お兄さんに拾われた少年のお話

出会い

2・記憶の中で…

　その落ち着かせようとする声が少し震えていて，父と母はそれとなく何が起こっているのか理解しているようだった。

「う，うん」

　アウスは渋々そう答えた。これ以外何を言えばいいのか分からなかったから。

「なら，ご飯を食べちゃいましょ」

　母は先ほどまでの声色とは裏腹に明るく仕切り直して，アウスにそう促した。

「食べる」

　母が元気になったとアウスは思い，大きく頷き，またご飯を食べ始めた。なるべく，父のことを外のことを考えないようにして。考えてしまうといけないように思ったから。
　そうして，食べ終わる頃になると次第に辺りが騒がしくなってきたのを嫌でも感じた。いつもなら，この時間は静かなはず。なのに……。
　何を言っているのか分からない，そんな声と悲鳴が聞こえ始めていたのだ。

「何があったのかな？」

　恐怖を感じて，不安になりつつ，外の様子が気になってアウスは窓の外を覗こうとした。その瞬間，アウスは母に止められてしまう。

「ダメよ。見ては」

　いつになく険しい表情をしている。

「え，でも」

　母の表情に圧倒されながらも，アウスは気になってしまう。異常なことが起きていると否が応でも感じてしまったから。

「ダメよ。私たちはここで息を潜めているの。きっと，お父さんがどうにかしてくれるから」

　アウスを家から出さないように母は，アウスを宥める。
　けれど，アウスは，どうしても気になってしまう。

「気になる。だって，誰か傷ついてるかもしれないんだよ。なら，助けなきゃ」

「ダメ。言うことを聞いて。お願いだから」

　母は外に出ようとするアウスの手を引っ張り行かせないようにする。

「でも，お父さんが困っている人や傷ついている人がいるなら助けなきゃダメって言ってた」

　アウスは，人を助けることが大切だと父がよく言っていたことを思い出して話す。
　アウスの父は，よく人助けをしている。力持ちで強くて，いろんな人に頼りにされているそんな父だった。そんな父を見ていた，アウスは父が誇りであり、憧れでもあった。

「そうね，それは正しいことよ。だけどね，今日はダメよ。あなたのことが大切だから」

　どうしても行かせないように母は，アウスの身体から離れようとはしなかった。

「嫌だ。僕も，お父さんにみたいに助けに行きたい」

（いいことをしようとしているのに，どうしてダメなの？）

　そう思って，アウスも一歩も引き下がろうとはしなかった。

　そのとき突然，玄関の方から大きな音がした。

「えっ……」

　訳もわからず，アウスは立っていた。驚いて，動かずにいることしかできなかった。