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おかえりなさい

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「帰ってきたみたい。迎えに行きましょう」
「待っていればいいのでは?」
「私が早く子どもたちやジョージア様に会いたいのよ」


 クスクス笑いながら、執務室を出ていく。ディルはもちろんついてきてくれるが、アデルは少し悩んでいたので、待っているように伝えた。玄関に入ってきたようで、子ども特有の高い声で嬉しそうにおしゃべりするアンジェラ。少しめんどくさそうに同意をしているジョージ。姉弟を見つめながら、ネイトを抱きかかえたジョージアとその後ろをウィルとミアがついて歩いている。その姿を二階から見ていると、実に微笑ましいのだが、一気に愛おしさと家に帰ってきたという安心感が胸に広がっていく。


「ジョージア様、おかえりなさい」
「……アンナ?」


 階段を降りているところでジョージアに声をかけると、ジョージアだけでなく、子どもたちも私に気が付いてかけてきた。


「ママっ!」
「おかえりなさい!」


 階段の踊り場まで行き屈むと、真っ先にアンジェラが私の胸に飛び込んできた。普段は程よい距離を保つのだが、久しぶりの再会のときだけは、ジョージより甘えてくる。ジョージも駆け寄ってきたが、先を越されてしまったので、直前で立ち止まっている。「いらっしゃい」と声をかけ、腕を広げると、ジョージも嬉しそうに私の腕の中に飛び込んできた。


「ママ、いつ帰ってきたの?」
「コーコナは楽しかった?」


 口々にいう二人の子どもをギュっと抱きしめて、「ただいま。あなたたちがいなくて、とても寂しかったわ」と言うと、小さな頬が私の両頬に擦り寄ってくる。血は繋がらない姉弟でも、同じようにするので、それだけで嬉しくなった。


「おかえり、コーコナの方はもういいの?」
「えぇ、もう執務はあらかた片付けてきましたし、視察も終わりましたよ。あとは優秀なココナたちに任せれば大丈夫。みんな本当に優秀よね?」
「……それは、アンナがアンバー公爵家に嫁いできたから集まった人材だろう?」


 少し困った表情を向けてくるジョージアに「そんなことはない」と首を横に振った。実際、ディルは優秀であったし、ディルの子飼いの子猫たちは、かなり優秀な人材ばかりが揃っている。屋敷の人選ももちろんディルがしているので侍従も粒ぞろいなのだ。


「謙遜はしなくていいさ。アンナの元で働きたいという優秀な人材は増え続けているって言う話はよくきくからね。俺だってアンバー公爵なんだから、アンナのことなら、耳に入ってくることも多い。公がよく言っているよ」
「ろくな話じゃなさそうですが……なんて言っているのです?」
「筆頭貴族にしなければよかったって」
「……馬車馬のように、国のために働けと言う意味でしょうね?」
「たぶんね。『ハニーローズ』の母親であり、アンバー公爵領の繁栄、コーコナ領の復興、南の領地での病への対応、その裏に潜むインゼロ帝国の影を次々に潰していく手腕を考えれば、次期宰相の器と言ってもいいだろうって」


 大きなため息と共に、立ち上がる。子どもたちが名残惜しそうにするので、両手を差し出すとそれぞれギュっと握り返してくる。


「宰相の器なら、すでに用意してありますよ?私ではなく、私の上に行くものが、私の友人にいますし、この国を文武両方から支える人材は少しずつではありますが、育ってきています。貴族だって、公と志を共にと考えてくれているものたちも増えました」
「アンナがいてくれたからだろう?アンナなしで、公や俺だけでは、そんな国作りなんて難しいし、ゴールド公爵に太刀打ちできるはずもない」
「やらないといけません。公の成長ももちろんですが、ジョージア様。私はジョージア様の貴族として矜持も成長も期待しています。この国のためにと大きなことを考えなくてもいいのです。まずは、子どもたちのために、このアンバー公爵家に仕えてくれている侍従たちやその家族のために、アンバー公爵領に住まう領民のためにと少しずつ広がりをつけ、幸せになる方法を模索してください。百人いて百人を幸せにすることは出来ません。限りなく、百人に近づくよう、努力が必要なだけです。決して諦めないでくださいね?それが、ジョージア様に公爵として課せられた課題だと思います」


 微笑みかけ、子どもたちと執務室へと歩き始める。コーコナ領での話を聞きたいようで、二人ともソワソワしているので、今日は二人へお土産と一緒に領地の話をすることになりそうだ。私のいない寂しさを埋めるように、ときおりこうして話を聞きたがる。小さな子どもだと侮ることなかれ。少しずつ自我が固まって来ている二人は、それぞれの好みや考え方を確率しつつあるのだ。どんなふうに成長するかはわからないが、今、こうして、私の執務に興味を持つことで、この先の成長を楽しみにしている。
 そんな二人の様子をジョージアも見つめ、自身のあるべき姿を考えているようだった。子どもの成長は、何も子どもたちだけのものではないと感じ、私はクスっと笑うのであった。
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