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◇大恋愛がしたいのに④

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 棚野さんは半年前までここで一緒に働いていた元同僚だ。
 元々インテリアコーディネーターになるのが夢で、そちらの道へ進みたいからと転職していった。

 半年前と言えば、ちょうど丹沢さんの結婚が皆に知れ渡ったころだった。
 この店舗にピタリと来なくなった丹沢さんと入れ替わるように、棚野さんが私によく話しかけてくれるようになった。

 同じ店舗で働く者同士は仲良くなるのも早い。
 だけど棚野さんが会社を辞めたら、それ以上関係は進まない。きっと丹沢さんのようにプツリと縁が切れる。
 そう思っていたのだけれど、棚野さんは辞めたあとも仕事の合間などに時間を見つけては店に来てくれている。

「そんなに古巣がいいのか?」などと窪田さんに冷やかされてもニコニコと笑っていて、言い返したりしない。
 窪田さんと萌奈ちゃんは、棚野さんは私に会いに来ているのだと断定しているようだ。
 だけど勝手にそう決めつけられても困る。
 好きだとか付き合ってほしいという“好意”を示す特別な言葉を棚野さんからはなにも言われていないのだから。

 職場が変わって接する時間が減ると、仲良くなるスピードも自然と停滞する。
 商品が綺麗に見える工夫など、以前は私からも売り場作りのことを相談していたのだけれど、それももうなくなってしまった。
 今はたまにご飯に誘ってもらい、お互いの仕事の話や愚痴を言い合うような……私たちはそんな仲だ。

 棚野さんのことはもちろん全然嫌いではない。
 一緒に働いてたときも親切にしてもらっていたし、後輩の私はかなりお世話になった。
 明るくて爽やかで、良い人だとは思う。
 だけど特別な関係になろうとしないのは、棚野さんも私との交際を望んではいないのだと思う。
 窪田さんや萌奈ちゃんが、勝手な憶測ではやし立てているだけだ。

「みんなで集まって、なんの話ですか?」

 私たちが三人でかたまっていたのを見て、棚野さんがいつものように笑みを振りまきながら窪田さんに尋ねる。

「こいつらがな、先週来たイケメン客のことでピーピー騒いでんの」
「窪田さん、ただのイケメンじゃないですよ~。イケメン副社長ですから!」

 そんな萌奈ちゃんの反論を聞いてアハハと声に出して笑う棚野さんは、本当に表情が豊かで明るい人だ。
 ポーカーフェイスな日下さんにも少しわけてあげてほしいくらいに。

「お前さ、もたもたしてると、梅宮と言えども誰かに先を越されるぞ?」

 という言葉は余計だとばかりに、窪田さんに冷たい視線を送る。
 まぁ、モテモテキャラにされるよりはいいけれど、無責任にけしかけないでもらいたい。

 棚野さんも「ヤバいですかね?」などとのん気に笑っている。
 そんなやり取りをされても、私はどう反応していいかわからない。
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