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こっそり逃げる私

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 ナタリーが熱血指導をしてくれるおかげで、昼までのノルマである2つのクマが出来上がった。不格好……ではない。ただ、ナタリーに言わせると、「もう少し頑張りましょう!」らしい。ダリアもクーヘンもそれぞれのノルマを達成させたようで、ふっと小さな息を吐いている。もちろん、当のナタリーは、私の倍速の早さで私に指導しながら作り上げていた。ステイも見事な紐を編んで褒められている。


「昼食にしましょうか?」
「そうですね。みなさん、きりがいいですし」


 そう言って、机の上を片付け始める。私は、少し席を外すと言って、客間から……
 逃げた。いや、出来上がっていくクマのぬいぐるみを見れるのは楽しい。楽しいのだが、どうも、裁縫は向いていないので、お尻がソワソワと落ち着きなかったことをナタリーは気が付いているだろう。
 私の集中力もここまでと、逃げた私を追うことしないでくれた。
 執務室へ入ると、ぐぅーっと体を伸ばす。同じ格好でずっとチクチクとしていたのだ、体中がバキバキと音がなりそうである。


「ナタリー様に指導されていたのですか?」
「そうよ!デリアは早々に逃げるから!」
「逃げてなどいませんよ!私にも私の仕事がありますから」
「……私の専属なんだから、近くにいてくれてもいいと思うわ!」


 少し怒ったふりをしてみたのだが、デリアは知らんぷりだ。私のことをよく知り尽くしている。演技だとわかっていると……胡乱な視線が怖い。


「お昼から、どうされるのですか?」
「どうって……」
「戻られないのでしょう?」


 私に昼食を用意しながら、聞いてくる。
 まず、私が執務室に昼食が運ばれてくることにビックリしていた。さすがねと感心していると、もういつもの表情だ。
 せっかく、ナタリーのところから抜け出してきたので、昼食後は外へ向かうことにした。デリアにそのことを伝える。


「珍しく、私に教えてくださるのですね?」
「……そ、そうね?アデルも一緒に行くから、呼んできてくれる?」
「そうですか、アデルも連れて行ってくださる。それはよかったです」


 いつも何も言わずに出かけるので、デリアの……ニコニコ笑顔が怖い。護衛であるアデルすら連れずに出歩く私は、少しは成長したということで、褒めてほしい。いや、こんなことで、褒めてはもらえないことは重々知っている。


「どこへ向かわれますか?」
「となりの領地へ行ってくるわ。いろいろと」
「わかりました。アデルを呼んでくるので、いてくださいね?」
「もちろんよ!まだ、昼食を食べているところだもの」


 ナイフで鶏肉を切り分け、口に運んでいると、執務室からデリアが出ていく。すごく警戒されているのが、苦労かけているなと思わされた。


 昼食を食べ終わったころ、アデルを伴ったデリアが戻ってきた。着替えていないので、デリアは残るようで、午後からは私の代わりにあの場所へおさまってくれるようだ。ただし、裁縫はからっきしのデリアは、ステイと共に紐を編むことになるだろうが、なんとも思っていなさそうだ。


「じゃあ、行ってくるわ!」


「お気をつけて」と送り出された私とアデルは、馬に揺られ東へと向かう。このあたりの領地で1番大きな町なので、そこへ出かけた。今日はいつもの如く、夫婦か恋人か……。
 アデルは、いつになったらなれるのかと茶化してやる。馬から降りで、私たちは町を歩いた。
 活気のある町をスタスタとあるくわけにもいかず、歩調を合わせる必要がある。アデルに手を差し出すと、訝しまれた。ただ、手を繋ぐだけだというのに。


「あのね?アデル」
「……わかっています。わかっていますとも!恋人役ですか?夫役ですか?」
「どっちがいい?今日はアンジェラがいないから、選ばせてあげる」
「……じゃあ、恋人役で」


 選択したことを後悔するアデル。私は、手を繋ぐではなく、アデルの腕をとって、しっかり腕を組んだ。突然のことに驚いていたが、下からニッコリ笑いかけると、周りにも聞こえるんじゃないかというほどの大きなため息をついた。


「アンナ、そこまでしなくても」
「いいじゃない!アデルをいじるのって、すごく楽しいんだもん!」
「……だもん!って言っても、さすがに……」


 ベタベタとくっついている私たちは、注目の的であった。私に更に甘ったるいネコ撫で声で「アデル」と名を呼ぶ。「ひぃぃぃ!」と変な声をあげたアデルの足を思いっきり踏んでやる。

 私、これでも主なんですけど!「ひぃぃぃ!」って何?」

 睨んでやると、小さく「すみません」と謝ってくる。謝るほどのことではないのだが、必死なアデルに屋台を指さす。
 そこはお菓子が売っている屋台で、「買って!」と子どものようにおねだりする。
 さすがに、私に逆らわない方が、自分を守れるのではないかと思ったらしいアデルは、私のお願いを叶えてくれることにしたらしい。


「あとで清算しましょう」
「いいのですか?」
「私が出してもいいけど……ここはねぇ?見栄も大事でしょ?」


 大通りである。先程のこともあり、私たちは注目を浴びていた。だからこそ、アデルに花を持たせてやる。


「リアンにもこれくらいしてあげてる?」
「……アンナみたいな無茶なことはしない大人な女性ですから!」
「そう。そうなのね。アデルぅ……アレもほしい!」


 指を指したのは、大きな宝石のついたネックレスだ。輝きを見ても、等級は低そうだが、特級なみの金額で売られている。
「アレ!」と指をさし、アデルを困らせる。その顔を見て、私は自分も笑ってしまった。
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