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4章

【117】嬉しさと切なさと思惑と

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 ギルドに入ると、見知った2人が受付に座っている。

「ルーシ君、久しぶりだね」

 とアリア。

「どうかしたのですか?」

 とルーシの表情から察するレイニー。

「うん、セドの事‥‥ジークリットさん知らないかなって」
「あぁ、分かりました。今取り次げるか確認して来ますね」

 レイニーが席を立つ。

「セドリックさんがどうかしたの?」

 レイニーと違ってアリアは何も知らなそうだけど、ルーシが言い辛そうなのは分かったみたいでそれ以上聞いて来ようとはしなかった。


「お待たせ。ルーシ君、長室に言って下さい。ギルド長が待ってます」


 長室は3階の奥。
 ノックして入るとジークリットさんが椅子から立ち上がり、ソファに手招きしてくれる。

「ルーシ、久しぶりだな」

 久しぶりだし、差しで話すのは初めてじゃないかしら。

「セドリックの事でって聞いたが、死亡認定の事でいいか?」
「うん」
「張り紙はギルドが絡んではいるが、教会や国から指示があったモノを焼いて貼り出している」

 ジークリットさんが普段より真面目に会話している。

「あれに関しては教会指示で、それ以上の思惑やらは知らされてないし、知ってても言えない。分かるだろ?」
「‥‥うん」
「ただ、セドリックに化けた奴がヴィオラをたぶらかしてるって話だから、彼女に一石投じる事になれば良いなとは思ってる」

 そうね。ヴィオラは催眠か無いかに掛かってそうだったけど、それを壊す機会になればいいか。
 どうせもう貼り出されているのだからそれに期待するしかないか。

「所で、どうだ?最近は」

 目的の話が終わると見透かした様にレイニーが現れ、雑談が始まる。

「学校はどう?楽しい?」
「うん」

 何でレイニーも参加してるのか分からないけど、入試で関わったから気になってるって事なのかしらね。

「友達も出来たんだ」
「おお、それはいいな」

 ジークリットさんがガイウスさんの口癖に似た事を口にする。
 元々学園で一緒で、今は義理の兄弟なんだっけ。
 いい歳になっても言葉使いが移っちゃう友達って何だか良いわね。
 カシウスともそうだけど、リドーやアル達とそんな関係に成れたらいいなぁ。



 予定よりガイウス邸に行くのが遅くなってしまった。
 まぁアポ無しなんで遅いも早いも無いっちゃ無いのだけれど。

「あら、ルーシ様」

 出迎えてくれたのは顔見知りではあるけど、関わりのそんな無い使用人の女性。

「申し訳ありません。皆様、本邸の方においでに成られているので、こちらにはお帰りになりません」

 来た時は誰かしら必ず居たもんだから、ここが別館なのを忘れてた。
 学校休みで、ガイウスさんの仕事で必要なければ本館に居て当然。
 アタシ達も1週間は居ないって言ってたしね。

「明日は居ますか?」
「予定はございませんが、連絡すればお越しに成られるかもしれません」
「じゃぁ、また明日来ます」
「はい。お待ちしております」

 アタシ達って本館行った事ないし、場所もよく分からない。
 カシウス達なら「来てよ」って言ってくれそうだけど、大人はそこの線引きをしているんだと思う。

 ガイウス邸のお風呂に入れると思ってたからちょっと残念だったなぁとか考えてながらのんびり帰宅。
 トーラカフェの夜の営業のちょっと前に帰って来た。

「ルーシ君、お帰り」

 セルヴィとアルが迎えてくれる。
 2人共、昼夜働いててホント感心しちゃうわ。

「ルーシ君、大丈夫?」

 アルにはちゃんと説明しないで出てっちゃったから心配してくれてたのね。
 でもごめん、詳しくは説明してあげられないかな。

「あら?ルーシ君、今日アル君の所に行ったんじゃないの?」
「来てくれましたよ。でも、貼り紙見て急に出てっちゃったから‥‥」
「貼り紙?」
「はい。死亡認定の所見て‥‥」

 セルヴィがカウンター下の貼り紙を覗き込み、表情が暗くなる。

「セドリック‥‥」
「うん‥‥ それでギルドに確認に行って来たんだ‥‥」

 アルが余計な事を言ったと察して、口をつぐんで下を向く。

「そうなんだ‥‥ で、どうだったの?」
「教会の指示だから理由は知らないって」
「そうなんだ‥‥」
「セルヴィ、アル!そろそろ開店だよ、シャキッとしな!」

 チェイオさんは豪快な人だけど、普段怒鳴ったりしないのに珍しい。

「ルーシも部屋戻んな。邪魔するなら飯抜きだよ」

 おっと、それは勘弁だわ。大人しく戻りましょ。
 彼女の一喝で暗い雰囲気が晴れた様に見えた。


 その後、夜ご飯頂きに降りるのがちょっと忍びないなぁと思っていると、部屋にアルが届けに来てくれた。
 チェイオさんの指示だとか。
 彼女の豪快でがさつそうなのに気が回る所はホント凄い。
 そこが料理の旨さの秘訣だったりするのかな。

「なんかごめんね、余計な事言っちゃったみたいで」

 アルが少し言い辛そうに話す。

「そんな事ないよ。でもセルヴィもチェイオさんも知ってる人で、悲しい気持ちにしちゃうから、あまりあの話は出来ないかな。ごめんね」
「ううん、もう聞かないね。リドーにも言っておくね」
「ありがとう」

 アルの顔が少し晴れた。
 彼を遣わしたチェイオさんの采配には意味があったのかもね。



 次の日の昼前にガイウスさんから使いが来た。
 ちょうど歩いて行こうとしてた所だったので、馬車移動になって大助かりよ。

「ルーシ、お帰り。昨日は申し訳なかったね」

 リビングまで通されると、見知ったサンペリエ御一行が居る。
 それだけで何だか落ち着くのは、ここもアタシ達の家って思っちゃってるからかな。

「僕こそ、急に出掛けて直ぐ帰って来ちゃったから」
「本当早かったわね。ナナチャちゃんもお帰り」

 テルティアがアタシを抱き締める。
 尖った耳が微かに動いてる。
 感情がのるのかな。犬の尻尾みたいで可愛いわ。

「うん。直ぐに片付いちゃったから」

 それ以上は言えないし、皆聞かない。
 カシウスに至っては聞いてない。
 珍しいわね。ルーシが来てるのに上の空だわ。

「カシウス、どうかしたの?」

 ルーシもそれに気付いて心配そうな声色になる。

「あ、あぁ。ルーシにも関わって来る事だからちゃんと伝えないとね」

 ガイウスさんの口調からして良い話じゃ無さそうね。

「カシウスとプートリアが婚約するんだ」

 プートリアってプットリーよね?
 良い話じゃないの。ってか彼女王女様よね。

「来年の年始に公表されて、その時、婚姻後に王位継承権の序列も変更されると発表するそうなんだ‥‥」
「カシウス様が条件付きで序列第一位になられるそうです」
「それって」
「カシウスが次の王様になるんですって!」

 大人が素直に喜ばないので、テルティアがはしゃいでる。

「ミュー!」
「カシウス、おめでとう。ナナチャもおめでとうだって」

 大人の思惑があるのだろうけれど、それでもめでたい事には変わりないわ。

「ルー兄、ありがとう。でも、なんだか良く分かんないんだよね」

 そりゃぁ、急に結婚が決まって尚且つ王様にまで成れって言われて実感なんて湧くわけないわよね。

「何はともあれ、おめでたい話では御座いませんか」
「ああ、そうだね。カシウスおめでとう」

 カシウスの紋章が『王家の痣』って言われてるヤツなのが大きな要因なんでしょう。
 ガイウスさんは受紋の時もいい顔してなかったな。
 たぶん、王族や貴族のシガラミが嫌いで、子供達にもそれを抱えさせたくないって考えてたんだと思う。

「それに伴って、来年から学園でもカシウスに2人、テルティアに1人護衛を同伴させる事になるんだ」
「それはオラに任せて欲しいですだ」

 ハマールがちょっと興奮してて訛りが強い。
 絶対彼が外されるとは思えないから、そんな意気込まなくても良さそうよね。
 エイミラットもそう感じたのかハマールの側に寄ってでコッソリなだめてる。

「そうだね。もちろんハマールにカシウスの護衛をお願いするつもりだよ。テルティアにはエイミラットで、カシウスのもう1人をルーシにお願いしたいんだ」

 関わってくるってそう言う事ね。もちろん断るわけないわ。

「今までは何となくお願いしてたけど、正式となれば給金も出すよ」

 それは有難いけど、それって雇入れって事よね。
 ロジバールさんやハマールみたいにここで暮らすって事になるのかな。
 お風呂もベッドも魅力的だけど、それはどうなんだろう‥‥

「ううん、弟を守るのにお金は要らないよ。それにこの前みたいに急に教会の仕事が入ったりするかもしれないし‥‥」
「確かにそうですね。こちらから教会に打診して了承を得た方が宜しいですね」
「そうだね、まだ急ぎでは無いし。後、別件ちゃ別件で、まだ皆んなには話していなかったんだけど‥‥」

 ガイウスさんがそう言い掛けた時、急にハマールが前に出て来た。
 エイミラットに小突かれての事の様に見えたのはアタシだけ?

「ガイウス様、オイラに話させて下さい」
「そうだね。ハマールが話した方がいいね」

 カシウスの上の空が治る。いつも一緒なのに何も知らされて無かった様子。

「えっと‥‥ このたび‥‥」

 ハマールが必死に訛らない様にしているのが分かる。
 それを見ていたエイミラットが寄り添い、優しく背中に手を添える。

「!」

 違った。優しそうに背中に手を回して、思いっきりツネってる。

「こ、この度オイラ、ワタクシハマールはエイミラットさんと結婚する事になりました!」

   え?マジ?
 響めきが走る。
と言っても、当人2人とガイウスさんロジィさんは知っていたみたいだから、ビックリしてるのは子供達とアタシだけ。

「おめでとう。全然知らなかった」
「2人ともおめでとう!私も全然知らなかった」
「ありがとうございます。隠していた訳では無いのですが、お話しする程の事でも無かったので」

 子供達が何も知らされて居なくてもブー垂れずに素直に祝福してくれて、エイミラットが笑顔を忍ばせる。
なんだかんだエイミーも緊張してたのかな。
 『話す程の事じゃない』って言われてちょっと悲しい顔したハマールが可愛い。
 前からそうだけど、完全に尻に引かれてるわね。いい夫婦になりそう。

「2人にはこれから通いで来て貰おうと思っているんだ」

 結婚したら新居で2人だけの時間が、そりゃぁ欲しいわよね。
 でも、そしたら邸での側付はロジィさんだけになっちゃうのかな。

「それに伴って側付を増員したくて、任せられる人を探しているのだけれど、ギルドに相談しようと思っているけど、ルーシの知り合いで良い人いないかい?」

 ちゃんと護衛出来るの前提で素性も大事になってくるから、近しいし人の推薦や意見を聞きたいんでしょう。
ジークリットさん然り、ルーシ然りね。
 とは言うものの、そこまで知り合い多い訳じゃ無いから思い着くのはグフリアのクランの人くらい?
 でも、あそこって女冒険者しか居ないから、エイミーの代わりは良いけどハマールの代わりには成れないかな。

「ディオとティチーノは?」

 ああ、あの2人のスキルなら護衛に適してるし、ちょうど男女だしね。いい子達だし。
 でも、彼らってミソギ中じゃなかった?終わってたとしても条件はルーシと同じじゃないかな。

「その2人とはルーシは仲良しなのかい?」

 ルーシが2人の事を説明する。
 2人の了解得てないけど、話が進めば分かる事だし変に隠したら印象悪くなっちゃうかもしれないしね。
 はっきりした理由はないけど、ルーシもアタシも彼らが側付きになってくれたらいいなって思っちゃてる。

「スムカ君の兄弟なんだね‥‥ ルーシが進めるなら悪い人じゃないだろうね」
「うん。ナナチャも真面目でいい子って言ってる」
「一度お会いして見ては如何ですか。御二人も教会に話を通さなくては成りませんし、進めて行くかはそれからでも」
「そうだね。いい子でも相性はあるだろうから、ハマールとエイミー、それに子供達にも会って貰ってから決めようか」

 この話がひと段落するとエイミーの表情が仕事モードに戻る。

「まずはカシウス様のダンスの稽古を始めないといけませんね」
「え、いいよ。去年まで学園でやってたし」

 カシウスはそっけない表情と口調で言うが、心底嫌なのが仕草に出ている。

「そうは行きません」
「そうだよカシウス。ちゃんと踊れないとプットリーに嫌われちゃうよ?私が練習付き合ってあげるから」
「姉さんとはいいよ」
「何でよ」
「だって姉さんも下手だろ?」

 テルティアが図星だけどって感じに顔をクシャらせる。

「そうですね。これを機会にテルティア様も稽古なさっておいた方が宜しいですね」

 エイミラットの薄い笑みにテルティアとカシウスの背筋が凍る。
 たぶんエイミラットがスパルタモードの時はいつもあんな表情なのかも。
だとしたら、恐怖だわ。

「まぁ、公の場で披露するわけだからエイミーには申し訳ないけど家庭教師を別に雇おうかな」

 子供達がこっそり胸を撫で下ろしてる。
よっぱど厳しいのねエイミラットは。

「因みに、ガイウス様もですよ」
「え、僕は遠慮しとくよ」
「何をおっしゃいます。ガイウス様もダンスをされる可能性は十分あるのですから。そもそも以前から練習する様申してましたのに、だからいざという時に付け焼き刃になってしまうのですよ」

 王族が使用人に説教されてる。
異様な光景なんだろうけど、この家族だと逆に和む光景ね。
 彼女がしっかりしていて、ちゃんと叱るからこの家は成り立ってるのかもね。

 たぶん家庭教師が居たとしてもエイミーに3人はビシバシされるんだろうなぁ。
 申し訳ないけど、その姿を側から見るのが楽しみだわ。
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