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気づき
2・おじいさんの話
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想いを伝える。
これは,僕たちが定年を迎えてから決めていたこと。
今までいろんな喧嘩もいろんなことも長い間共にしていたからあった。その度に,伝えられないこと伝えきれなかったことそんな数々の想いが心の中に押し込めれた。お互いに。だから,僕たちは思ったことをちゃんと話そう。そう決めたのだ。
「じいさんがまだ私にそんなことを思ってくれているなんて……嬉しいですね」
シワがもういくつもあるのに,昔とわからず頬を染めている。
「……呼ばれているから,いったほうがいいんじゃないか?」
こっちまで恥ずかしくなるなんて思って言葉に詰まった。その時,ちょうどよく,レントゲン室の扉が開いて,ばあさんが呼ばれた。
「ですね。なら,いってきます」
すっと立ち上がり,スタスタと歩いていった。まるで,健康ですと言っているように。
それから,少しして,ばあさんが撮り終えて帰ってきた。
「じゃあ,行きますか」
「だな」
僕は,すぐに立ち上がりばあさんの後ろからついていく。
「大丈夫だといいんですけどね」
ばあさんはいつもの声色でふと声に出した。
「そうだね。何にもないといいですね」
僕たちは,待合室でもう一度椅子に座りながらそんな話をする。
健康診断でも,ばあさんはいつも健康そのものだった。それは,彼女がいつも健康に気を遣っていたから。
「佐藤さん」
もう一度,診察室のドアが開いて,呼ばれた。今度は,僕も一緒に。
流石に僕も怖くなって,ちゃんと聞くことにした。
僕たちが診察室に入って,ドアが閉まると,先生はおもむろに話を始める。レントゲンの結果を見て,ばあさんに病気が見つかったということ。これから,通院をしていかなければならないこと。それに,病気が進んでいたことが淡々と告げられた。
話自体はそんなに長くはなかった。ただ,僕たちにはとても長く,思い時間が流れた。
「どうしましょうか?」
ドアがもう一度開いて,僕たちは診察室から出た時ばあさんは囁いた。小さく,不安そうに。
「どうしようか……」
僕も突然のことで言葉に詰まっていた。
唯一,肩を持って一緒に悲しんでやるしかできなかった。
ただ涙はその時には溢れなかった。むしろこぼせなかったほうが正しいのかもしれない。驚きと不安の方が勝って。
でも,確かにその日から僕たちの生活は変わった。
悪くも良くも変わったのだ。
これは,僕たちが定年を迎えてから決めていたこと。
今までいろんな喧嘩もいろんなことも長い間共にしていたからあった。その度に,伝えられないこと伝えきれなかったことそんな数々の想いが心の中に押し込めれた。お互いに。だから,僕たちは思ったことをちゃんと話そう。そう決めたのだ。
「じいさんがまだ私にそんなことを思ってくれているなんて……嬉しいですね」
シワがもういくつもあるのに,昔とわからず頬を染めている。
「……呼ばれているから,いったほうがいいんじゃないか?」
こっちまで恥ずかしくなるなんて思って言葉に詰まった。その時,ちょうどよく,レントゲン室の扉が開いて,ばあさんが呼ばれた。
「ですね。なら,いってきます」
すっと立ち上がり,スタスタと歩いていった。まるで,健康ですと言っているように。
それから,少しして,ばあさんが撮り終えて帰ってきた。
「じゃあ,行きますか」
「だな」
僕は,すぐに立ち上がりばあさんの後ろからついていく。
「大丈夫だといいんですけどね」
ばあさんはいつもの声色でふと声に出した。
「そうだね。何にもないといいですね」
僕たちは,待合室でもう一度椅子に座りながらそんな話をする。
健康診断でも,ばあさんはいつも健康そのものだった。それは,彼女がいつも健康に気を遣っていたから。
「佐藤さん」
もう一度,診察室のドアが開いて,呼ばれた。今度は,僕も一緒に。
流石に僕も怖くなって,ちゃんと聞くことにした。
僕たちが診察室に入って,ドアが閉まると,先生はおもむろに話を始める。レントゲンの結果を見て,ばあさんに病気が見つかったということ。これから,通院をしていかなければならないこと。それに,病気が進んでいたことが淡々と告げられた。
話自体はそんなに長くはなかった。ただ,僕たちにはとても長く,思い時間が流れた。
「どうしましょうか?」
ドアがもう一度開いて,僕たちは診察室から出た時ばあさんは囁いた。小さく,不安そうに。
「どうしようか……」
僕も突然のことで言葉に詰まっていた。
唯一,肩を持って一緒に悲しんでやるしかできなかった。
ただ涙はその時には溢れなかった。むしろこぼせなかったほうが正しいのかもしれない。驚きと不安の方が勝って。
でも,確かにその日から僕たちの生活は変わった。
悪くも良くも変わったのだ。
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