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平日の昼間とあって、あまり人の入っていないお店。私たちは2階にいるので、なおのこと、お客はいなかった。
気にはなっていたのだが、そうか……そういうことなのかと悟ってしまう。
……助けてほしいなんて、ひとつね。経営難なんだわ。
私は少し厳しい表情をしてしまったのかもしれない。店主の表情に緊張が走る。せっかく、ジョージアが二人の時間にと連れてきてくれたのに、結局、仕事をしようとしている。そんな私自身がおかしくて、笑ってしまった。
「あの……」
「何でもないの。せっかくジョージア様がデートに誘ってくれたのに、私は仕事をしようとしていると思うと笑えてきてしまって」
「……申し訳ございません」
「謝らないで。いいのよ。だって、私は仕事が好きだから。ジョージア様」
「わかっているよ、アンナがしたいようにすればいい。話を一緒に聞こうか」
優しく微笑むジョージア。本当は、こうなることを知っていたのかもしれない。そう、二人の想い出の場所がなくなるかもしれないと。それに、このお店は、たくさんの人が記念日に利用することが多いお店だ。私たち利用したように、ここを想い出の場所にしている人は耳に入ってくるだけでも多い。そんな場所を無くしてしまうのは忍びない。ジョージアの策ならなおのこと、私は何かこの店のために考えないといけない。
「それで、このお店の状況はどうなの?」
「……経営難でして」
思ったとおりの返答に私は周りを見渡した。普段の状況を知らなかったので、お客が少ないと思っていても、平日だから……と考えていたのだが、そうでもないらしい。立地も少し街から離れており、確かにお客が気軽に来るには遠い。
料理も申し分ないほど美味しいが、私もローズディアにきてから6年たっても2回目というくらいなので、なんとも言えなかった。貴族のお客はもちろんだが、一般客をもう少し取り入れられると、また違うのだろうが、そうすると、やはり立地の問題へ戻る。立地が悪くても流行るところは流行るし、実際、この店も私たちが来たときは、賑わっていたのだからと考え始めると、堂々巡りだ。
「何がダメだったのか自分たちで分析したかしら?」
「……いえ、分析までは。何がダメだったのか、何がよかったのかと二人で考えてみたのですが、考えに及ばず」
「そう。私もすぐには思い浮かばないわ。立地の問題かしら?と思ったけど、私たちが初めて来たときは賑わっていたから、違うわよね?」
今の店の運営の仕方を聞くことにした。料理に関して、接客に関して、仕入れに関して……それぞれに聞いていく。
「料理に関しては、この店を立ち上げてからのシェフが引退いたしまして、今は2代目です。材料も当時と変わらないものを仕入れており、お客様に満足していただけるものを提供していると思っています」
「……料理長が変わったの?」
「はい、私は2代目となります。先代に仕込まれて、見込みがたったので料理長になったのです」
「そうなのね。こんな話をすると失礼だと怒るかもしれないけど、前のシェフは今どこに?」
「下町で喫茶店をしております。元々、譲り受けたそうで、店があるのでたまにしか開けていなかったのですが、あちらを本格的にという話で」
「……一度、そのシェフに会いたいわ。会うことは可能かしら?」
店主に言うと、料理長と視線を交わしている。何かあるのかと勘ぐりたくなったが、そこは押し黙った。
「可能だと思います。必要でしたら、今すぐ、迎えに行きますが」
「じゃあ、お願いね!」
店主が手の空いている給仕に、元シェフを呼びに行ってくれたようだった。
「料理長の料理は、どんなものがあったの?」
「……貴族に出すような料理とは別に私たちのようなものでも、お金以上に美味しいと頬を緩ませるような料理を出すようにと常々言われていました」
「お金以上に美味しいね。確かに、それは大事だわ。例えばだけど……私は見慣れたコース料理だったから違和感なく美味しいと感じたし、実際美味しかった。昔は、お金に余裕が出来たら来ていたけど、今は普通の日に来る人は少ない……そんな感じかしら?」
「……はい、そんな感じです」
「料理長が変わってから、料理の変更を?」
「はい、しました。特別な感じのするようにとコース料理に変えたのです」
「それが原因じゃない?」
私の指摘に、二人がまた視線を交わしている。良かれと思ってしたことが、裏目に出てしまったようだ。
「例えば、子どもが誕生日にちょっと高級そうなお店で食べるオムライスは想い出になると思うの。子どもに前菜はいらない。家族に囲まれて、おいしいねと言いながら食べるご飯が記憶に残ると思うの」
「……そんな発想は全くなかったです」
「私も、子どもがいなければ、全く思いつかなかったかもしれないわ。うちは、まだ、外でご飯を食べることは少ないけど、いつもと違う特別な日は、やっぱり想い出になっているものなのよ。アンジェラが……私の子どもなんだけど、嬉しそうに話をすることがあるわ」
私の話は目から鱗のようなことだったようだ。前のシェフは、そういうところに意識があった。コース料理ではなく、メニューにそういったものも入っていたのではないだろうか。大人たちの想い出も大切だが、子どもの想い出こそ、次に繋がるお客なのかもしれないと話せば、「おもしろいお話ですね?」と聞いたことがある声が聞こえてきた。
気にはなっていたのだが、そうか……そういうことなのかと悟ってしまう。
……助けてほしいなんて、ひとつね。経営難なんだわ。
私は少し厳しい表情をしてしまったのかもしれない。店主の表情に緊張が走る。せっかく、ジョージアが二人の時間にと連れてきてくれたのに、結局、仕事をしようとしている。そんな私自身がおかしくて、笑ってしまった。
「あの……」
「何でもないの。せっかくジョージア様がデートに誘ってくれたのに、私は仕事をしようとしていると思うと笑えてきてしまって」
「……申し訳ございません」
「謝らないで。いいのよ。だって、私は仕事が好きだから。ジョージア様」
「わかっているよ、アンナがしたいようにすればいい。話を一緒に聞こうか」
優しく微笑むジョージア。本当は、こうなることを知っていたのかもしれない。そう、二人の想い出の場所がなくなるかもしれないと。それに、このお店は、たくさんの人が記念日に利用することが多いお店だ。私たち利用したように、ここを想い出の場所にしている人は耳に入ってくるだけでも多い。そんな場所を無くしてしまうのは忍びない。ジョージアの策ならなおのこと、私は何かこの店のために考えないといけない。
「それで、このお店の状況はどうなの?」
「……経営難でして」
思ったとおりの返答に私は周りを見渡した。普段の状況を知らなかったので、お客が少ないと思っていても、平日だから……と考えていたのだが、そうでもないらしい。立地も少し街から離れており、確かにお客が気軽に来るには遠い。
料理も申し分ないほど美味しいが、私もローズディアにきてから6年たっても2回目というくらいなので、なんとも言えなかった。貴族のお客はもちろんだが、一般客をもう少し取り入れられると、また違うのだろうが、そうすると、やはり立地の問題へ戻る。立地が悪くても流行るところは流行るし、実際、この店も私たちが来たときは、賑わっていたのだからと考え始めると、堂々巡りだ。
「何がダメだったのか自分たちで分析したかしら?」
「……いえ、分析までは。何がダメだったのか、何がよかったのかと二人で考えてみたのですが、考えに及ばず」
「そう。私もすぐには思い浮かばないわ。立地の問題かしら?と思ったけど、私たちが初めて来たときは賑わっていたから、違うわよね?」
今の店の運営の仕方を聞くことにした。料理に関して、接客に関して、仕入れに関して……それぞれに聞いていく。
「料理に関しては、この店を立ち上げてからのシェフが引退いたしまして、今は2代目です。材料も当時と変わらないものを仕入れており、お客様に満足していただけるものを提供していると思っています」
「……料理長が変わったの?」
「はい、私は2代目となります。先代に仕込まれて、見込みがたったので料理長になったのです」
「そうなのね。こんな話をすると失礼だと怒るかもしれないけど、前のシェフは今どこに?」
「下町で喫茶店をしております。元々、譲り受けたそうで、店があるのでたまにしか開けていなかったのですが、あちらを本格的にという話で」
「……一度、そのシェフに会いたいわ。会うことは可能かしら?」
店主に言うと、料理長と視線を交わしている。何かあるのかと勘ぐりたくなったが、そこは押し黙った。
「可能だと思います。必要でしたら、今すぐ、迎えに行きますが」
「じゃあ、お願いね!」
店主が手の空いている給仕に、元シェフを呼びに行ってくれたようだった。
「料理長の料理は、どんなものがあったの?」
「……貴族に出すような料理とは別に私たちのようなものでも、お金以上に美味しいと頬を緩ませるような料理を出すようにと常々言われていました」
「お金以上に美味しいね。確かに、それは大事だわ。例えばだけど……私は見慣れたコース料理だったから違和感なく美味しいと感じたし、実際美味しかった。昔は、お金に余裕が出来たら来ていたけど、今は普通の日に来る人は少ない……そんな感じかしら?」
「……はい、そんな感じです」
「料理長が変わってから、料理の変更を?」
「はい、しました。特別な感じのするようにとコース料理に変えたのです」
「それが原因じゃない?」
私の指摘に、二人がまた視線を交わしている。良かれと思ってしたことが、裏目に出てしまったようだ。
「例えば、子どもが誕生日にちょっと高級そうなお店で食べるオムライスは想い出になると思うの。子どもに前菜はいらない。家族に囲まれて、おいしいねと言いながら食べるご飯が記憶に残ると思うの」
「……そんな発想は全くなかったです」
「私も、子どもがいなければ、全く思いつかなかったかもしれないわ。うちは、まだ、外でご飯を食べることは少ないけど、いつもと違う特別な日は、やっぱり想い出になっているものなのよ。アンジェラが……私の子どもなんだけど、嬉しそうに話をすることがあるわ」
私の話は目から鱗のようなことだったようだ。前のシェフは、そういうところに意識があった。コース料理ではなく、メニューにそういったものも入っていたのではないだろうか。大人たちの想い出も大切だが、子どもの想い出こそ、次に繋がるお客なのかもしれないと話せば、「おもしろいお話ですね?」と聞いたことがある声が聞こえてきた。
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