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7・イナゴ退治と次回の話

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「マジかよ」

 イナゴ共がアルカスの上空に集まり日差しを遮る。
 1体のイナゴが急降下で彼に襲いかかるのを、鉈で薙ぎ倒す。

「くそがぁ!」

 怯んでいる余裕はない。
 雄叫びで気持ちを奮い立たせる。

 アルカスという的が小さいので、幸いイナゴは順番に襲いかかって来る。
 1体づつならアルカスでも何とか一刀両断で太刀打ち出来ている。
 だが数が多く、休み無しで攻めて来るので体力が持たないかもしれない。


 辺りに大量な巨大イナゴの死体。
 足の踏み場が無くなるのでなるべく村から遠ざかるように場所を移しながら闘う。

「くそっ」

 1体仕損じてしまっても次は襲って来る。
そうして徐々に1度に対峙する数が増えて、その所為でまた仕留め損なう悪循環に陥りだす。

「うわっ」

 左腕に食い付かれた。

「いってぇ!!」

 イナゴの強靭な顎でいとも容易く腕が食いちぎられる。

「くそが!」

 腕を喰らうイナゴはなんとか刺し殺したが、限界が近い。
 血と一緒に気力も減って行くのが分かる。
 次の1体が口を開けて迫る。

(いくら死ななくても、頭喰われたら動けなくなるよな‥‥)

 こんな間近でイナゴの口を見つめた人間は自分だけだろう等と戦意喪失気味に考えていると、突然イナゴが倒れ込む。
 死体を見ると側頭部に矢が刺さっていた。
 その後も同じように矢に撃たれて倒れるイナゴ共。
 振り返えるとベニエが弓を引いている。

「やっと手伝う気になったのかよ‥‥」

 視界が薄れてくる。

「しっかりしなさい!まだ終わってませんよ」

 突然頬を叩かれ意識を取り戻すと目の前にシャルロットが立っていた。

「‥‥お前達が手伝わないから苦戦してるんでしょうが!」

 急に怒りが沸き起こり、力が戻る。
 シャルロットに対しての怒りだが彼女に向けるわけにも行かないので、イナゴに向ける。

「手伝いに来たじゃないですか」
「今更かよ」
「そう言うなら手伝わないですよ」
「‥‥ああもう。手伝って下さい!」

 八つ当たりになってしまってイナゴに申し訳ない気持ちも沸くが、そうも言ってられない。
 まだ半数は上空にいる。

 シャルロットが合流した事でイナゴの攻撃が2手に別れた。
 シャルロットは見た目からは到底想像出来ない破壊力でイナゴ共を叩き散らす。
 自分に向かって来るイナゴの頭をメイスで叩くと爆発したかの様に弾け、呆気に取られて打ち損じたアルカス側のイナゴは石突きで突き刺す。

「ボケっとしないで下さい。貴方が負けたら手助けも終了ですよ」
「オレが負けたら村を守ってくれないって事?」
「はい。貴方の使命の手助けをする為に居ますから」
「だったら最初っから手伝ってよ。言う事もやる事もメチャクチャだな!」


 シャルロットが残りのイナゴ共のほとんどを砕く中、アルカスもなにくそ精神で戦い、ベニエの援護射撃もあって最後の1体を倒すまで奮い立ち続けた。

「終わった‥‥」

 安堵した事で糸が切れたように倒れ込む。
 それをシャルロットが受け止める。

「良く頑張りましたね」

 初めてシャルロットがアルカスに微笑んだが、アルカスはそれに気が付かない程意識が遠退いている。

「シャルロット、彼大丈夫?」
「ええ。まだ意識もあります。ベニエお願いします」
「任せて」

 ベニエは2人に駆け寄るとシャルロットから受け取る様にアルカスを抱き寄せた。

「頑張ったわね、偉いわ。今助けて上げる!」


(血の味がする‥‥ 口の中切ってたっけ)

 消えかけていた意識が次第に甦る。
 唇に柔らかい感触。

「!」

 目を開くと直ぐ間近にベニエの顔。
感触が彼女の唇だと気付く。

「いったーい」

 思わずベニエを突き飛ばしてしまった。

「何するのよ」
「いやいやいや、こっちのセリフだし、何してくれてんのさ」

 嫌な気はしない。むしろ嬉しいと思って仕舞いそうなのを必死で堪え、アルカスは左手で唇を拭う。

「‥‥あれ?」

 イナゴに喰われた左腕が元通りになっている。
服の袖は千切られたままだが。

「何って治癒してあげたんじゃない」
「え‥‥ そうなの?」
「そうですよ。ベニエの治癒力は体内の水に宿ってますから」
「血が1番回復させられるのよ」

 ベニエの血色が悪くなっているのに気が付く。
 血を沢山飲ませてくれたのかもしれない。

(体内の水って‥‥ 血は水じゃないし、例えだよな‥‥?)

 比喩だと解釈しても卑猥な想像が頭を過る程にアルカスは回復していた。

「それを突き飛ばすなんて酷いですよ」
「知らなかったから‥‥ ごめん。それにありがとう」
「やっぱり素直だと可愛いわね」

 と軽口を言いながら体勢を直したベニエはシャルロットの隣に立ち、アルカスに向かって2人で頭を下げた。

「すまなかった」
「え、何が?」
「お前の根性を試させて貰った」
「投げ出さないか、助けに入ったら任せっきりにしてこないか見定めていました」
「‥‥別にいいよ。おんぶにだっこな奴と行動したくない気持ちは分かるから」

 手助けする様言われて来たくせにと言いたい気持ちにはなったが、ウゼスの思い通りに成りたくないと思っている自分が言えた義理でもないなと思い直す。

「オレは死なないけど、さっきみたいな怪我は治らないからベニエがいて、ベニエを守る為にシャルロットがいる。そんな感じなんでしょ?」
「恐らくは」
「今後もちゃんと戦うよ。そうしないと家族が危ないし」
「どう言う事?」
「オレが邪神討伐ってのをやらないと家族を呪うってウゼスに言われてるんだよ」
「‥‥なんて卑劣な‥‥」

 シャルロットは思わず口に出してしまう。
 いくら自分の崇めている神では無いにしても、その神より上位な神であるウゼスを冒涜するのは許される事ではないはずだが、そう思うのが自分だけではないと分かってアルカスは気が楽になった。

「この後はどうするか御告げされてるの?」

 恨み辛みを話した所で変わらない。
アルカスはそう思い、話を変えるつもりで聞いた。

「それはまだ。一つを成し遂げたら次をお教え頂けるはずよ」
「それは儂から伝えようかのぉ」
「誰だ!」

 それはまた突然で、シャルロットとベニエは声のした方を振り返り武器を構える。
 アルカスからすれば驚きもしないシチュエーションに、聞き飽きた声。

「ウゼスか‥‥」
「え?」

 イナゴの死骸が口を利く状況と、それが主神だと言う事実に使徒の2人は驚く。
 彼女達が取り乱すのは出会ってから初めてだ。

「久しぶりじゃの」
「そうでもないでしょ」
「‥‥本当に主神様なの?」
「ふぉっふぉっ、そうじゃよ。」

 アルカスも頷く。

「理解したかの?なら、頭が高くないかのぉ」

 使徒が思い出した様に跪く。

「ふぉっふぉっ、敬虔な使徒で良し。それにしてもアルカスは相変わらずじゃな」
「あんたと契約はしたけど、従属はしてないからな。別にいいだろ?」
「まぁ、お主はそうじゃろうて。構わんよ」
「なら要件をとっとと伝えて、消えてくれない?」
「つれないのぉ。まぁ良いじゃろう。儂もイナゴで口寄せするのは気持ち良くない」

 使徒達は完全に畏まってしまっている。

「さて、次はミノ市に行くのじゃ」
「ミノ市ってどこ?」
「それはそこの2人に聞くがよいわ。ミノ市でそこの王に牛退治に来たと伝えるがよい」
「牛退治?」
「詳細は現地に赴けばわかるじゃろう」

 終いの挨拶もせずにウゼスの気配が消える。

(確かにとっとと消えろって言ったけど、説明はちゃんとして欲しいよな)

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