上 下
50 / 50

ずっとふたりで④

しおりを挟む
 それから十日ほど経ったころ、志田ケミカルの常務が結婚するらしい、という噂がこのビルの中に瞬く間に広まった。
 どうやらビジネス誌の取材を受けた中で、実はもうじき結婚するのだと桔平さんがインタビュアーに話したらしい。
 情報源が本人だから信憑性が高いと、うちの会社でも女子は大騒ぎだ。

「あの志田ケミカルの常務と結婚する人って、どんな女性なのかな? モデルとか、もしかして超有名な女優だったりして?」

 休憩時間に森内さんがそんな会話をしているのを聞くと、複雑な気分だ。相手が私だとはまだみんなに知られていない。
 桔平さんと結婚できるなんて幸せ者は、どれだけ美人なのかと噂されればされるほど、私には耳が痛かった。
 それを桔平さんに話すと、美桜は十分美人だ、と慰めの言葉を返されてしまったけれど。
 私の名前を含め、婚約者の情報を言わないのは私を守るためだとわかっている。
 だから私も、桔平さんにもらったさくらダイヤモンドの婚約指輪は、お休みの日に付けたり眺めたりしているだけだ。それでも十分うれしいから。

***

 六月初旬、大安吉日の今日、私と桔平さんの結婚式が行われる。
 場所は広々としたチャペルのある有名ホテルで、大人数での式や披露宴が可能だ。
 控室はもちろんのことエステやネイル、着物の着付けなど女性にうれしい美容関係も充実しているので、ここでなんでも完璧に準備できてしまう。セレブにも人気だそうだ。
 
「美桜、おめでとう! めちゃくちゃ綺麗!」

 新婦の控室でメイクの手直しをしてもらっていると、蘭がやって来て目を潤ませる。
 私ももらい泣きしそうになったけれど、またメイクが崩れるから!と、蘭から注意された。

「浅木さん、結婚おめでとう。羨ましいわ!」

 四月末で私は寿退社したのだけれど、今日はオッティモの人たちも大勢来てくれている。
 森内さんの嫌味も今日だけは封印で、うれしいお祝いの言葉をいただいた。

 しばらくして、入れ替わりに控室に入ってきたのは、本日のもうひとりの主役である桔平さんだ。

「今日の美桜は、世界一綺麗だな」

 私のウエディングドレス姿を見て満面の笑みを浮かべているが、世界一というのはちょっと大げさだ。

「お世辞でもうれしい」
「神様に永遠の愛を誓う日に、ウソはつけないよ」

 桔平さんのほうこそシルバーグレーのタキシード姿が凛々しくて、お世辞抜きに素敵だ。
 本当に絵にかいたような“王子様”がこの世に存在したと思うほどに。

「晴れて良かった」

 桔平さんが窓の外を見ながらうれしそうに言う。今日は雲一つない晴天で、空が青くて美しく、日差しが眩しい。

「これからふたりで生きていくんだな」
「私、桔平さんを幸せにします」
「はは。それは俺が言うことだろ?」

 声に出して笑ったあと、桔平さんが私の左手を取り、綺麗に施されたネイルを見たあとに自身の手で柔らかく包んだ。

「俺が絶対、美桜を幸せにするから」

 それはもう、今でも十分なくらい。
 これからの人生、ずっと桔平さんが隣にいてくれるのだと思うだけで、胸がいっぱいになってくる。
 メイクを直したばかりで、式の本番まで涙は禁物だから堪えるのに必死だ。

 陽の光が窓から燦燦と降り注ぐチャペルに、パイプオルガンの曲が流れる。
 おごそかに凛と、バージンロードを歩いて桔平さんの元へ向かった。

 神様に永遠の愛を誓い、指輪を交換し、最後に誓いのキスをすると、自然と涙がこぼれ落ちる。
 その瞬間、参列してくれた人たちからおめでとうと拍手が沸き起こった。

 たくさんの人が式に来てくれて、たくさん祝福してもらえた。
 なによりも、心から愛する桔平さんと結婚できて、ここにいる全員に感謝したい。

 幸せをかみしめながら……
 この先何があってもふたりで乗り越えていこう、と心に誓った。

 きっと大丈夫。
 私たちは運命の赤い糸で結ばれているのだから ―――


Fin.
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜

湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」 「はっ?」 突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。 しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。 モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!? 素性がバレる訳にはいかない。絶対に…… 自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。 果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...