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おじいさんの待ち人
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「おはようございます」
いつものように,バイト先に挨拶をして更衣室へと入った。
更衣室で着替えを済ませると,ほんの少し働くまでに時間があったので,携帯をいじりながら時間を潰す。
そうして,時間になって仕舞えば,タイムカードを押して,働き始める。
「おはようございます」
ホールにいる同僚の方にもう一度挨拶をして,今日はどのような感じかを聞く。お客さんの入り方,料理がどうなっているのかを。
これが,私の最近の日常。
ここで働き始めて,2ヶ月が過ぎようとしている。
最近では,慣れて来て、常連さんの顔も覚え始めてきている。接客に至っては以前とは比べ物にならないほど上手くなったのではないかと自負するほど,頑張った。
そんな今日もいつもと変わらない日々が始まった。
チャリンチャリンとドアにかかっているものが音を立てた。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
私はそのドアの前に立ちお客様を向かい入れる。
「えっと,2人」
入って来たのは,年配の男性だった。すでに髪の毛は白髪の方が多くなり,右手には杖をついている。けれど,身なりはしっかりとしていて,青のボーダーシャツにチャックのジャケットを羽織り,黒のズボンを履いていた。
私はぞの男性を見てどこかかっこいい方だと思った。
けれど,おじいさんが言った2人という部分に疑問が残る。あたりも見渡しても,おじいさん以外お客さんがいなかったから。
「2人……?」
疑問に思いながらも,きっとあとでもう1人くるのだろうと思って私はおじいさんをすぐに案内をした。
「こちらでよろしいでしょうか?」
その席は,窓側にある4人で座る用の席で,1人のおじいさんには少々大きいように感じるようなそんな場所。
「うん。ありがとうね」
「いえ,大丈夫です。こちら,お水になります」
私はそう言って,ウォーターピッチャーをその席にそっと置く。
「ありがとう」
おじいさんは,にこやかな笑みでに返事をしてくれた。
(優しそうな顔)
なかなか,返事をしてくれる人自体ほとんどいない。それに,返事をしてくれてもそんな優しそうな顔をこちらに向けてくれる人はもっと少ない。
だから,私は思った以上に嬉しくなってしまう。
「ゆっくりしていってください」
そう付け加えて,おじいさんが注文するのを待った。真剣に選んでいる姿は,どこか楽しそうだった。
それから,5分ほど経っておじいさんに呼ばれた。
「ご注文はいかがなさいますか?」
私は紙とペンを持ち,いつでも注文されてもいいように構えた。
「じゃあ,これとこれとこれでお願いしていいかな?」
おじいさんは写真が載っている料理達を一つ一つ指を指して,注文をしていく。
「かしこまりました。少々お待ちください」
そういったもののおじいさんが頼んだ量は決して1人で食べ切れるようには思えない量だった。それでも,おじいさんが頼んだのだからと思い,そのままキッチンの方へと料理名を伝えていく。
「お願いします」
料理名を言い終えるとそう付け加える。いつのまにか癖になっていた。
そして,キッチンの方からも,「はーい」という声が聞こえてくるので決して一方通行にはなっていない。
キッチンは,ホールの立っているところから見えるようになっていて,調理をしている様子を楽しむことができたりする。それに,見えることによって何が作られているのかがすぐにわかるので、こちらとしても出しやすくなっていて、考えられているなと最近になって思い始めていた。
そうして,自分の立っているところから客席を見渡すと,みんな楽しそうに笑顔で食べていて,楽しそうに料理を選ぶ姿が伺える。
(このバイトしてよかった)
心の底から思う瞬間だった。
そうしていくうちに,時間が経って,後ろからいい匂いが鼻腔を掠めた。もうすぐ,料理ができるのだと思い後ろを振り返ると,美味しそうに盛り付けられた料理がこちらの方へと出されている。
「ありがとうございます」
そう言ってから,おじいさんの元へと向かった。
「お待たせいたしました。こちらになります」
「ありがとう。やっぱりここの料理はいいね」
おじいさんはニコニコしながら,そう言った。
ここで働き始めて,早2ヶ月おじいさんがここに来たことを私は見たことがなかった。けれど,おじいさんがここに何度も足を運んでくれていることをおじいさんの言葉で理解をする。
「はい,そうですね」
私もまかないをもらってはいるので,よくここの料理を食べている。どれも美味しくて,頬が落ちそうになる。
そう思いながら,おじいさんの席を後にする。
こんなお客さんなら,いくら来てもいいのになんて考えて。
それから,おじいさんの頼んだ料理が全て出来上がっていく。おじいさんの頼んだ料理は,ここのお店の自慢のものばかりでハズレなどなく,どれも美味しそうに見える。
けれど,2人とおじいさんが言っていたのに,なかなかその2人目の方が来ない。加えて,おじいさんの方もガッツリと食べ始めてしまっている。
(一体,いつ来るんだろう?)
そんなことを考えながら,私は他のお客さんの対応もしっかりとこなしていく。
「ありがとうございました」
おじいさんよりも先に食べ始めていた人が帰って,次のお客さんが来るといったくらいの時間になると,ピンポーンという呼び出し音が鳴った。
「はーい。今行きます」
そういって,片付けをしていた机からおじいさんの机へと向かう。
「どうなさいましたか?」
「もしよかったら,持ち帰りたいんだけど,持ち帰り用のパックとかないかな?」
おじいさんのテーブルの上には食べかけの料理たちが乗っている。
もちろん全て食べ終えていたものもあったけれど,ほとんど手がつけられていないものもあった。
「わかりました。少々お待ちください」
杏里はそういって,何個かのタッパと輪ゴム,それからビニール袋を持っていく。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「うん。ありがとう。なんか,ごめんね」
おじいさんは申し訳なさそうに言う。
その格好がどこか,寂しく見えてしまった。
「いえ,お気になさらないでください。では,失礼しますね」
「本当に,ありがとうね」
「はい,では」
私は笑顔になって,その場を失礼した。おじいさんのにこにことした表情が私を自然に笑顔にさせていた。
それから少しして,おじいさんは両手に料理が入った袋を持ってレジまでやってきた。
「ありがとうございました」
レジに立つとまずそれだけ言って,私は伝票を受け取る。
伝票を受け取り、そして,機会に値段を読み取らせた。
「2565円になります」
ここのお店を1人で利用しているのに高すぎる金額で,やっぱりおじいさんが頼みすぎていたのだと感じた。
「じゃあこれで」
おじいさんは,5000円札を一枚出した。
私はそれを受け取り,すぐにレジへと打ち込んだ。
「では,こちらお返しになります」
自動でお釣りが出てくるので,出てきたお釣りをそのままおじいさんに返した。
「ありがとう」
ニコッともう一度微笑んで,おじいさんはお釣りを受け取った。
「ありがとうございました」
礼をして,私はおじいさんを入り口まで見送った。
ほんの少し曲がっている背中はやっぱりどこか悲しそうに見えた。
「ありがとう。実はね,ここは奥さんとよくきていた場所なんだ。だから,やっぱり奥さんを探してしまってね」
その言葉は不思議とすんなり私の心の中へと入ってきた。
入ってきて,同時にどう答えるのが正解なのかわからなかった。
それは,もう奥さんがここにはいないと言っているようだったから。いや,実際そうなのだろう。
「……そのっ」
私が何か言葉を探していると,おじいさんは,ゆったりと話を遮った。
「いいんだよ。また,くるからね。今度は,ちゃんと2人ではなく,1人と答えれるように」
いつものように,バイト先に挨拶をして更衣室へと入った。
更衣室で着替えを済ませると,ほんの少し働くまでに時間があったので,携帯をいじりながら時間を潰す。
そうして,時間になって仕舞えば,タイムカードを押して,働き始める。
「おはようございます」
ホールにいる同僚の方にもう一度挨拶をして,今日はどのような感じかを聞く。お客さんの入り方,料理がどうなっているのかを。
これが,私の最近の日常。
ここで働き始めて,2ヶ月が過ぎようとしている。
最近では,慣れて来て、常連さんの顔も覚え始めてきている。接客に至っては以前とは比べ物にならないほど上手くなったのではないかと自負するほど,頑張った。
そんな今日もいつもと変わらない日々が始まった。
チャリンチャリンとドアにかかっているものが音を立てた。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
私はそのドアの前に立ちお客様を向かい入れる。
「えっと,2人」
入って来たのは,年配の男性だった。すでに髪の毛は白髪の方が多くなり,右手には杖をついている。けれど,身なりはしっかりとしていて,青のボーダーシャツにチャックのジャケットを羽織り,黒のズボンを履いていた。
私はぞの男性を見てどこかかっこいい方だと思った。
けれど,おじいさんが言った2人という部分に疑問が残る。あたりも見渡しても,おじいさん以外お客さんがいなかったから。
「2人……?」
疑問に思いながらも,きっとあとでもう1人くるのだろうと思って私はおじいさんをすぐに案内をした。
「こちらでよろしいでしょうか?」
その席は,窓側にある4人で座る用の席で,1人のおじいさんには少々大きいように感じるようなそんな場所。
「うん。ありがとうね」
「いえ,大丈夫です。こちら,お水になります」
私はそう言って,ウォーターピッチャーをその席にそっと置く。
「ありがとう」
おじいさんは,にこやかな笑みでに返事をしてくれた。
(優しそうな顔)
なかなか,返事をしてくれる人自体ほとんどいない。それに,返事をしてくれてもそんな優しそうな顔をこちらに向けてくれる人はもっと少ない。
だから,私は思った以上に嬉しくなってしまう。
「ゆっくりしていってください」
そう付け加えて,おじいさんが注文するのを待った。真剣に選んでいる姿は,どこか楽しそうだった。
それから,5分ほど経っておじいさんに呼ばれた。
「ご注文はいかがなさいますか?」
私は紙とペンを持ち,いつでも注文されてもいいように構えた。
「じゃあ,これとこれとこれでお願いしていいかな?」
おじいさんは写真が載っている料理達を一つ一つ指を指して,注文をしていく。
「かしこまりました。少々お待ちください」
そういったもののおじいさんが頼んだ量は決して1人で食べ切れるようには思えない量だった。それでも,おじいさんが頼んだのだからと思い,そのままキッチンの方へと料理名を伝えていく。
「お願いします」
料理名を言い終えるとそう付け加える。いつのまにか癖になっていた。
そして,キッチンの方からも,「はーい」という声が聞こえてくるので決して一方通行にはなっていない。
キッチンは,ホールの立っているところから見えるようになっていて,調理をしている様子を楽しむことができたりする。それに,見えることによって何が作られているのかがすぐにわかるので、こちらとしても出しやすくなっていて、考えられているなと最近になって思い始めていた。
そうして,自分の立っているところから客席を見渡すと,みんな楽しそうに笑顔で食べていて,楽しそうに料理を選ぶ姿が伺える。
(このバイトしてよかった)
心の底から思う瞬間だった。
そうしていくうちに,時間が経って,後ろからいい匂いが鼻腔を掠めた。もうすぐ,料理ができるのだと思い後ろを振り返ると,美味しそうに盛り付けられた料理がこちらの方へと出されている。
「ありがとうございます」
そう言ってから,おじいさんの元へと向かった。
「お待たせいたしました。こちらになります」
「ありがとう。やっぱりここの料理はいいね」
おじいさんはニコニコしながら,そう言った。
ここで働き始めて,早2ヶ月おじいさんがここに来たことを私は見たことがなかった。けれど,おじいさんがここに何度も足を運んでくれていることをおじいさんの言葉で理解をする。
「はい,そうですね」
私もまかないをもらってはいるので,よくここの料理を食べている。どれも美味しくて,頬が落ちそうになる。
そう思いながら,おじいさんの席を後にする。
こんなお客さんなら,いくら来てもいいのになんて考えて。
それから,おじいさんの頼んだ料理が全て出来上がっていく。おじいさんの頼んだ料理は,ここのお店の自慢のものばかりでハズレなどなく,どれも美味しそうに見える。
けれど,2人とおじいさんが言っていたのに,なかなかその2人目の方が来ない。加えて,おじいさんの方もガッツリと食べ始めてしまっている。
(一体,いつ来るんだろう?)
そんなことを考えながら,私は他のお客さんの対応もしっかりとこなしていく。
「ありがとうございました」
おじいさんよりも先に食べ始めていた人が帰って,次のお客さんが来るといったくらいの時間になると,ピンポーンという呼び出し音が鳴った。
「はーい。今行きます」
そういって,片付けをしていた机からおじいさんの机へと向かう。
「どうなさいましたか?」
「もしよかったら,持ち帰りたいんだけど,持ち帰り用のパックとかないかな?」
おじいさんのテーブルの上には食べかけの料理たちが乗っている。
もちろん全て食べ終えていたものもあったけれど,ほとんど手がつけられていないものもあった。
「わかりました。少々お待ちください」
杏里はそういって,何個かのタッパと輪ゴム,それからビニール袋を持っていく。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「うん。ありがとう。なんか,ごめんね」
おじいさんは申し訳なさそうに言う。
その格好がどこか,寂しく見えてしまった。
「いえ,お気になさらないでください。では,失礼しますね」
「本当に,ありがとうね」
「はい,では」
私は笑顔になって,その場を失礼した。おじいさんのにこにことした表情が私を自然に笑顔にさせていた。
それから少しして,おじいさんは両手に料理が入った袋を持ってレジまでやってきた。
「ありがとうございました」
レジに立つとまずそれだけ言って,私は伝票を受け取る。
伝票を受け取り、そして,機会に値段を読み取らせた。
「2565円になります」
ここのお店を1人で利用しているのに高すぎる金額で,やっぱりおじいさんが頼みすぎていたのだと感じた。
「じゃあこれで」
おじいさんは,5000円札を一枚出した。
私はそれを受け取り,すぐにレジへと打ち込んだ。
「では,こちらお返しになります」
自動でお釣りが出てくるので,出てきたお釣りをそのままおじいさんに返した。
「ありがとう」
ニコッともう一度微笑んで,おじいさんはお釣りを受け取った。
「ありがとうございました」
礼をして,私はおじいさんを入り口まで見送った。
ほんの少し曲がっている背中はやっぱりどこか悲しそうに見えた。
「ありがとう。実はね,ここは奥さんとよくきていた場所なんだ。だから,やっぱり奥さんを探してしまってね」
その言葉は不思議とすんなり私の心の中へと入ってきた。
入ってきて,同時にどう答えるのが正解なのかわからなかった。
それは,もう奥さんがここにはいないと言っているようだったから。いや,実際そうなのだろう。
「……そのっ」
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