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1章
【33】スタンピード?
しおりを挟む「今日は数が少ないわね」
只今一旦休憩中。
1列で壁に凭れて座り、端々真ん中とで薪をくべている。
ゴブリンの桃ほどの絶大な効果はないけれど、コボルトは火を嫌うし、煙の匂いで鼻が効かなくなるもの狙ってる。
「昨日とか誰か狩ってるんじゃない?」
「グフリア達かもね」
「そうかもね」
携帯食のナッツを食べながらのんびりする。
ゴブリンと違い、コボルトの攻撃はバリエーション豊かだった。その上脚力あるし、爪も牙も武器にしてくる。
だいたい5体で連携して攻めてくる。
そんなのを3人で狩ってるんだったら、グフリア達は相当な手練れだわ。
「誰か降りてくるわ」
1番階段寄りのヴィオラが言う。
4人組が階段を降り始めた所だった。
「本当だね。あの人達の動向みてから再開にしようか」
無いだろうけど、同じ方にやって来たらモンスターと間違いかねないものね。
「あれって1層目で会った若い子達じゃない?」
さすがリネット。目がいいわね。
「若い子ってあの意気がってた奴ら?」
「そうだってナナチャも言ってるよ」
「あの子達、こんな所まで来れるくらいの実力者だったんだぁ」
「調子乗って来ちゃったとかじゃないの?」
ヴィオラは相当嫌ってる。失礼なのが気に入らなかったらしい。
彼女も初見だと失礼な娘だけどね。
「冒険者の実力なんて見た目も年齢も関係ないからね。ルーシが良い例よ」
ルーシもそうだけど、リネットやヴァルキュリアのコリティスなんかも見た目は女の子なのにAランクなわけだから。ホント見た目に寄らないわね。
さすがに向こうもアタシ達には気付いているのか、階段を降りて逆周り気味で進み出してる。
「なんかあの子達真ん中ら辺進んでない?」
確かに壁から遠い所を歩いてる。
「5層目に行きたいんじゃないの?」
「それでも真ん中はリスキーよね」
「自信あるんでしょう。他パーティー心配しすぎるのも野暮よ」
「それもそうね」
「火もくすぶって来たし、そろそろ俺達も気合い入れようか」
焚き火を警戒されていただけでコボルトはこちらを認識してるし、なんなら徐々に間合いを詰められてる。
斜め前と斜め後ろに1組づつ。その間で遠くにもう1組。
「休憩後が1番危険だから気を引き締めて行こう」
セドがルーシの肩を叩く。
「1組ワタシに任せてくれない?このままじゃ鈍りそうだし」
「じゃぁ私も。3匹位なら行けるよ」
とニコラとリネット。
「分かった。リネットは前を。ニコラは後ろをやれるだけ倒してくれ。残りを俺達が対処しよう」
「「「「了解」」」」
「また、リネット切っ掛けで行くぞ」
「分かったわ。じゃぁ行くね。」
リネットが弓を横に構え、3本同時に射る。それが2体に命中。
左の1体には2本刺さった。
「あ、失敗しちゃった」
って言いながらも即座にもう1本射って3体目も煙らせる。
ニコラが『氷竹』と唱えると細長い竹の子状の氷が乱雑に地面から生え、後ろの1組を突き刺し、屠る。
前の残り2体はルーシとセドで仕留めた。
「次来るぞ」
遠くにいたもう1組も20メートルの距離まで迫って来ている。
「!?」
腕を振り上げるまで来ていたコボルト達が突然止まり、後ろを振り返って走り去った。
「何かしら」
みんな戸惑ってる。
dwodwodwodwodwodwo!!!
gll-!gga!
足音と唸り声が重奏の様に響く。
コボルトが1点に集まりだし、5層目への階段辺りからも長蛇の列で駆けてきている。
「あっちからいっぱい来るよ!」
コボルトが向かう先にあの若者達が居る。
「あいつら犬笛遣いやがった!」
「まさか!?」
既に4層目に居たであろうコボルト達に囲まれている。
「うおぉー!!」
若者の内の誰かの大声。悲鳴に近い。捌ききれてないのは明らか。
「バカじゃないの!?」
長蛇の列は切れ目なく押し寄せる。
「ニコラ、5層の階段塞げるか!?」
「遠すぎて無理!リネット連れてって!」
ニコラを背後から抱き、リネットが飛び立つ。
「数減らしながら行くわね!」
「頼む。俺達は助けに向かおう」
「先に行くわね!」
とヴィオラ。
「ダメだ!俺とスピード合わせてくれ」
「わかった」
「ルーシとナナチャは少し遅れて、俺達の取りこぼしを始末してくれ」
「うん」
「手に負えなければ見捨てて撤退する。行くぞ!」
目標地点までは約1キロ。到着後に戦闘になると思うと、全速力で向かうわけにも行かない。4分以上は掛かる。
若者達が壁際を進まなかったお陰で近いけど、その分八方塞がれて戦況は不利。
ニコラが彼らのそばに『氷壁』を1枚創り、『氷竹』を数発打ち込んでくれたのはデカイ。
そのまま『氷竹』を連発しながら階段へと向かう。
1.3キロはある長蛇の列。ニコラがだいぶ散らしてくれるけど、全ては到底無理だし、いまだにゾロゾロ5層目から湧いてくる。
「壁、背にして戦え!!」
セドが怒鳴る。それに従ったのは2人。残りの2人は無視したわね。
「ホントにバカ‥‥」
ヴィオラはもう一本の剣を抜き、二刀流で走り込む。
さっきの怒声で手前の半数はこちらにシフトチェンジしている。
そこをセドとヴィオラで切り開く。
セドは両手で剣を持ち、力一杯の大振りに薙ぎまくる。
5、6体は同時に仕留めてるし、煙らなかった奴も遠くに吹っ飛ばされてる。
ヴィオラは剣1本に対して1体づつなれど、速さを活かした攻撃で次々仕留めてる。
髪もなびき、汗が飛び散る姿はまるで剣舞。青白い光りに照らされて、まるで神事。
彼らがほぼほぼ取りこぼさないように戦ってくれてるから、その分歩みが遅い。
その所為ではないけれど、セドを無視した2人にたどり着いた時には既に倒れていた。
「ルーシ、2人生きてる!?」
1人、うっすら息がある。
ルーシはそいつを抱き起こして自分の指先を噛み千切った!
「ダメ!!」
「なにするの!?」
瀕死の若者に血を飲まそうとするルーシの指を尻尾ではたく。
「念話でしゃべりなさい!」
「なんでダメなの?苦しんでるよ!」
「その力は隠そうって。理由もわかってるでしょ?!」
「そうだけど」
「みんなと離ればなれになっちゃうかもしれないのよ?」
「‥‥」
「その子は大切な人?」
「違うけど‥‥」
「なら、可愛そうだけど諦めて」
「‥‥今、死んだみたい。」
「そっか。後の2人を助けることに集中しましょ」
「‥‥うん。」
「ルーシ、どうなの!?」
ヴィオラが再度訊ねる。
「ダメだった‥‥」
「じゃぁ、後の2人連れて3層まで逃げるぞ!」
ルーシごめんね。でも、全てを捨ててでも助ける相手はアナタにとって大切な人であるべきだと思うの‥‥
残りの2人の所まで、ルーシのアタシも無我夢中で戦った。
興奮してるコボルトは火に怯えなくなるらしい。アタシの火が牽制にならない。
みんな服もボロボロ。
「セドどう?」
ニコラ達がこちらの上空に戻って来た。
「こっちの2人は息がある」
「わかった。ごめんワタシそろそろ魔力切れしそう」
彼女が往復で魔法連発してくれてたから増員抑えられて、こちらも何とかなってたんだと思う。
「先に階段で待機してくれ」
「了解。みんな来たらこっちの階段も塞ぐから!」
「ニコラ降ろしたら、また来るからね!」
そう言い残して2人は飛び去る。
「2人は俺が担いでく。ルーシが先導。ヴィオラがしんがり」
「「了解」」
ダンジョンの中央より階段に近い位置だったのと、もともと階段付近のコボルトは退治していたのもあって進行方向の敵は少ない。
逆に後方にはまだ50体は残ってる。
セドは両手塞がってるから、しんがりのヴィオラの負担が大きいわ。なるべく急ぎましょう。
「急いでいい?」
ルーシが言う。
「ああ。ルーシの速さに合わせるよ。着いてけなければ声かける」
ルーシの歩幅と脚力でも全力だせば大人に比毛を取らない。それにスタミナは無限大だから全力を維持できる。
もっと長距離だったら2人も着いてこられなかったかもしれない。
「お待たせ。後ろは任せて!」
リネットが合流し、上空から後方のコボルト達を次々射止めていく。
「踊り場まで登って!」
とニコラ。アタシ達は一心に階段を駆け上がる。
「『氷壁』」
みんながニコラを追い越すと踊り場の下の段に氷の壁が出来た。
ジャンプじゃ越えられず、滑って登れない。横も階段の倍はみ出してるから伝って来られない。
「これで打ち止め‥‥」
ニコラが疲弊しているのが見て分かる。
「とにかく広い所に出よう。リネット薪は残ってるね?」
「ええ。6本はあるわ。」
アタシ達はそのまま階段を登り、3層目に戻った。
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