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◇手に入れた陽だまり④
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「ごめん。俺、あのあとすぐにアメリカに留学したから」
そうか。会えないはずだ。
だからあのとき借りた黒い傘も、返さなくていいと言ったのだろうか。もう会えないとわかっていたから?
「それと……俺があの店に傘を買いに行ったのも、偶然だと思うか?」
言われた意味がわからなくて、ポカンとしながら首をかしげる。
雨が降ってきたから傘を買いに来た。それだけではないと?
「あの辺りにサンシャイングループの建物はない。要するにあまり用事がないんだ。だけどあの場所は俺にとっては懐かしくて。久しぶりにブラブラしてみたら雨が降ってきた。雨男だっていうのに傘を持っていなくて、なんとなくあの雑貨店に入った。傘ならどこでも買えるのに、吸い寄せられるようにあの店に」
静かに淡々と話していた日下さんが、そこまで言うと私の瞳をじっと射貫いた。
眉目秀麗な二重の瞳に見つめられ、私の心臓はドキンと大きく跳ね上がる。
「なぜだかわからないけど……君があそこにいるような気がしたんだ」
「え……」
「もしも君のことをイタイ女だと言うなら俺も同じだな。十年ぶりに見た君は、大人になって綺麗になってた。すべての感情をなくしたはずの俺の心が、あのときは素直によろこんでた」
傘を買いにきたあの日。
日下さんが内心、そんなふうに思ってくれていたなんて信じられない。
うれしくて込み上げてくる涙をぐっと堪えた。
「十年前にカフェで会ったとき、君の笑顔はキラキラしてた。したたかさも裏表もなくて、ウソ偽りなく純真で、人を元気にする笑顔だった。まるで雨の中にポツンと陽だまりができたように温もりがあった」
「日下さん……」
「十年経った今でも、それはなにひとつ変わってなかった。まずいと思った。どんどん君に惹かれていくんだ。虜になったみたいに」
うれしい言葉が聞こえてきたせいで、堪えていた涙が頬を伝った。
「俺はどう? 十年前と変わった?」
以前とは髪型も違うし黒縁めがねもかけていない。
だけど綺麗な顔立ちも、気遣いのあるやさしさも、アンニュイな雰囲気も、昔のままだと思う。
「変わりましたよ。昔よりカッコよくなりました。今のほうが大人の余裕があって素敵です」
「……そうか」
私がそう言うと日下さんは照れたように口元を綻ばせる。
最近の彼は、私と話すとポーカーフェイスが崩れているような気がする。
「素敵すぎて困ります。だからこそ、もう今後は私には関わらないでください」
「……え?」
「これ以上気持ちが膨らんだら、あきらめられなくなりそうです」
正直、もう限界だ。
私がこの人を拒否できる、ギリギリのところまできている。
好きになってはいけない人を好きになってしまった。
だから早くあきらめなくてはいけないのに。
ずるずると、なにか理由をつけて会い続けていては好きになる一方だ。
もうこれ以上思いを募らせてはいけない。なにかあっても拒否して遠ざからなくては。
悲しいけれど、そのあとは時間が解決してくれるだろう。
「あきらめるの?」
「はい。つらい不倫はしたくないですから」
私はきっぱりと言いきった。これで終わりだ。
ここまで言えば。この微妙な関係は解消される。
気まずい空気が流れる中、日下さんがバツ悪そうにしながら深い溜め息を吐きだした。
そうか。会えないはずだ。
だからあのとき借りた黒い傘も、返さなくていいと言ったのだろうか。もう会えないとわかっていたから?
「それと……俺があの店に傘を買いに行ったのも、偶然だと思うか?」
言われた意味がわからなくて、ポカンとしながら首をかしげる。
雨が降ってきたから傘を買いに来た。それだけではないと?
「あの辺りにサンシャイングループの建物はない。要するにあまり用事がないんだ。だけどあの場所は俺にとっては懐かしくて。久しぶりにブラブラしてみたら雨が降ってきた。雨男だっていうのに傘を持っていなくて、なんとなくあの雑貨店に入った。傘ならどこでも買えるのに、吸い寄せられるようにあの店に」
静かに淡々と話していた日下さんが、そこまで言うと私の瞳をじっと射貫いた。
眉目秀麗な二重の瞳に見つめられ、私の心臓はドキンと大きく跳ね上がる。
「なぜだかわからないけど……君があそこにいるような気がしたんだ」
「え……」
「もしも君のことをイタイ女だと言うなら俺も同じだな。十年ぶりに見た君は、大人になって綺麗になってた。すべての感情をなくしたはずの俺の心が、あのときは素直によろこんでた」
傘を買いにきたあの日。
日下さんが内心、そんなふうに思ってくれていたなんて信じられない。
うれしくて込み上げてくる涙をぐっと堪えた。
「十年前にカフェで会ったとき、君の笑顔はキラキラしてた。したたかさも裏表もなくて、ウソ偽りなく純真で、人を元気にする笑顔だった。まるで雨の中にポツンと陽だまりができたように温もりがあった」
「日下さん……」
「十年経った今でも、それはなにひとつ変わってなかった。まずいと思った。どんどん君に惹かれていくんだ。虜になったみたいに」
うれしい言葉が聞こえてきたせいで、堪えていた涙が頬を伝った。
「俺はどう? 十年前と変わった?」
以前とは髪型も違うし黒縁めがねもかけていない。
だけど綺麗な顔立ちも、気遣いのあるやさしさも、アンニュイな雰囲気も、昔のままだと思う。
「変わりましたよ。昔よりカッコよくなりました。今のほうが大人の余裕があって素敵です」
「……そうか」
私がそう言うと日下さんは照れたように口元を綻ばせる。
最近の彼は、私と話すとポーカーフェイスが崩れているような気がする。
「素敵すぎて困ります。だからこそ、もう今後は私には関わらないでください」
「……え?」
「これ以上気持ちが膨らんだら、あきらめられなくなりそうです」
正直、もう限界だ。
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ずるずると、なにか理由をつけて会い続けていては好きになる一方だ。
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悲しいけれど、そのあとは時間が解決してくれるだろう。
「あきらめるの?」
「はい。つらい不倫はしたくないですから」
私はきっぱりと言いきった。これで終わりだ。
ここまで言えば。この微妙な関係は解消される。
気まずい空気が流れる中、日下さんがバツ悪そうにしながら深い溜め息を吐きだした。
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