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第四章 修行の成果、戦いの歌

第五話 終わりよければ…?

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 いろいろと考えたいことはあるけれど、とにかく今は私の声を箱を通じて届けることができると分かっただけで良しとしよう。

 一度冷静になって自分の力の残量ゲージを確認する。
 ストフさんの防御力強化のため継続使用中の力と、音を街じゅうから集めるのに使った力が結構大きく、ちょうど残り半分くらいかな。ケガ人が出るかもしれないことを思うと、回復のために力はなるべく残しておきたい。

 声さえ届くのなら、最近練習していたあの力が使えるはずだ。

「私の声~届いて~♪ 街の中と~ストフさんが持つ~箱たちへ~♪」

 これで準備はよし。あとは普通に話しかけるだけ。
 まずはいちばん問題の西門にいる門番の兵士さんへ。

「門番さん!聞こえますか!?今救援部隊が向かっていますから、まずは落ち着いてください」

<うおっ、やっぱり女の子の声がするぞ…?なんだ、オレは死の間際で幻聴でも聞いているのか?>

 やばい、余計にパニックにさせたかも。魔物たちもどこから聞こえたか分からない私の声に戸惑っているようで、街の中への侵入は一時的に止まっているみたいだ。

「今は幻聴でもなんでも良いのでとにかく落ち着いて聞いてください!東側から救援が向かっています。あと数分で到着します。あなたがそこで命を落とす必要はありません。時間を稼ぎましょう」

<なんなんだ…死神か?まあ良い、どうせ死ぬ運命なら信じてみるか!>

 いや、だから、死なないでって言ってるのに…まあいいか。

「魔物の群れはどのくらいの規模ですか?」

<門を閉じる前に確認したところでは三十…いや、四十はいるな>

「街に侵入した魔物はどれくらいですか、今は戦闘中ではないですね?」

<門に空いた小さな穴から小型のやつが八体侵入したが、今はあんたの声にビビって城壁にへばりついてるよ。門の外にいる他の奴らも侵入をためらってるようだな>

「分かりました。では、私の声が聞こえる範囲に魔物がいるということですね?」

<ああ、あんたの声が門とか、通りの向こうとか、いろんな場所から聞こえるんだ。…本当に一体なんなんだ?>

 あれ、しまったかも。門番さんにだけ聞こえるように話していたつもりだったんだけど、もしかして街に設置した他の箱とも全部繋がっちゃってた…?

 ヤバい…と思ったけどもう遅い。聞こえているなら街の他の兵士さんや避難中の住民にも状況が伝わって良かったということにしよう。…どうか私の声だって誰にもバレませんように。

「では、今から私が魔物を眠らせてみます。成功するかは分かりません。あなたはなるべく魔物から遠くに離れていてください」

<お、おう…?>

 今さらだけどちょっと声をぶりっこっぽく高めにして喋ってみた。バレないための悪あがきだけど、もう遅いかもしれない。

 とにかく、予想外だったけど魔物がすぐに門番さんに襲いかからなかったのは幸いだ。集中して、最近の研究成果を披露しようではないか。

「ねーむれ~まーもの~♪ すーやすーやと~♪ ねーむれ~まーもの~♪ いーちじーかん~♪」

 対魔物用として作ったおやすみソング。

 私の力で魔物を退治することができるのかは検証ができなかったし、ストフさんにも「チヨリは絶対に手を汚したり、魔物を刺激したりするような真似はしないでくれ。逃げる時間を稼ぐことだけ考えて」と口を酸っぱくして言われたので、開発した歌。

 練習段階でポーラさんと犬のウルフが協力を買って出てくれたので、人間と動物では問題なく効果が出せることを確認済みだし、効力が続きすぎると私の負担が大きくなることも分かったので制限時間を盛り込むことも決めていた。

<…………>

「ふう、どうでしょう、門番さん。魔物たち、眠りましたかね?」

 気持ち高めの声を出して問いかける。

<…本当に…眠ってやがる…>

「あ、効果あったんですね。良かった!門の外にいる魔物にすべて効いたかどうかは確認できないと思うので、引き続き警戒だけお願いします。討伐は救援隊が到着してからで良いでしょう。魔物は一時間は目を覚まさないはずです」

 とりあえず効果は出たようでほっとする。時間稼ぎにはなっただろう。

<チヨリ…!!聞こえるか!?この箱で会話できるのか!?>

 ストフさんの声が箱を通して聞こえてくる。あれ?と思ったけれど、ストフさんは私の文箱を持っているんだった。

 そうか、通話効果を発動していれば、あれに話しかけてもらえたら会話ができるのか。メールみたいに手紙をやり取りするイメージだったんだけど、もうほとんど携帯電話だな。
 …ていうか箱を使って音を拾うところまで考えていたのに、なんで思いつかなかったんだろう。自分のマヌケさが情けない。まあ、落ち込むのは後だ。

「はい、聞こえます!大丈夫ですか?ケガはありませんか?」

<こちらは問題ない。もうすぐ西門に着くところだ。東側の魔物もすでに九割がた討伐済みで、さらに救援部隊も続々と来る。…可能なら、街の人たちに安心するように伝えてもらえないだろうか。それから、今の状況では避難するよりも家の戸締りをしっかりして屋内で待機してもらった方が良い>

「はい、分かりました。やってみます!」

 今までは意図せず街じゅうに声をばら撒いてしまっていたんだけど、あらためて声をかけろと言われるとちょっと緊張してしまう不思議。

 あれか、田舎のおばあちゃんちでよく聞こえる防災無線みたいなイメージで良いのかな。

「ゴホン。あーあー。マイクテストマイクテスト。…インスの街の皆さん、聞こえますか?状況を説明します。東側に出現した魔物の群れは九割討伐完了しており、西門付近に新たに出現した魔物の群れは現在眠らせています。兵士の皆さんが対処してくれますので、安心してください。それから、街で魔物が暴れまわる状況ではないので、戸締りをしっかりして、家の中で待機してください。…えっと、繰り返します、インスの街の皆さん…」

<<<ワッ!!>>>

 うわ…?

 繰り返し放送をしている間に、街の中の至るところから歓声が上がり、私の耳にガンガンと響いた。箱を通して聞こえてくる人々の声が混ざり合って、脳内で大混線になっている。

<すげえぞ、本当か!?>

<確かめるのは後で良いだろう。家で吉報を待とう>

<ありがたやありがたや…まさか生きているうちに女神様のお声を聞けるとは…>

<魔物討伐できるってよ、良かったなあ>

<やった、どうなることかと思ったけど助かったぞ!>

<いや、結局この声はなんだったんだ…?>
<なんでもいいじゃないか、神の奇跡だよ>

<さっきの歌声、綺麗だったなあ。天使様だろうか>

<なあ、あの声、どっかで聞いたことねえか?>

<パパ―?まいくてすとってなあにー?>

 …うん、なんだかいろいろと大変なことをしでかしたような気はしないでもないな。でも、これで大好きなこの街の危機が無事に乗り越えられたのなら、それですべて良かったのだと思おう。

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