上 下
1,301 / 1,480

とはいえ

しおりを挟む
「名乗りをあげたとはいえ……私もあと1年は領地にて執務をすることになりますから、その間は別のものに任せるほかありません」
「適任者はパルマあたりか?」
「パルマは向いていませんね」
「何故?あれほど優秀なのに」
「パルマは従者としてなら一級品……いえ、特級品ですけど、貴族としては身分が低いため社交には向いていません。勉強なら任せられますが……他にいませんか?」
「……少々癖の強い弟ならいるが、俺が好かれていないからなぁ」


 思案顔の公に、「日頃の行いが悪いからじゃないですか?」と小言をいうと心当たりがあるのか返事がない。公の返事はぺいっと放置しておいて、その弟について聞くことにした。
 名はステイ。公の異母弟で公がデビュタント前までは一緒に生活をしていたらしい。前公の第三妃の子でちょうどジョージアと公の間の年だ。それを聞くと、公のご学友としてジョージアが選ばれたのに疑問がある。


「どうして、ジョージア様のご学友が公で、ステイ様じゃないのですか?」
「……ステイは少々変わっていてな」
「俺は苦手だったかな?」
「どうしてです?」
「その女装趣味があって……自身も細身で、着飾れば着飾るほど傾国の美姫とよばれるほどで、社交界に出ることを禁止されたんだ」
「……そんなことが?」
「あった、忘れもしないが、あった」
「ジョージアにとっては、心の傷だろう」
「……ん?」


 私はジョージアを見た。視線を逸らすので、追いかけるようにすると、さらに逃げる。

 なるほど。初恋だったのかな?淡い恋心になる前に砕かれたか……。

 私は訳知り顔に戻ったあと、話を続けるよう公へ促した。ステイはシルキーとよく似ているらしい。ということは、可愛らしいのだろう。


「では、社交界にはいらしたのですか?」
「あぁ、いた。今もいるぞ?禁止されたとはいえ、未だ独身だからな。父も躍起になって、嫁探しをしている」
「なるほど……、でも、私、見たことありましたっけ?」
「いつも端の方にいるから目立たない」
「えっ?傾国の美姫なのですよね?」
「……それもアンナリーゼのような豪奢なドレスに身を包めばというものだ。普段は日陰者でステイの顔を知っているものすらいないんじゃないか?」


 私はますます興味が湧いてくる。今の今まで、情報がなかった公族。私たちの情報に引っかからないことに驚きと賞賛があった。


「私、会ってみたいです!お茶会をしたら、会ってくれますか?」
「……夜会でなくて、何故お茶会なのだ?」
「それは……傾国の美姫を見たいからです!ジョージア様、お屋敷に呼んでもかまいませんか?」
「……ダメとは言わないけど、一応ステイ様は公族だからね。公に誘ってもらえばいいんじゃないか?」
「あぁ、なるほど!公、お願いします!」
「何故プラムの教育の話をしていてステイの話になりお茶会をすることになっているのだ?」
「もちろん、それは、私の興味を満たすためです!」


 胸を張って言うと公はため息をついている。ただ、私が言い出したら、お茶会をするまで言い続けることはたしかなので、快諾とまではいかなくてもお茶会をするというふんわりした回答を得られた。ステイにも都合があるのだからと一旦は引き下がる。


「これほど興味を持つなら、もっと前に教えておいたらよかったな」
「出来ることなら、始まりの夜会より早く会いたいです!」


 私の興味を引いたステイをおもしろそうにしている。


「俺は、ステイ様に会うのは辞めておくおくよ」
「それほど苦手なのですか?」
「会えばわかるよ。個性的過ぎて……」
「そんなにですか?ますます楽しみです!」
「アンナは変人が好みだからな……」
「聞き捨てなりませんね?私は好きな人……、みんないい人ばかりですよ?」
「……アンナリーゼの交友関係の中に女装している人いなかったか?」
「リアノですか?うちのお店の服をセンスよく着てくれているのですよ?」
「すごくガタイいいよね?」
「工事現場の現場監督もこなすから腕も太いですよ」
「エリックくらいか?」
「エリックよりガタイいいですよ。ノクトを一回り大きくした感じと言えばいいですか?」
「あぁ、確かに。あの二人が並ぶと圧がすごいな」


 私とジョージアとの話を聞いている公の頬が引きつっているのは想像しているからだろう。私も初めて会ったときは驚かされたが、今は当たり前になっている。男性だから女性だからと服を選ぶのではなく、リアノが着たいからその服を選ぶというのが素敵だと思っている。


「……確かにすごいですよね。でも、私はリアノの服を選んできていることも、お化粧をして綺麗なところも大好きですよ!決められたものではなく、自分が選ぶって大切だと思うんです」
「……失敗もあるだろ?」
「それも含めてですよ。固定概念に囚われすぎるのは良くないです」
「柔軟な考えが、アンナのいいところだけど、なるほど」
「固定概念に囚われすぎているか。それは一理あるな。いつもアンナリーゼが何かするときには驚かされている身としては、見えているものが違うのか。アンナリーゼの周りにいる者たちも含めて」


 私は頷くと納得したように公も頷き、ステイとのお茶会について動いてくれるようだった。話を纏めて、やっと帰ってくれるようで、にこやかに送り出す。夕方には、お茶会の招待状が届いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...