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求心力と求心力

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「アンナリーゼ、こちらに」


 私を呼び寄せ、腰を引き寄せる。見た目は令嬢でも男性なのだ。軽々と引き寄せてしまったことに驚きながらも、微笑んでおく。


「私は、青紫の薔薇に心を惹かれた。他にもそんなものがいるのなら、今のうちにしっかり惹きつけられておいたほうがいい。今もこの国で1番献身的に国を想ってくれているのは、他国から嫁いできた青紫薔薇だぞ?生まれた国に、みなももっと感心を持ち、発展するよう力を貸してくれ」
「……ステイ様?」
「私はつい先日まで離宮から外へ出ることすら叶わなかったが、聞こえてくる名はいつもアンナリーゼ。私の離宮まで名を広めたのは、ただ一人だ。他に我こそは!というものはいないのか?」


 広間に聞こえる少し厳しい声音。離宮は完全に城の中にあり、情報共有もされない。メイドや侍女たち侍従たちの噂話を拾っていたことがここで窺えるが、ここ数年、私の名はよく聞くのに、他の者たちは聞こえて来ない。私の城にまで聞こえてくるような活躍はないものかと問いかける。
 階上から見れば、周りとヒソヒソと話す声が聞こえてくるだけで、他は思いつかないようだ。誰も手をあげない現状を嘆くステイ。「一人くらいいても良くない?」と呟く。そんななか、一人の男性を見かけた気がする。


「おっ?いるの?」
「ウィル・サーラーはどうですか?ここ数年、とても活躍した近衛だと思いますけど?」
「なるほど、ウィル・サーラーね?前に出て来てちょうだい?」


 後ろの方にいたウィルは、仕方なさそうに人をかき分け階下まできて跪く。今日は仕事として警備していたので、まさか呼ばれるとは思っていなかったようだ。ウィルを推薦した
 らしい貴族も追いかけてきた。見たことがあるようなないような……と見ていると目が合った。

 あぁ……なんとなく見覚えがあると思ったら、ゴールド公爵の子息の腰巾着じゃない。

 私は何も言わず、少し周りを見れば、そこにルチルの姿を見つけた。表立って私たちの陣営に何かすることは、私と相対しているゴールド公爵の立場もあるのだろう。


「たしかに、ここ数年、よくきく名前ね?」
「身に余る光栄です」


 先日の砕けた話し方ではなく、よそいきの話し方にウィルも貴族らしく振る舞っているのだと笑いを堪える。私をチラッと見ていたので、こちらの考えはお見通しだろう。


「公からは爵位をもらったのね。今はアンバー領へ出向して『ハニーローズ』を護衛しているとか」
「はっ、主にその任務とアンバー領の警備隊の強化もになっています」
「アンバー領の警備隊?」
「えぇ、飲んだくれの集団でしたからね?アンナリーゼ様も覚えていらっしゃいますよね?」
「もちろんです。私とウィルであの警備隊を立て直したのですから」
「それはすごいわ!公は知っていて?」
「もちろんだ。他にもエルドアの会見でも南の領地での活躍も聞いている。知っているか?」


 ステイは首を横に振ると、公にその話が聞きたいと促している。このまま私たちは別のところで話をすることが出来るだろう。


「せっかくの夜会、邪魔をして悪かったわ!残りも楽しんで!」


 ステイが声をかけると音楽がなり始める。それを機に、また踊り出したら、話を始めるものたち、私たちも用意された席に移動する。途中で目配せして、後ろにいるジョージアやセバスたちはそれぞれの役割に戻っていく。一人、パルマだけは不服そうだったので呼び寄せれば、すぐに飛んできた。私とウィルが席につきパルマとローランも同じく座る。
 私の後ろにいるパルマを見て、ステイが「誰?」と言ってくるので、未来の「宰相候補」だと笑うと、「その前にセバスがなるだろうけどな」と公も一緒に座るようだ。


「セバス?」
「セバスチャン・トライド。今、妻と挨拶回りをしているだろう?今年結婚下ばかりだから、忙しいだろう」


 視線の先でダリアを連れて挨拶をしているセバスをステイに教えていた。


「やはりアンナリーゼの周りはおもしろい人材が集まりやすいのね。公もアンナリーゼをみならったらどうです?」
「見習っておもしろい人材が集まるならいくらでもするが、求心力のあるアンナリーゼと一緒にするな」
「ステイ様もみたところ求心力があるように思いますが……公は」
「みなまでいうな!アンナリーゼ」


 自身が1番わかっていると言いたげに睨んでくるので、わざとらしく笑っておく。それに倣ってステイもさらにローランも同じように笑ってる。


「みなして、意地の悪い」


 拗ねたような公を笑い、私たちの夜は更けていく。いつの間にか周りに人が集まってきて私たちのくだらない会話を楽しんでいた。
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