上 下
6 / 11

6 微※

しおりを挟む
 ……寝れなかった。寝ようと考えれば考えるほど悶々として、気付いたら朝になっていた。

 まさか夢オチと思うことすらできないなんて。

「おはよ」

 津田は起こす前に目が覚めたみたいだ。ぐっすり寝れました、と顔に書いてある。

「………………おはよう……」
「なんか、元気ないな。そっこー寝てたのに」

 寝てないんだよ。寝たフリなんだよ。
 ………………なんて、言えるはずもない。

 何でキスしたのってど直球で聞ける性格だったら、どれだけ良かったか。自分の半端に内気な性格を呪った。

「寝すぎて逆に眠いっていうか……はは……」

 ………何言ってるんだろ、俺。
 ベッドから出て立ち上がったら、身体のあちこちが痛い。途中で津田から解放されたけど、それでもベッドが狭すぎた。寝返りもろくに打てやしない。

 一緒に寝るなら、広いベッドがいいな……。
 …………って、何でまた一緒に寝ることを考えてるんだ?

「俺はいつもよりスッキリ寝れたけどな。高瀬のおかげ」
「そ、そっか……よかった」
「また一緒に寝る?」
「え?」

 振り返ったら、ベッドに座る津田と目が合った。じいっと見つめられて、つい目が泳いでしまう。

「………冗談だって。本気にすんなよ」

 津田がそう言って立ち上がり、俺の横を通り過ぎようとした。咄嗟にスウェットの裾を掴む。

「なに?」
「………………寝よう。一緒に」

 ……………ほんと何言ってるんだ、俺。
 昨日は梯子から落ちたから。
 じゃあ、次は? 何で一緒に寝るの?

「俺も実は………高いところ怖いんだよね」

 ………という嘘をついたら、津田は目を少し大きく見開いた。

「………っはは、もっと早く言えよ」

 また笑った。笑わせるつもりはなかったのに。どうして俺は嘘をついてしまったんだろう。








 それからというもの、奇妙な抱き枕生活は毎日続いていた。

 人は理解できないことがありすぎると、勝手に許容できる身体の作りになっているらしい。寝れなかったのは最初の一回だけで、回数を重ねるごとに寝るスピードが早くなっていた。昨日なんて五分もかからないうちに寝た気がする。

 津田と一緒に寝るのは落ち着く。キスされたのも一回だけだから、その衝撃すら忘れていた。聞くタイミングを逃したから、理由もわからない。

 だけど、今日は一個気になることがあって。後ろから抱きしめられてるんだけど。

 ……………腰に、当たってるんだよ。
 ………硬いのが。

 さすがにこんなんじゃ寝れなくて。
 落ち着けるわけがなくて。
 息を殺して寝たフリしてるんだけど。

 男って意識しなくても勃起してることあるし、寝てる時もそうなるから…………最初はその類かなって思ってたんだ。

「はー……………やばい………」

 起きてるんだよね、確実に。
 さっきなんて、うなじにキスされたし。
 今もお腹あたりを撫でられてる。
 
 急展開についていけない。振り返って「俺も起きてるよ」って言ったらどうなるんだろう。たぶん、一緒に寝ることはなくなるだろう。それこそルームメイトを変えることになるかも。

 ……………そのほうが、嫌なんだよなあ。
 そう思ってしまう自分が一番怖い。

「……………っふ……」

 あ、出てきた。
 先端を俺の肌に擦り付けられて、上下にしごく振動が伝わってくる。

 ………何でこんなことするんだろう?

「…………たかせ………ごめん………」

 俺の名前を呼ぶ声がやたらと色っぽくて、下半身が反応してしまいそうになる。というか、もう半勃ちになっていた。

 性のはけ口にされてることに、嫌悪感を抱かないのは何故なのか。俺ってそんなに変態だったのかな…………。

 感情が行方不明だ。
 俺の気持ちも、津田の気持ちも。

 お互いにお互いを嫌ってるわけじゃない。
 一緒に寝るのが落ち着くって思う。
 それだけはわかっている。

 ただ、もっと腑に落ちる言葉があるんじゃないか。

「……………っ」

 あ、イった。
 そう考えてるうちに、津田はイったみたいだ。

 余韻に浸るような荒い息遣いがうなじにかかる。ぞくぞくした。

 今、津田はどんな表情をしてるんだろう。どんな気持ちなんだろう。



「…………はあ………好き……好きだ……」

 好き。
 ……………そうか、好き…………なのか。

 だから、ルームメイトを変えたくなかったんだ。それで俺と急に話すようになったり、一緒に寝ようと言ってきたのか。唐突におかずにされたのもそのせいか。

 なるほど……………好き、好き………。
 …………………好き?

 …………なんで?

「………………おやすみ」

 もう一度うなじにキスをされて、ぎゅっと抱きしめられた。しばらくしたら、寝息が聞こえてくる。

 …………ちょっと待て。寝るな!
 一方的に欲をぶつけて、好きって言っといて先に寝るのか?

 俺、起きてるんだけど?
 いや………津田の視点だと寝てるのか……。
 
 なんで寝てる俺に好きって言うんだよ。
 せめて起きてる時に言ってよ。

 あー、もう、なんで!?



 腕をどかして振り返ると、無防備な寝顔があった。普段のクールな印象とは違い、あどけなさを感じる。

 ……………可愛いな………。
 一気に毒気が抜かれて、食い入るようにその寝顔を見つめてしまう。

「…………あー………好きだな…………」

 無意識のうちに口に出していた。

 好き。
 ……………そうか、俺も好きなんだ。

 だから、よく心臓がドキドキして苦しくなるし、また一緒に寝たいって思ったし、おかずにされても嫌だと感じなかったんだな…………。

「はーっ………好き。好きすぎる………」

 津田の首元に顔を埋めて、すんすんと匂いを嗅ぎまくる。この匂い、好き。匂いフェチじゃなかったはずなのに、津田の匂いはずっと嗅いでいたくなる。

 やばい、本格的に勃ってきた。
 寝てる相手に欲情するなんて最低か? でも、津田も同じことしてきたし………別にいいよね?

 下のスウェットをずらして、モノを取り出す。裏筋から先端にかけてゆっくりとしごきはじめた。

「……っふ…………んぁ…………」

 あー、すごく興奮する…………。
 好きな人の匂いを嗅ぎながら触るの、やばい。

 津田は俺をおかずにすることに罪悪感を抱いていたようだけど、これっぽっちも申し訳なさを感じない。

 俺のほうが欲深い人間なのかも……。
 
「…………っ」

 ………秒でイった。早漏すぎる。
 手の中に吐き出した欲をティッシュに丸めて捨てた。

 俺の余裕のない顔とは違う、穏やかな寝顔を眺める。まさか自分がおかずにされてるとは思っていないだろうな。

「……………好き。俺も好きなんだよ………」

 唇にそっと口付けを落とした。寝てる相手に言ったって意味はないのに。



 この日を境に、奇妙な抱き枕生活に変化が起きた。互いに寝てる間におかずにし合うようになった。我ながら意味がわからない。

 というのも、津田が本音を口にする瞬間が"俺が寝てる時(ということになってる)だけ"だからだ。

 日中は至って普通に接してくるし、順調に仲良くはなってきている。ただ、それはあくまで友達としてというだけで。

 ……………どうすればいいんだ、これ。
 告白したらいいのかな?
 素直に「好き」って言えばいいの?



「………? なんでそんな見てくんの?」

 朝、食堂で朝ご飯を食べている時に津田を見ていたら不思議そうに聞かれた。

 ああ、今日もイケメンだなあ………。
 味噌汁が熱くて「あちっ」って言ってたの、可愛かったなあ……。

 ピアスばっちばちで、髪色もど派手なのに、なんでこんなに可愛いんだろ………。

 好きすぎる。可愛すぎる。
 でも、言える気がしない………。

「ううん、なんでもないよ」

 だって、俺も素直に言えない性格だから!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同室のイケメンに毎晩オカズにされる件

おみなしづき
BL
 オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?  それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎  毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。  段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです! ※がっつりR18です。予告はありません。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた

おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。 それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。 俺の自慢の兄だった。 高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。 「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」 俺は兄にめちゃくちゃにされた。 ※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。 ※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。 ※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。 ※こんなタイトルですが、愛はあります。 ※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。 ※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

どうやらドSの先輩に狙われているようです

おみなしづき
BL
 瀬上智則(せがみとものり)は、つり上がった目に薄い唇が特徴の見た目がドSっぽい高校生。  見た目のせいで、ドMの変態にばかり目をつけられる。  ある時、痴漢にあって助けられる。  助かったと感謝したその人は、学校の先輩で……。 ※がっつりR18です。予告はないのでご注意を。

【短編/R18】親友からホワイトデーにお返しもらったけど全く心当たりない

ナイトウ
BL
モテモテチャラ男風巨根イかせたがりDD攻め×平凡攻め大好き全肯定系DD受け 傾向: 両片想いからのイチャラブ、イかせ、前立腺責め、PC筋開発、精嚢責め、直腸S状部責め、トコロテン、連続絶頂、快楽漬け、あへおほ 両片思いだった大学生ふたりが勘違いの結果両思いになり、攻めの好きゲージ大解放により受けがぐちゃぐちゃにされる話です。

旦那とご無沙汰のドスケベ妻♂が宅配配達員と浮気セックスを楽しむ話

さくた
BL
寝取りもののつもりで書いてたけどあんまり寝取り感でなかったな

酔った勢いで幼馴染と寝たら、翌日何倍にもして返された話

辻河
BL
・酔っ払って片思いの相手を襲ってしまった受けが、翌朝記憶を失って素面の状態で攻めにどれだけ好かれているか分からされる話 ・散々煽られたのに翌朝何も覚えていないと言われご立腹の攻め(本谷瀬永/もとやせな)×攻めに大恋愛をしていたら酔って全部本人に露呈した挙句とろとろになるまで詰められる受け(藤野維月/ふじのいづき) ※♡喘ぎ、濁点喘ぎ、結腸責めなどの表現が含まれています。

処理中です...