ自分の鼓動がうるさい。
ぐいっと腰にある真崎の手に力がこもり、益々体が密着し、自分の体の熱も鼓動も真崎に気づかれてしまいそうで夢月は焦った。
「そ、そんなことより!さっきの、さっきの見てた動画見せて」
真崎の体を引き剥がし、床に落ちた袋の中身を拾い集める。
二日酔いで寝込んでいると思い来てくれたのだろうか。
そう考えてしまう自分が恥ずかしい。
「あ、あれね。画像なし声だけ」
真崎がカウンターに寄りかかり、携帯を操作する。
喘ぎ声とベットの軋む音、そして重なる荒い息遣い……
「こ、これ、保健室のっ!」
携帯に飛びついて画面を覗きこむが、真崎が言う通り真っ黒だ。
「良い声だから記念に残してみた」
嬉しそうに真崎が再び再生する。
「残さないでそんなもの!」
「声だけだから分からないって」
「イヤよ、消して!!」
甘く粘りつくような自分の声に、恥ずかしさが洪水みたいに押し寄せた。
「じゃあ、今からハメ撮りさせて」
「するワケないでしょう!!」
夢月が真っ赤になって叫ぶと、真崎がうんざりした顔で息を吐く。
「仕方ないな」
「私がワガママ言ったみたいな顔やめて」
睨み付けると、真崎が情欲を込めた視線を送ってきた。
「それならベットで普通にsexでいいよ」
息が詰まるような切なく甘く揺れる黒い瞳。
「オレが満足できたら動画消してあげる、かもな」
携帯電話をチラつかせ、真崎が微笑んだ。
理性が蹌踉めく。
甘い誘惑に、体が疼いた。
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