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お約束の工場見学Ⅴ

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 私たちは、工場長の案内で、工場の中へ入った。機織りの音が聞こえてくるので、ワクワクとしてしまった。
 初めて来るステイにとっては、少し煩いようだった。ただ、目の前に広がる光景には、心惹かれたようで、こちらもやはりうずうずしているようだ。


「こちらにどうぞ」
「今年は、どんな柄を考えているの?」
「今年は、少し大ぶりの花や蝶などはどうかとナタリー様から提案を受けて、今、試作を作っているところです。エルドア国で入手した布も試したいと、奥の方で作り始めています」
「なるほどね。ナタリーはいろんな提案をしてくれるのね?」
「はい、私たちは、あの人に出会えたことを幸運に思っています」
「そうなのね。私もそう思うのよね」


 出来上がっていく布を見ながら工場長と頷き合った。それは、とても素敵な銀の蝶が出来上がっていくところだ。


「素敵な蝶ね?」
「ステイ様もそう思いますか?」
「えぇ、もちろん。こんなに緻密に織られていくのね。初めて見たけど、とても素敵だわ」
「この光景は、ぜひ見て欲しかったので、来ていただいてよかったです!」
「えぇ、えぇ!この光景は忘れられそうにないわ。他にも見せてもらえる?」


「もちろんです」と工場長が次の機織りを見せてくれる。これは見事な花が出来上がっていく。黙々と作業している女性が、ステイの感動ぶりをチラリとみて微笑んでいた。自分の仕事が褒められていることを喜んでいるようだった。


「本当、こんなに緻密なものを、人の目と手と感覚で作り上げていくのでしょ?すごいとしか言えないわ!」
「私もここへ来たときは、同じく感動しました。今は、ナタリーの手も加わっているので、当時よりさらに緻密な構図になっているようなので、すごいですよね?」
「本当ね。普段何気なく着ているドレスが、こんなふうに出来上がっているなんて。素敵だわ!」
「本当ですね!」


 ステイがたくさん褒めるので、目の前の女性はだんだん恥ずかしくなってきたようだ。頬がほんのり赤くなってきた。それを見逃さないはずはないだろう。隣の女性がからかうと、それがみなに伝播していく。笑いが起こった後、どこからか「お褒めいただき、ありがとうございます!」と声が聞こえてきた。それに呼応するようにあちらこちらから聞こえてくる。
 私たちの言葉が、どうやら働く女性たちに届いたようで、嬉しいという言葉まで聞こえてきた。
 よかったと思いながら、「ステイ様、もっと褒め殺しましょう!」とニンマリ笑うと、「任せておいて!」とステイも笑う。
 そのあとは、賛辞の嵐に喜んでくれる人がたくさんであった。
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