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◇前進⑥

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「だいたい、和久井さんばっかりずるいですよ!」
「なにが?」
「私はね、いっぱいいっぱいなんです! なのに和久井さんはお持ち帰りしても平然とした態度で、いつもどおり余裕じゃないですか!」

 酔っている勢いに任せて、私は恥ずかしさを隠すように文句を並べ立てた。

「それは、表面上は余裕ぶって見せてるだけ。俺は男だし、舞花ちゃんより年上だから、あわててたらカッコ悪いと思って」
「信じられません」
「本当だよ。俺の部屋に女の子が来たのなんて何年ぶりだか思い出せないくらいだし。まぁ……今日は俺が連れ込んだのか」

 “連れ込んだ”というキーワードを出されたことで、私の心臓が急に飛び跳ねた。
 和久井さんは簡単には女性を部屋に入れないのだ。
 それなのに私はすんなりと招き入れられたのだから、他の人とは違って特別扱いかもと自惚れたくなってくる。

「この部屋に女性は……普段来ないんですか?」
「うん。全然」
「じゃあ、あの……雑貨屋さんの人も?」

 一瞬、そこで会話が止まった。
 やはり彼女のことは触れてはいけないタブーみたいだ。
 困ったような顔をする和久井さんを見ていると、以前彼女とはなにかあったのかもしれない。
 付き合ってはいなかったにしろ、その寸前までいったのではないかと、私の女の勘が働いた。

「もちろん来てないよ」

 彼女は一度も来ていないのだ。そう考えたら、彼の部屋にいる今の自分の状況がすごく幸せに思えてくる。
 少なくとも、私のほうが和久井さんにより近い場所にいる。
 そんなことで自分が一歩リードした気になるなんて、私の性格はあきれるくらい単純だ。

「彼女は営業部の先輩の恋人なんだ。たとえどんな理由があったにせよ、万が一でも俺が彼女を部屋に引っ張り込んだら、確実に俺は先輩に殺されるから」

 和久井さんは冗談めかして笑い、なにかを思い出しているかのように部屋の壁を見つめた。

 私は酔ってるとはいえバカだ。
 和久井さんに、彼女とのことを思い出させるような発言をしてしまった。
 彼女には一刻も早く、和久井さんの心の中から出て行ってほしいのに。
 自分がバカすぎて、それが情けなくて……泣きたくなってくる。
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