上 下
1,364 / 1,480

あぜ道を歩く

しおりを挟む
 食事も済ませ、コットンからの要望も聞いた今、用事は済んだ。後は、私の自由時間となるので、それならばとしたいことをする。


「コットンからの要望は少し時間をもらうことになりそうよ。大丈夫?」
「えぇ、収穫までになんとかしていただければ……」
「鍛冶師も一緒に呼ぶから、まずは、その鍛冶師に在庫含めて持ってきてもらいましょう。整備や新しいものを作るときから、その青年に頼めばいいでしょ?」


 コットンは頷いたので、次は私の要望を伝えることにした。私からの要望は、畑のあぜ道を歩いて、今の綿花農家の状況を聞くことだ。現地の人からの声を聞くことは大事だと思っているので、そのまま案内をしてもらううことにした。


「コットン、少し歩きたいのだけど?」
「畑をですか?」
「えぇ、ダメかしら?」
「いいですけど、ステイ殿下はどうされますか?」


 私たちの会話を聞いていたステイが自分に話を振られたのかと少し驚いている。私が畑を歩きたいと言っているのをぼんやり聞いていたようだ。


「そうね。アンナリーゼが行くのなら、私も」
「虫は大丈夫ですか?」
「えぇ、虫は大丈夫。蛇は少し苦手かしら?」
「まだ、この時期だと蛇はそれほど活発ではありませんから、見かけないと思いますよ?」
「それなら、ついて行くわ!」


 私たちは立ち上がり、私はアデルを、ステイは護衛たちを呼んでいる。後片付けを始めたデリアは話の内容を聞いていたので、次のお茶の用意をして待っていてくれるだろう。


「アンナ様、今からどこかへ向かうのですか?」
「えぇ、そうよ。少し、綿花畑を案内してもらおうと思うの」
「綿花畑をですか?アンナ様、昨年、でしたか?綿花摘みに参加していませんでしたか?」
「してた!でも、その頃と少し品種も違うのよ」
「……どれも同じにしか見えませんけど」
「そう?より高級感が出る綿花に改良が出来たから、それをね」
「ちなみに、高級感と言いますと、どのようなものがあるんでしょうか?」


 そうねぇ?と考えながら私のドレスの白い部分、柔らかい生地を触らせる。何事が始まったのかとアデルはギョッとした。


「あ、あ、あ、あ、アンナ様?」
「この質感わかる?」
「はへ?」
「この質感。何を考えていたの?顔が赤いわ!」
「……何も。質感ですね。質感」
「そう。それと、アデルのシャツの質感を比べてみて……」
「あっ!アンナ様の方がツルっとしているようで、でもしっかり折り込んであるのがわかります。私のシャツは貴族用とはいえ……少しざらついていますね?」
「そうなの。男女問わず、お肌が弱い方がいるから、なんとか出来ないかって、開発したのがこの綿花。生糸の織物も私はとても好きだけど、こっちの方が肌に馴染むきがするのよね」


 空笑いをしているアデルを見上げ、私は首を傾げた。「アンナリーゼ」とステイに呼ばれたので、私はアデルを伴いステイの元へと向かう。


「護衛には話をしたから、行きましょう」
「ステイ様、さっきよりなんだかワクワクしていませんか?」
「しているに決まっているわ。こんなところを歩くのも初めてですもの」


 張り切っているステイとハラハラしているコットンに挟まれながら、私たちは綿花畑を歩いていく。


「まだ、花には早いですが、綿花が咲くころ、綿が出来るころはとても綺麗ですよ!」
「本当?そんな時期に来たかったわね。いつ頃がいいかしら?」
「そうですね。夏くらいがいいですかね?」
「夏には綿が出来てますよ?花の見ごろは、あと2,3ヶ月先くらいでしょうか?」
「なるほど。その時期に来れるよう、視察の調整をしましょう!今まで、一面花の景色なんて、見たことがないですから」


 うっとりしているステイ。離宮にも花園はあるが、それ以上のものは見たことがないようだ。見たいというので、その時期ならまだ、この領地滞在しているはずだというと、案内を頼まれた。コットンは忙しい時期に入って行くので、案内は無理だろうから、私が引き受けることになった。


「そういえば、ここは、綿花畑なのよね?」
「えぇ、そうです」
「綿花を加工する場所もあるのかしら?」
「ありますよ!領地の産業なので、もちろん、領地内にあります。私の領地では、多くの女性が活躍していますが、特に綿の加工工場は多くの女性が働いています」
「そうなの?働くというのは、男性の印象だけど……」
「そうですよね。一般的にはそういう印象があると思いますが、服を作ったり、色味を合わせたり……女性の感性が必要な場面も多いので、コーコナ領では特に女性が活躍している職場が多くあります」
「見てみたいわ!」
「もちろん、ご案内しますよ!私の領地については、包み隠さず案内させていただきます」


「それは嬉しいわ!」と笑いながら、あぜ道をテンポよく歩いていく。デコボコとした道ではあるのに、何事もなかったかのように歩くステイをコットンは驚いていた。


「ステイ様って、何か武術はされているのですか?」
「どうして?」
「あぜ道は歩きにくいと思うのですが、難なく歩いているように見えるので」
「そうね。護身用程度には鍛えているわよ?これでも、護衛を付けないといけない程度には、いろいろとあるから」


 ふふっと笑うステイに重い影はなく、ただただ、「素敵な景色」と感激する声だけが聞こえて来た。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界八険伝

AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ! 突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

転生先は水神様の眷属様!?

お花見茶
ファンタジー
高校二年生の夏、私――弥生は子供をかばってトラックにはねられる。気がつくと、目の前には超絶イケメンが!!面食いの私にはたまりません!!その超絶イケメンは私がこれから行く世界の水の神様らしい。 ……眷属?貴方の?そんなのYESに決まってるでしょう!!え?この子達育てるの?私が?私にしか頼めない?もう、そんなに褒めたって何も出てきませんよぉ〜♪もちろんです、きちんと育ててみせましょう!!チョロいとか言うなや。 ……ところでこの子達誰ですか?え、子供!?私の!? °·✽·°·✽·°·✽·°·✽·°·✽·° ◈不定期投稿です ◈感想送ってくれると嬉しいです ◈誤字脱字あったら教えてください

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...