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◇彼の正体と土砂降りの雨⑤
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「なぜ……それを?」
「……え……」
「だから、なぜ俺がサンシャインの人間だと?」
以前来店したときは、日下さんとの会話でサンシャインの名前は一切出ていなかったのに、今いきなり私が口にしたから彼は驚いたようだ。
「あの……それは……たまたま雑誌とネットを拝見したんです。サンシャインホールディングスの副社長さんなんですよね?」
おずおずと私が尋ねると、納得するように彼はコクリとうなずいた。
「そんなものを見られてるとは思わなかった」
「同僚がビジネス雑誌を毎月購入してるので。たまたまですよ!」
知ったのは偶然なのだと必死で主張していたら、彼はあきれたように本当に小さくクスリと笑った。
以前ははまったく笑ってなどくれなかったのに。
今、ほんの少しだけでも笑顔になってくれたことが単純にうれしいだなんて、私はどうかしてしまったのだろうか。
「話を戻すけど……その傘はうちの会社にいくつかある研修施設で使おうと思う」
「研修施設?」
「主に新入社員なんかを教育する施設があるんだ。そこの置き傘として使うことにするよ。うちのホテルに置くには、さすがに俺の一存では決められないから」
研修施設か。私もこの会社に入社したとき、一番最初に研修を受けた。
場所はどこかのビルの会議室を借りておこなっていたけれど。
サンシャインのような大きな企業になると、自社で研修用の建物を所有しているのだ。
新人教育だけでなく、ベテラン社員の研修にも使える施設を。
「色違いでしたら、あとは黒とグリーンがございます」
「じゃあ、それを五本ずつ。急がないから送ってもらえるかな」
「かしこまりました」
私は彼をレジカウンターまで案内して、配送用の用紙に住所などの記入をお願いした。
そのあいだに私は売り場に戻り、とある商品の梱包に取り掛かる。
ちょうど準備が出来たころ、彼も用紙の記入を終えたので萌奈ちゃんがお会計を済ませてくれていた。
「あの……すみません……」
あとは帰るだけというタイミングを見計らい、私は彼にそっと声をかける。
「これ、よかったらどうぞ」
小さな紙袋の持ち手をずいっと彼に差し出した。中には先ほど自分で梱包した品物が入っている。
日下さんは驚く素振りを見せなかった。彼のポーカーフェイスはこんなことでは崩れない。
「……これ、何?」
「えっと、私個人からです。ハンカチのことで気を煩わせてしまいましたし、傘もたくさんお買い上げいただきましたので……」
「……え……」
「だから、なぜ俺がサンシャインの人間だと?」
以前来店したときは、日下さんとの会話でサンシャインの名前は一切出ていなかったのに、今いきなり私が口にしたから彼は驚いたようだ。
「あの……それは……たまたま雑誌とネットを拝見したんです。サンシャインホールディングスの副社長さんなんですよね?」
おずおずと私が尋ねると、納得するように彼はコクリとうなずいた。
「そんなものを見られてるとは思わなかった」
「同僚がビジネス雑誌を毎月購入してるので。たまたまですよ!」
知ったのは偶然なのだと必死で主張していたら、彼はあきれたように本当に小さくクスリと笑った。
以前ははまったく笑ってなどくれなかったのに。
今、ほんの少しだけでも笑顔になってくれたことが単純にうれしいだなんて、私はどうかしてしまったのだろうか。
「話を戻すけど……その傘はうちの会社にいくつかある研修施設で使おうと思う」
「研修施設?」
「主に新入社員なんかを教育する施設があるんだ。そこの置き傘として使うことにするよ。うちのホテルに置くには、さすがに俺の一存では決められないから」
研修施設か。私もこの会社に入社したとき、一番最初に研修を受けた。
場所はどこかのビルの会議室を借りておこなっていたけれど。
サンシャインのような大きな企業になると、自社で研修用の建物を所有しているのだ。
新人教育だけでなく、ベテラン社員の研修にも使える施設を。
「色違いでしたら、あとは黒とグリーンがございます」
「じゃあ、それを五本ずつ。急がないから送ってもらえるかな」
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そのあいだに私は売り場に戻り、とある商品の梱包に取り掛かる。
ちょうど準備が出来たころ、彼も用紙の記入を終えたので萌奈ちゃんがお会計を済ませてくれていた。
「あの……すみません……」
あとは帰るだけというタイミングを見計らい、私は彼にそっと声をかける。
「これ、よかったらどうぞ」
小さな紙袋の持ち手をずいっと彼に差し出した。中には先ほど自分で梱包した品物が入っている。
日下さんは驚く素振りを見せなかった。彼のポーカーフェイスはこんなことでは崩れない。
「……これ、何?」
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