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お姫様とは誰のことでしょう?

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「さっきお姫様なんてとっさに言ってしまったんですけど」
「えっ?いいじゃない?私、今、とても気分がいいわ!」
「でしょうね?ご機嫌そうですもの」


 アデルが何とも言えない微妙な表情でこちらを見てくるのだが、言いたいことはなんとなくわかった。ダリアもわかったのかクスクスと笑い始めた。


「お姫様とは誰のことでしょう?」
「私じゃなかったの?」


 かわい子ぶってアデルを見つめると、明らかに目を伏せられた。わかっているが、それは酷くないだろうか?


「アンナ様って、お姫様って感じじゃないですよね?」
「じゃあ何?」
「生まれながらの女王様」


 アデルととの会話にこらえきれなくて、ダリアがお腹を押さえながら笑い始めた。乗合馬車は私たちと御者しかいないので、何事かと御者が振り返った。


「じょ、女王様?私が?」
「思いませんか?ダリアさんは」
「女王様は……その通りだと思うわ!誰にも縛られない感じとか、むしろ公をも手玉に取っているあたりとか」
「そんなことないのに……」
「アンナの光は強すぎるのですよ。みなが、見ずにはいられないほど、注目の的なのです」
「それは、お母様の教育の賜物ではなくて?真なる女王様は、私のお母様だわ」
「そうなのですか?私はお会いしたことがないから、わかりませんが」
「教育の賜物だったとしても、元々、アンナに備わっているものだと思いますよ?」


 もう少ししたらコーコナ領の屋敷へ着く。私たちは笑いながら、公の話をしていた。すると、御者が混ざりたそうにこちらを見てくる。


「どうかして?」


 声をかけると、遠慮気味に公の話をしてきた。御者は会ったことがもちろんないのだが、昔の噂話は耳に入ってきている。それは仕方がないことだろう。遊びまわっていたのだから。今の現状を教えてほしいというので、今は真面目に政務をしていると話した。


「それなら、いいんです」
「何かあるの?」
「……いえ、昨年の話で、あの病が流行ったときに妻を亡くしてまして……公の噂話が本当なら、許せないと思って」
「そうだったのね。お気の毒に……。あの病のときは、多くの人が亡くなったわね。公もそれを心から痛ましいと思っているわ。いち早く、医者や薬の手配をするように手を打ったのは公だったのよ」
「……そんな。それじゃあ……」
「医者も薬も届かなかったのね。事情はあるのだけど、国民を見捨てたりする公ではないわ。ただ、公には味方が少ないのよ。あなたの奥様に届ける医者も薬も全てくすねられてしまったの。あなたの悲しみが深いことは、声を聞けばわかる。だから、公の事情をわかってとは言わないけど、公も国民のために戦っていることを忘れないであげてほしい。昔は、ダメな公世子だったけど、今は、何よりも国民を大切にしているわ」


「ここで降ろして」と門前についたところで降ろしてもらう。アデルに頷き、通常のお金より多めに渡した。それが慰めになるとは思わないけど、「ありがとう」と去っていく御者の表情は少しだけ優しくなっていた。
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