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7.こんな日があってもいい

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 ゴールデンウィーク中に気付いたこと。
 それは、尻を差し出すことしかしてない説。

 それでエッチの主導権を握ろうとしたら、リクのちんちんに惨敗する結果に終わった。

 まずはエロから離れなければならない。そう思い立った俺は、彼女が居るミノルに相談することにした。

「彼女にしてもらって嬉しいことってある?」

 昼休み、食堂でラーメンを啜るミノルに聞いてみた。リクは他に用があるらしく、今は席を外している。

「んーフェ「エロ以外で」

 堂々と下ネタを言いそうになったミノルの言葉を遮った。こいつの頭はエロしかないのか。俺もだけど。

「うーん………好きって言われるとか」
「急にピュアだな」

 こないだ好きって言ったら、リクもだいぶ喜んでた気がする。ハグどころか首絞められて死にかけたけど。

「他には?」
「手作りのお菓子くれると嬉しいかも」

 手作り………したことないな。というか、料理もろくにやったことがない。

 基本的に母親がやるか、兄か弟が手伝ってるし。俺は食事の後片付けと皿洗いをするくらいだ。

「他にもなんかある?」
「彼女から手繋いでくれるとか」
「すげー出てくるな」
「まあ、彼女にしてもらったら何でも嬉しいよ」
「好感度上げようとすんなよ。さっき下ネタ言いかけてたくせに」
「えっ?」
「その顔うざ」

 リクと手を繋ぐのも外でやったことがない。友達と同じ距離感で歩いてる。

 『好きって言う』『手作り』『手を繋ぐ』、全部一通りやってみよう。

 まずは放課後にリクの部活終わりまで待って、手を繋いで帰ってみるか。



 ーーー放課後。

「リク、お疲れ~」
「えっ、何で居るの?」

 校門前で待ち伏せていると、リクが驚いて目を丸くした。

 普段は帰宅部の俺が先に帰っていて、リクの部活が終わった頃に部屋へ遊びに行くのがルーティンだ。

 サプライズ感を出したくて待ってることをリクに言ってなかったから、まさか居るとは思わなかったのだろう。

「リクと帰りたいから待ってた」
「……うっ」
「え、どうした」
「いや……待っててくれてありがとう」

 いきなり心臓のあたりを手で押さえたリクは、すぐに気を取り直して嬉しそうに笑った。

 まだ手を繋いでいないのに、けっこう喜んでる感じがする。待っててよかった。ミノルとモ○ハンやってたから、あっという間だったけど。

 家までは徒歩で三十分くらい。二人で歩き出してから、学生の姿が見えなくなった隙にリクの手に触れた。

「え、ど、どうしたの?」
「手を繋いでみたいなと思って」

 指を絡めて恋人繋ぎをすると、リクが「へっ?」と上擦った声を出した。

「いいじゃん、俺たち恋人なんだし」
「……やばい、心臓が」
「体調悪いの?」
「違うよ……さっきからハルが可愛すぎるから」

 リクは照れくさそうに笑った。この反応は嬉しいってことか。
 
「何で? これ以上のこといっぱいしてるのに」
「そうだけど………俺も外で手を繋いでみたいなって思ってたから……嬉しくて」

 遠慮がちに言ったリクの言葉に、胸がキュンとする。リクのほうが可愛くないか?

「それなら早く言ってくれたらよかったのに」
「ハルはこういうの嫌がるかなと……」
「嫌じゃないよ。同じ学校の奴に見られるのは恥ずかしいけどさ」
「本当? これからは手繋いでもいい?」
「うん、いいよ」

 さすがに何度もリクとエッチしているから、手を繋ぐなんてどうってことない。こんなに喜んでもらえると思わなかっただけに、俺まで嬉しくなる。

 通行人からの視線も、二人で笑って話してるうちにすぐにどうでもよくなった。









 次は、『好きって言う』だ。どのタイミングで言うべきだろうか。

 リクの部屋で、俺は床に転がって漫画を読んでいた。リクは横でベッドに寄りかかってスマホをいじっている。

「リク、膝貸して」
「えっ」

 芋虫みたいに床をうにょうにょ這って、リクの膝の上に頭を乗せてみた。

 リクは困惑した表情で見下ろしてくる。

「下から見てもイケメンだね」
「なっ、えっ?」

 俺が真顔で言うと、リクがさらに困惑した。

 人間って下からだとブサイクに見えるらしいけど、リクは全然そんなことない。長年一緒に居るのに、日に日にイケメン度が増していく気がする。幼馴染ではなく恋人になったからだろうか。

「今日、どうしたの? 甘えん坊っていうか……すごく可愛いんだけど……」
「へへ、そう?」

 にんまり笑うと、リクはまた心臓に手を当てた。

「はー……やばい……これ、夢じゃないよね?」

 手を繋いで帰って、膝に頭を乗せただけなのに何でこんな喜んでるんだ。エッチの時に俺をハメ殺そうとしてくる男と同一人物に見えない。

 俺もこんなこと人にしたのは初めてだけど、相手がリクだから恥じらいも何もなかった。女の子だったら、まず手を繋ぐのすら無理だけど。

「なんか……リクって意外とピュアだね」
「い、意外と?」
「だって、エッチの時は俺のこといじめてくるじゃん」
「えっ、いじめてないよ」
「無自覚こわ」

 あれでいじめてる自覚なかったんだ……本人的には可愛がってるつもりなのだろうか。まあ、気持ちいいから別にいいけど。

「そんなことより、リクに言いたいことがある」

 さて、本題だ。起き上がって、リクの膝の上にまたがるように座った。

「な、なに……?」
「よく聞いてね」
「……うん」

 神妙な面持ちになったリクは、ごくっと息を呑んだ。何言われるか不安なんだろうな、と思って口元がニヤけそうになる。

「……………あのさ」
「……う、うん」
「俺、リクのこと………」
「………」
「…………っふ、すき、だよ」

 ダメだ、堪えきれずに笑ってしまった。思い描いてた形と少し違うけど、なんとか伝えたぞ。

 なのに、リクから返事が返ってこない。石のように固まったままだ。

「………リク?」

 名前を呼ぶと、ようやくハッとしたリクが「あ、ああ……」と言って、顔を手で覆ってしまった。

 何だその反応は。嬉しくなかったのか?
 てっきりウレシーとか、ヤッターとか返ってくると思ったのに。

「なあ、リクのこと好きだよ。好き好き。めっちゃ好きだよ。だいす「わあああああっ」

 言い足りないのかと思って、もっと言ってみたら、急にリクが叫び出した。

 俺、破滅の呪文でも唱えたの?

「……リク、嬉しくないの?」
「………しいよ……」
「え?」
「…………うれしいよ……すごく」

 小さく呟いた言葉に、俺の心臓がドクンと跳ねた。

「ちょ、顔見して」
「ま、まって」

 リクの顔を隠す手を無理矢理引き剥がしてみる。すると、リンゴのように真っ赤になっていた。

「…………リク、可愛すぎない?」
「み、見られたくなかった……」

 恥ずかしそうに目を伏せる表情すら愛おしく見える。

 これは、事件だ。幼馴染が可愛すぎる事件。
 俺より身長高くてイケメンなのに、何でこんな可愛いんだ。

「リク、好き。可愛い」
「…………嬉しいけど、複雑だよ」
「好き好き、だーいすき」
「……俺も好き。大好き」

 好きって言い合ってるだけなのに、エッチの時みたいに胸がドキドキする。

 これは実質エッチなのでは?
 という天才的な気づきを得た。

 しかも、何も損しない。これからは積極的に好きって言っていこう。

「あー……今日、死んでもいいかも」
「まだ死ぬな。リクといっぱいしたいことあるんだから」

 俺のエッチな探究心に終わりはない。それに付き合ってくれるのもリクぐらいだろう。



 そのあとは、エッチせずに家へと帰った。キスしようと思ったら「今日は恥ずかしいから無理」って拒否られたからだ。

 このもどかしさでさえも愛おしく感じる。順番は大きく間違っている気がするが、一番恋人らしい日だった。

 でも、これだけじゃ終わらない。まだ手作りが残っている。

 きっとピュアボーイのリクなら泣いて喜んでくれるだろう。



「ただいマウンテンゴリラ~」

 リビングの戸を開けると、母親が奇抜な色の物を手に持っていた。

「おかえり。これ、あんたの部屋から掃除してたら出てきたんだけど」

 一瞬、時が止まった気がした。母親はザ・ワールドを使えたのか。

 母親が手に持っていたのは、俺がベッドの下に隠していた『ちんハメ太郎二号』というピンク色のディルドだった。長らく使っていなかっただけに存在すら忘れていた。

 さーっと血の気が引いていくのを感じた俺は、脳みそをフル回転させる。

「それ………兄ちゃんの。兄ちゃんが置いてった」

 いや、ありえないだろ。弟の部屋にディルドを置いてく兄ってキモすぎるだろ。

 自分で突っ込みを入れたが、この手は何度か使っている。エロ本が見つかった時も同じように言った。たぶん、母親は兄をとんでもない変態だと思ってる。

「ふーん、そう。捨てていい?」
「お、おお俺が預かっておく。兄ちゃんって勝手に物捨てたら怒るしさ」
「確かにそうね」

 納得すんなよ、母親。
 ちんハメ太郎をなんとか取り返した俺は、親バレ事件を難なく逃れることができた。今日はやたら心臓がドキドキすることが多いな。

 ひとまず自室に避難して、ちんハメ太郎をまじまじと見つめる。

 ………これ、どうしよう?
 捨てるのももったいない気がするし、かといって部屋に置いておくとまたバレるのが怖い。

 よし、今度リクの部屋に持って行こう。
 そう思いながら、ベッドの下に戻した。
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