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第二章 はじめての仕事、新たな歌
第九話 秘密の共有者たち
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ストフさんの左肩大ケガ騒動から早一週間。ストフさんとメイドのポーラさんは、私の能力を知った上で、決して秘密を人に明かさないことを誓ってくれた。
二人の他に私の歌の力を知っているのは、ストフさんちの三人の子どもたちと犬のウルフ。
要するに、先日のストフさんのケガを歌の力で治したことがきっかけで、ストフさん一家には私の能力がバレてしまった。最初はどうしたものかと思ったけれど、結果的にはバレて良かったと思う。
この家にいるときは力を隠す必要がないというのは、これまでチートの存在に気付いてからずっとどこか緊張していた私の心を楽にしてくれた。
それにストフさんとポーラさんに気軽に相談できる状況になったことで、この世界の常識がない私としては、ひとりで悩むより一緒に考えてもらえることも非常に助かっている。
やはり私の力は魔法が存在するこの世界でも相当特殊なものらしく、兵士として王都で働いていた経験もあるストフさんにも、博識のポーラさんにも、まったく聞いたことがないと言われた。
私としてはチートバレしたことで、危険で怪しい能力持ちの女として遠ざけられてしまったり、何か迷惑をかけてしまったりしたらどうしようと心配していたのだけど、ストフさん一家はまったくそんな素振りは見せず、驚くほどあっさりすんなり私の歌の力を受け入れてくれた。
「いや、実はエミールから、“チヨのお歌でぼくのおケガ治っちゃったんだよ!痛くないんだよ!チヨすごーい!”という話は聞いていたんだ」
ストフさんに、どうしてそんなに当たり前のような顔で私の力を見ても冷静でいられたのかと質問したところ、そんな答えが返って来た。
「そのときはてっきりエミールが実際はケガなんてしてなくて、チヨリがうまく歌で気を紛らわせてくれたんだと思っていたんだけど……この目で見たどころか、自分の傷がこんなに自然に治ったのを見たら、信じるしかないさ」
穏やかなストフさんの表情と声から、私の力に怯えるわけでもなく、否定するわけでもなく、ただ自然と受け入れてくれていることが感じられる。
「それに、私のケガを治してくれたこともそうだけど、そうじゃなくてもチヨリはすでに私たちにとって恩人なんだ。恩人を売るような真似は死んでもしないし、秘密は守るから安心してほしい。子どもたちにも外で絶対に口外しないようにきつく言い聞かせるよ」
いつも柔和な表情のストフさんだけど、言葉の後半はこれまで見たことがないほど真剣な顔つきで約束してくれた。
その綺麗な青い目で真っ直ぐに見つめられると、どうにも照れるというかムズムズして目を逸らしてしまいたくなるんだけど、ストフさんがあまりのも真剣だったので、私も真っ直ぐ目を見つめ返して頷いた。
そしてメイドのポーラさんはと言うと…
「チヨ、その歌の力でぼっちゃまたちの私に対する人見知りを治すことはできませんか!?」
私の力を怖がるのでも訝しむのでもなく、赤みがかった茶色の瞳をキラキラと輝かせて食い気味に言われた。
実はそれほどまでにエミールたち三兄妹の世話ができないことが、完璧メイドとしては辛くてたまらなかったらしい。
ポーラさんとしては三人を可愛く思うと同時に、主であるストフさんが子育て疲れと睡眠不足でやつれていくのに、十分に力になれないことを気に病んでいたそうで、私の力でその悩みが解決するなら細かい理屈なんかはどうでも良いらしかった。
私からすれば、子どもたちの直接的なお世話はできなくても、この広いお屋敷で子どもたちに見つからないように気配を殺しながら完璧に炊事・洗濯・掃除・その他雑用まで何でもこなしているだけでも、ポーラさんは十二分にすごいし力になっていたと思うのだけど、本人的には不満だったみたい。
こうして、出来るかどうかは半信半疑だったけれど、翌日にポーラさんと子どもたちの前で自作の仲良しこよしソングを披露した。
…結果、子どもたちは見事にポーラさんに懐いた。
「ポーラ!今日のおやつはなあにー?」
「ブランコしたい!ポーラ来て!」
「ポー――――!」
…うん、なんだろう、この複雑な気持ち。
三人のお世話は大変だったので私としても助かるけれど、ベビーシッターとしての私の立場がないというか、子どもたちのポーラさんへの懐きっぷりにちょっとだけジェラシーを感じてしまうというか。
とは言え、三人をひとりで同時に抱っこできないように、人手が必要な場面は多々あるわけで、今ではポーラさんと私で手分けして子どもたちの相手をするようになった。
加えてストフさんもいるときはそれぞれがマンツーマンで子どもの相手ができることもあり、格段に子育ては楽になった。
末っ子ルチアに関しては、相変わらずお昼寝前だけは私が子守歌をうたわないと絶対に寝ないので、私としても面目を保てている気がする。
この数日で、私は自分の力の強さと、それに伴う怖さを知った。
全治三か月のケガが一瞬で治せるというのは、使いようによっては素晴らしいものになるだろうけれど、下手に人に知られてしまえば争いの種にもなりかねないほどの強力な力だ。
ストフさんもその点を心配して、今でも外出時は包帯を巻いて左肩はまだ治っていないアピールをしてくれている。
そしてもう一つ、私のこの力がどの程度人の心に作用するのかは分からないけれど、気を付ける必要があると感じている。
元々ポーラさんは子どもたちのことを可愛く思っていて遠くから見守ってくれていたし、子どもたちがポーラさんのことも好きになってくれるのは良いことだと思う。
もし私の仲良しソングがなかったとしても、例えもっと時間はかかってしまっても、きっといずれポーラさんと子どもたちは打ち解けられたと信じている。私の能力によって、ちょっとだけ分かり合うまでの時間が短縮されただけだ。
でも、もしもこの力で本当に人の気持ちまで変えられてしまうとしたら、それはとても恐ろしいことだと思う。
今回はポーラさんの強い希望もあったし、私自身も成功するかどうか気になるということもあって力を使ってしまったけれど、誰かの心に作用するような歌は今後封印することを決めた。
二人の他に私の歌の力を知っているのは、ストフさんちの三人の子どもたちと犬のウルフ。
要するに、先日のストフさんのケガを歌の力で治したことがきっかけで、ストフさん一家には私の能力がバレてしまった。最初はどうしたものかと思ったけれど、結果的にはバレて良かったと思う。
この家にいるときは力を隠す必要がないというのは、これまでチートの存在に気付いてからずっとどこか緊張していた私の心を楽にしてくれた。
それにストフさんとポーラさんに気軽に相談できる状況になったことで、この世界の常識がない私としては、ひとりで悩むより一緒に考えてもらえることも非常に助かっている。
やはり私の力は魔法が存在するこの世界でも相当特殊なものらしく、兵士として王都で働いていた経験もあるストフさんにも、博識のポーラさんにも、まったく聞いたことがないと言われた。
私としてはチートバレしたことで、危険で怪しい能力持ちの女として遠ざけられてしまったり、何か迷惑をかけてしまったりしたらどうしようと心配していたのだけど、ストフさん一家はまったくそんな素振りは見せず、驚くほどあっさりすんなり私の歌の力を受け入れてくれた。
「いや、実はエミールから、“チヨのお歌でぼくのおケガ治っちゃったんだよ!痛くないんだよ!チヨすごーい!”という話は聞いていたんだ」
ストフさんに、どうしてそんなに当たり前のような顔で私の力を見ても冷静でいられたのかと質問したところ、そんな答えが返って来た。
「そのときはてっきりエミールが実際はケガなんてしてなくて、チヨリがうまく歌で気を紛らわせてくれたんだと思っていたんだけど……この目で見たどころか、自分の傷がこんなに自然に治ったのを見たら、信じるしかないさ」
穏やかなストフさんの表情と声から、私の力に怯えるわけでもなく、否定するわけでもなく、ただ自然と受け入れてくれていることが感じられる。
「それに、私のケガを治してくれたこともそうだけど、そうじゃなくてもチヨリはすでに私たちにとって恩人なんだ。恩人を売るような真似は死んでもしないし、秘密は守るから安心してほしい。子どもたちにも外で絶対に口外しないようにきつく言い聞かせるよ」
いつも柔和な表情のストフさんだけど、言葉の後半はこれまで見たことがないほど真剣な顔つきで約束してくれた。
その綺麗な青い目で真っ直ぐに見つめられると、どうにも照れるというかムズムズして目を逸らしてしまいたくなるんだけど、ストフさんがあまりのも真剣だったので、私も真っ直ぐ目を見つめ返して頷いた。
そしてメイドのポーラさんはと言うと…
「チヨ、その歌の力でぼっちゃまたちの私に対する人見知りを治すことはできませんか!?」
私の力を怖がるのでも訝しむのでもなく、赤みがかった茶色の瞳をキラキラと輝かせて食い気味に言われた。
実はそれほどまでにエミールたち三兄妹の世話ができないことが、完璧メイドとしては辛くてたまらなかったらしい。
ポーラさんとしては三人を可愛く思うと同時に、主であるストフさんが子育て疲れと睡眠不足でやつれていくのに、十分に力になれないことを気に病んでいたそうで、私の力でその悩みが解決するなら細かい理屈なんかはどうでも良いらしかった。
私からすれば、子どもたちの直接的なお世話はできなくても、この広いお屋敷で子どもたちに見つからないように気配を殺しながら完璧に炊事・洗濯・掃除・その他雑用まで何でもこなしているだけでも、ポーラさんは十二分にすごいし力になっていたと思うのだけど、本人的には不満だったみたい。
こうして、出来るかどうかは半信半疑だったけれど、翌日にポーラさんと子どもたちの前で自作の仲良しこよしソングを披露した。
…結果、子どもたちは見事にポーラさんに懐いた。
「ポーラ!今日のおやつはなあにー?」
「ブランコしたい!ポーラ来て!」
「ポー――――!」
…うん、なんだろう、この複雑な気持ち。
三人のお世話は大変だったので私としても助かるけれど、ベビーシッターとしての私の立場がないというか、子どもたちのポーラさんへの懐きっぷりにちょっとだけジェラシーを感じてしまうというか。
とは言え、三人をひとりで同時に抱っこできないように、人手が必要な場面は多々あるわけで、今ではポーラさんと私で手分けして子どもたちの相手をするようになった。
加えてストフさんもいるときはそれぞれがマンツーマンで子どもの相手ができることもあり、格段に子育ては楽になった。
末っ子ルチアに関しては、相変わらずお昼寝前だけは私が子守歌をうたわないと絶対に寝ないので、私としても面目を保てている気がする。
この数日で、私は自分の力の強さと、それに伴う怖さを知った。
全治三か月のケガが一瞬で治せるというのは、使いようによっては素晴らしいものになるだろうけれど、下手に人に知られてしまえば争いの種にもなりかねないほどの強力な力だ。
ストフさんもその点を心配して、今でも外出時は包帯を巻いて左肩はまだ治っていないアピールをしてくれている。
そしてもう一つ、私のこの力がどの程度人の心に作用するのかは分からないけれど、気を付ける必要があると感じている。
元々ポーラさんは子どもたちのことを可愛く思っていて遠くから見守ってくれていたし、子どもたちがポーラさんのことも好きになってくれるのは良いことだと思う。
もし私の仲良しソングがなかったとしても、例えもっと時間はかかってしまっても、きっといずれポーラさんと子どもたちは打ち解けられたと信じている。私の能力によって、ちょっとだけ分かり合うまでの時間が短縮されただけだ。
でも、もしもこの力で本当に人の気持ちまで変えられてしまうとしたら、それはとても恐ろしいことだと思う。
今回はポーラさんの強い希望もあったし、私自身も成功するかどうか気になるということもあって力を使ってしまったけれど、誰かの心に作用するような歌は今後封印することを決めた。
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