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「ごめんな。何度か向こうから電話しようと思ったけど、全部放り出して日本に帰りたくなるかもって思ったらできなかった」

 文哉は苦笑いのような微妙な笑みをたたえてつぶやくと、親指で私の頬の涙を拭った。

「でも今日の約束、夏穂は絶対覚えてるって思ってた」
「私たち、別れたんじゃないの?」
「え、別れるわけないだろ。こんなに愛し合ってるのに」

 文哉は私と視線を合わせるように少しかがむと、そのままチュッと私の唇を一瞬で奪った。
 ……卑怯だ。
 その言葉と行動で、私の心の氷は一気にに溶けてしまうのだから。
 空白の一年なんて関係なく、やっぱり愛してると確信してしまう。

「向こうで写真とか動画、いっぱい撮ってきたから一緒に見よう」
「あっ! そうだ、これ!」

 写真というワードが出てきたことで、私はごそごそとバッグの中を漁り、目当ての物を文哉の胸に押し付けるようにして渡した。

「なに?」
「デジタルフォトフレーム。……去年、買ってたのに渡せなかったの!」

 一年越しになるから一瞬迷ったものの、できるならこのプレゼントを文哉に渡したいと思った。
 だけどどこにしまったのかはっきりと思い出せなくて。
 捨ててはいない。絶対どこかにあるはずだと、実はここに来る前に家中探しまくったのだ。

 最後にクローゼットの奥の方にしまいこんでいたのを見つけたときには安堵した。
 まるで私の気持ちみたい。
 胸の奥に無理やりぎゅっと押し込んでいて、やっと見つけた一年前と同じ気持ち。

「また渡しそびれたら嫌だから、今渡す!」
「あはは。ありがと」

 何事かとポカンとしたあと、文哉は私の様子をクスクスと笑いながら受け取る。
 もしも今夜文哉が現れなかったら、これは永遠に渡せなかった。
 だけど私は直感的に、文哉は絶対に来ると心のどこかで信じていた。
 
「じゃ、部屋でゆっくりと極上の夜景でも楽しもうか」

 私たちは一年ぶりに手をつなぎ、エレベーターへと乗り込んだ。
 こんな身勝手な彼氏でも、どうやら私は離れられそうにないみたい。


―――― END.

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