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さてさてどうしたものか
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「ジョージア様は今回のこと知っていたんですね?」
馬車に乗り込み、ジョージアへ問い詰めると苦笑いをしている。頼まれたという感じではなく、噂話で聞いた程度だったらしい。
「アンナとの想い出の店が無くなるのは忍びなくて……だからといって、アンナにあの店を買い取ってほしいともいえなかったんだ」
「そうですね……買い取るのは、私でも難しいと思います」
「それはどうして?」
「私は、あの店に想い出はあっても、思い入れは少ないです。そこを全面的に買い取るとなると、資金繰りの話だけではなく、経営も任されることになる。来年以降ならと思いますが、今年は、まだ、領地へ戻ることになる。そうすれば……」
「経営までは見られないということ?」
コクンと頷く。ニコライと話して決めると言っておいたが、私の中ではすでにどういう形にするかは決めていた。あの店の買い取りというのではなく、出資という形が1番好ましい。それに、ニコライもあの店のことを見ている時間はないだろう。なんたって、この国1番の大店になっているハニーアンバー店は、国内外への買い付けだけでなく、いろんなことをニコライが担っているからだ。手助けしてくれるものもいるにはいるが……そろそろ、ニコライも後継を育てていく必要があるだろう。
「ニコライにも経営は難しいと思いますので、経営報告をしてもらう受付のような役割をお願いすることになると思います。そのうえで、あの二人がどういう店にしていきたいか、もう一度きちんと考えたうえで、私に出資をしてもいいと思わせるような経営を目指せるのであれば……資金の出資は構わないと思っています。あとは、よく使う麦などの材料費も一般に売り上げるより少し安値で売ってもいいかな?とも」
「何はともあれ、あの二人が今後をどう考え、どういう経営をしていきたいかを考えないと、アンナはお金を出さないと言うことだね?」
「厳しいようですが、私の私財も無限ではありません。使うべきときに使えるようにと貯めてあるだけなので、急な入り用には少々考える必要があります。特に店に関することは」
「でも、アンバー領のときは何も考えず、私財のほとんどを出したよね?」
「取り戻すことが十分可能だと、アンバー領の未来を私は計算出来ていたから、そうしたまでです。ですが、あの二人は、私に取って未知数。店を買ったけど、うまく経営ができなかったら、そのお金はどぶに捨てるようなもの。それは、今の私にはとても厳しい現実となります」
ジョージアに事情を話し、納得はしてもらえたようだ。何でもかんでも出資しているわけでも、買い取っているわけでも、ましてやお金をばらまいているわけでもない。ある程度の見返りも計算して、出来る限りのことをしている。
例えば、昨年の病に対して、私は国より先に多大な金額を出資した。それは、人命がかかっており、急を要していたからだ。人が死ぬということは、それだけで、国の財産が減るということ。人はいるだけで、財産なのだ。その人が、どんなふうに生きるかはわからないが、回り回って国へと返っていく。そういうところにお金を出すことは、厭わない。そのあと、公からの保障ももちろん取り付ける算段もしていたというのもあるのだが。
「ニコライに会いに行きます。ハニーアンバー店へ」
御者に行き先を伝えると、向かってくれる。今は、公都の店が忙しい時期なので、ニコライはもちろん、店にるはずだ。
「ニコライはいるかしら?」
店に立ち寄ると店員が「倉庫にいらっしゃいます」と答えてくれるので、執務室へ来るようにと呼びに行ってもらう。私とジョージアは執務室へと入り、ニコライを待った。
「すみません!遅くなりました」
「いいのよ。仕事、途中で止めてしまって……」
「かまいません。アンナリーゼ様の用事の方が大切ですから」
ニコライが笑いながら席につく。キティがお茶の用意をして部屋に入ってくるので、それを見ていた。執務室が三人になったとき、私はさっきの話をニコライにする。
「なるほど……噂には聞いていましたが、それほどでしたか。私もあの店には想い出があります。この街で住んでいて、あの店に想い出がない人なんていないと思うくらい、みなが、何かの記念日には行っていたんです。そういえば、コース料理に変更になってから、行かなくなったなぁ……」
ニコライにも思い当たるところがあるらしく、私が話したことを伝えると請け負ってくれた。
「私がすることは、窓口ですよね。あくまで、あの二人が経営をする……アンナリーゼ様が、その経営について納得が行けば、出資してくれる。そんな感じでいいですか?」
「えぇ、それでお願いできるかしら?」
「任せてください!」とニコライは胸を叩いている。最初は頼りなかったニコライは、いつの間にか、商売に関しては私より上だろう。
すさまじく成長したニコライを私は褒め、屋敷へ戻ることにした。
「アンナリーゼ様」
「何?」
「出資の話、受けるかどうかの判断は私に任せてくれるとおっしゃいましたが……」
「うん、ニコライに任せておけば、大丈夫だと思っているから。それに、系統は違っても商売をするものとして、そういう話って放っておけなさそうだから……出資についての額は任せるから、しっかりお願いね?」
「はい」と返事する商人として成長したニコライを頼もしく思った。
馬車に乗り込み、ジョージアへ問い詰めると苦笑いをしている。頼まれたという感じではなく、噂話で聞いた程度だったらしい。
「アンナとの想い出の店が無くなるのは忍びなくて……だからといって、アンナにあの店を買い取ってほしいともいえなかったんだ」
「そうですね……買い取るのは、私でも難しいと思います」
「それはどうして?」
「私は、あの店に想い出はあっても、思い入れは少ないです。そこを全面的に買い取るとなると、資金繰りの話だけではなく、経営も任されることになる。来年以降ならと思いますが、今年は、まだ、領地へ戻ることになる。そうすれば……」
「経営までは見られないということ?」
コクンと頷く。ニコライと話して決めると言っておいたが、私の中ではすでにどういう形にするかは決めていた。あの店の買い取りというのではなく、出資という形が1番好ましい。それに、ニコライもあの店のことを見ている時間はないだろう。なんたって、この国1番の大店になっているハニーアンバー店は、国内外への買い付けだけでなく、いろんなことをニコライが担っているからだ。手助けしてくれるものもいるにはいるが……そろそろ、ニコライも後継を育てていく必要があるだろう。
「ニコライにも経営は難しいと思いますので、経営報告をしてもらう受付のような役割をお願いすることになると思います。そのうえで、あの二人がどういう店にしていきたいか、もう一度きちんと考えたうえで、私に出資をしてもいいと思わせるような経営を目指せるのであれば……資金の出資は構わないと思っています。あとは、よく使う麦などの材料費も一般に売り上げるより少し安値で売ってもいいかな?とも」
「何はともあれ、あの二人が今後をどう考え、どういう経営をしていきたいかを考えないと、アンナはお金を出さないと言うことだね?」
「厳しいようですが、私の私財も無限ではありません。使うべきときに使えるようにと貯めてあるだけなので、急な入り用には少々考える必要があります。特に店に関することは」
「でも、アンバー領のときは何も考えず、私財のほとんどを出したよね?」
「取り戻すことが十分可能だと、アンバー領の未来を私は計算出来ていたから、そうしたまでです。ですが、あの二人は、私に取って未知数。店を買ったけど、うまく経営ができなかったら、そのお金はどぶに捨てるようなもの。それは、今の私にはとても厳しい現実となります」
ジョージアに事情を話し、納得はしてもらえたようだ。何でもかんでも出資しているわけでも、買い取っているわけでも、ましてやお金をばらまいているわけでもない。ある程度の見返りも計算して、出来る限りのことをしている。
例えば、昨年の病に対して、私は国より先に多大な金額を出資した。それは、人命がかかっており、急を要していたからだ。人が死ぬということは、それだけで、国の財産が減るということ。人はいるだけで、財産なのだ。その人が、どんなふうに生きるかはわからないが、回り回って国へと返っていく。そういうところにお金を出すことは、厭わない。そのあと、公からの保障ももちろん取り付ける算段もしていたというのもあるのだが。
「ニコライに会いに行きます。ハニーアンバー店へ」
御者に行き先を伝えると、向かってくれる。今は、公都の店が忙しい時期なので、ニコライはもちろん、店にるはずだ。
「ニコライはいるかしら?」
店に立ち寄ると店員が「倉庫にいらっしゃいます」と答えてくれるので、執務室へ来るようにと呼びに行ってもらう。私とジョージアは執務室へと入り、ニコライを待った。
「すみません!遅くなりました」
「いいのよ。仕事、途中で止めてしまって……」
「かまいません。アンナリーゼ様の用事の方が大切ですから」
ニコライが笑いながら席につく。キティがお茶の用意をして部屋に入ってくるので、それを見ていた。執務室が三人になったとき、私はさっきの話をニコライにする。
「なるほど……噂には聞いていましたが、それほどでしたか。私もあの店には想い出があります。この街で住んでいて、あの店に想い出がない人なんていないと思うくらい、みなが、何かの記念日には行っていたんです。そういえば、コース料理に変更になってから、行かなくなったなぁ……」
ニコライにも思い当たるところがあるらしく、私が話したことを伝えると請け負ってくれた。
「私がすることは、窓口ですよね。あくまで、あの二人が経営をする……アンナリーゼ様が、その経営について納得が行けば、出資してくれる。そんな感じでいいですか?」
「えぇ、それでお願いできるかしら?」
「任せてください!」とニコライは胸を叩いている。最初は頼りなかったニコライは、いつの間にか、商売に関しては私より上だろう。
すさまじく成長したニコライを私は褒め、屋敷へ戻ることにした。
「アンナリーゼ様」
「何?」
「出資の話、受けるかどうかの判断は私に任せてくれるとおっしゃいましたが……」
「うん、ニコライに任せておけば、大丈夫だと思っているから。それに、系統は違っても商売をするものとして、そういう話って放っておけなさそうだから……出資についての額は任せるから、しっかりお願いね?」
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