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何もしないわよ?
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「どうする?先に公都へ送るか?」
子どもたちを見下ろしたウィルに私は首を横に振る。人を運ぶというのは、それだけでお金がかかる。アンバー領にそのお金を捻出するのももったいない。
「公に連絡して迎えに来てもらうことにするわ。それより……」
私は年長の子どもと視線を合わせる。そろそろ意識もはっきりしてきただろう。深淵を覗いているような何も感情を映さない瞳を覗き込む。
「……あなたはどこから来たの?」
見た目は浅黒い肌をしており、この国ではなくもっと南の方の住人であることはなんとなくわかる。
……本で読んだことが役に立つ日が来るとは思わないわね。
私の次の言葉で、虚ろであった少年の瞳が揺れ動いた。同じ内容の言葉を言ったが、どうやら、この外国語であっているらしい。
「……どこでその言葉を?」
少年はのそりと私に話しかけてきた。余程、母国語を耳にしたことに驚いているようだ。普段は、この言葉ではなく、私たちと同じ言葉を強要されているのだろう。
「本で読んだだけよ。だから、うまく話せているかわからないわ。あなたたちの住む国からここはとても遠いもの。言葉を知っているだけでも褒めてほしいくらいよ」
「あぁ、すごいよ!合ってる。この国に入ってから初めて聞いた」
「本当?とはいえ、あまり話せないからこっちの言葉がわかるなら、合わせてほしいんだけど?」
「いいよ。さっきの質問だけ答える」
「さっきのね?どこから来たの?」
「お姉さんが考えている国から。僕は捕虜だった。身体能力を買われて今ここにいる」
私は、その少年を見る。確かに顔や表情を見れば少年だと思えるが、体格を見ればレオよりいい体格をしていた。対峙したのは私ではないが、チラリと視線の端々で見たこの少年の動きは驚くほど綺麗であった。
「……体格に恵まれたうえに、身体能力が高い。あなたたちの特徴とも言える体つきなのね。このまま鍛えれば、脅威となるのは必須って感じだけど、あまり多くないわよね?」
「どうしてそんなことまで?」
「知識だけの話よ。インゼロ帝国の属国となった国は私も調べてはいるの。酷い仕打ちをされているという話も聞くし……」
「……知っているんだ」
「そりゃね?インゼロ帝国の動きは、多少なりと仕入れているわ。実情まではわからないけど……そう。子どもまでもが、こんな場に借りだされるのね」
「僕はまだいいほう。耐えられるけど……一定の年になった女の子はインゼロ帝国の兵士の夜伽に連れていかれる」
「それは、どうして?」
「強い兵を得るためだとか。望まない子を生まされる。その子は僕らと一緒」
まさかと思って他に縛られた五人の子どもを見る。見たところ、5歳ほどだろう。日に焼けているのかと思っていたが、そうではないらしい。この少年と同じか生まされた子らなのだろう。
「……この子たちは、その子どもたちなの?」
「そう。僕は違うけど、この子らは違う。血が混じっているんだ」
私は次の言葉を探すが出てこない。この少年の一族は身体能力に長けたものが多いのだろう。だから、狙われた。欲しいものは全て手に入れるために。
ちょうど、7年前の話だったと記憶している。当時と皇帝は変わっているが、皇帝が有していたものは、全て手に入れてしまっていることは用意に考え垂れる。
「姫さんさ?さっきから内緒話ばかりなんだけど、俺らにもわかるように教えてくれる?」
「いいわよ!かいつまんででもいい?」
「把握できるならなんでも」
わかったというウィルにさっきの話の続きを教えた。ただ何も言わずに聞いている。
「……そんなこともあるのか?インゼロ帝国の中では」
「あるわよ。それがこの国でもありえること」
「……予知夢か。その未来は、起こりうる未来だってことか。本当、えらいものしょい込んだな?」
「……私ではないわ。実際のところ。こんな重い荷物は誰にも背負わせたくないもの」
「そりゃそうだろう。お嬢が背負うことになるならなおのこと。姫さんはさ、自分の人生を犠牲にしたとは思わないわけ?」
「思わないわ。ウィルもだろうけど、選べる選択肢の中で、自分がこうでありたいと願うものを選んできたでしょ?断念しないといけないこともあったかもしれないけど、それすら、ウィルのにとっての選択だわ。後悔してる?私の手をとって」
少し考えたあと、ちっともと笑うウィル。振り返れば、ああしておけばよかったとかもっとできたんじゃないかと思う日はあっても、ここまでの道のりを間違っていたとは思わない。
「それで、どうするの?この子らは。いわゆる捨て駒にされるような子らだろう?」
意味ありげに見られるが、さっき、ウィルが私を叱ったじゃないかと睨み上げると、そうだなと考えている。公に渡せば、確実に命を奪われるだろう。後ろ盾となる私の命を狙っていたのだから。
「……私は何もしないわよ?見捨てるのかっていうかもしれないけど、私がこの子たちを守ってあげられるほど、余裕はないわ」
「ふーん、そっか。じゃあさ?」
ウィルはニッコリ笑って、後ろにいるヨハン教授に任せようと言ったのであった。
子どもたちを見下ろしたウィルに私は首を横に振る。人を運ぶというのは、それだけでお金がかかる。アンバー領にそのお金を捻出するのももったいない。
「公に連絡して迎えに来てもらうことにするわ。それより……」
私は年長の子どもと視線を合わせる。そろそろ意識もはっきりしてきただろう。深淵を覗いているような何も感情を映さない瞳を覗き込む。
「……あなたはどこから来たの?」
見た目は浅黒い肌をしており、この国ではなくもっと南の方の住人であることはなんとなくわかる。
……本で読んだことが役に立つ日が来るとは思わないわね。
私の次の言葉で、虚ろであった少年の瞳が揺れ動いた。同じ内容の言葉を言ったが、どうやら、この外国語であっているらしい。
「……どこでその言葉を?」
少年はのそりと私に話しかけてきた。余程、母国語を耳にしたことに驚いているようだ。普段は、この言葉ではなく、私たちと同じ言葉を強要されているのだろう。
「本で読んだだけよ。だから、うまく話せているかわからないわ。あなたたちの住む国からここはとても遠いもの。言葉を知っているだけでも褒めてほしいくらいよ」
「あぁ、すごいよ!合ってる。この国に入ってから初めて聞いた」
「本当?とはいえ、あまり話せないからこっちの言葉がわかるなら、合わせてほしいんだけど?」
「いいよ。さっきの質問だけ答える」
「さっきのね?どこから来たの?」
「お姉さんが考えている国から。僕は捕虜だった。身体能力を買われて今ここにいる」
私は、その少年を見る。確かに顔や表情を見れば少年だと思えるが、体格を見ればレオよりいい体格をしていた。対峙したのは私ではないが、チラリと視線の端々で見たこの少年の動きは驚くほど綺麗であった。
「……体格に恵まれたうえに、身体能力が高い。あなたたちの特徴とも言える体つきなのね。このまま鍛えれば、脅威となるのは必須って感じだけど、あまり多くないわよね?」
「どうしてそんなことまで?」
「知識だけの話よ。インゼロ帝国の属国となった国は私も調べてはいるの。酷い仕打ちをされているという話も聞くし……」
「……知っているんだ」
「そりゃね?インゼロ帝国の動きは、多少なりと仕入れているわ。実情まではわからないけど……そう。子どもまでもが、こんな場に借りだされるのね」
「僕はまだいいほう。耐えられるけど……一定の年になった女の子はインゼロ帝国の兵士の夜伽に連れていかれる」
「それは、どうして?」
「強い兵を得るためだとか。望まない子を生まされる。その子は僕らと一緒」
まさかと思って他に縛られた五人の子どもを見る。見たところ、5歳ほどだろう。日に焼けているのかと思っていたが、そうではないらしい。この少年と同じか生まされた子らなのだろう。
「……この子たちは、その子どもたちなの?」
「そう。僕は違うけど、この子らは違う。血が混じっているんだ」
私は次の言葉を探すが出てこない。この少年の一族は身体能力に長けたものが多いのだろう。だから、狙われた。欲しいものは全て手に入れるために。
ちょうど、7年前の話だったと記憶している。当時と皇帝は変わっているが、皇帝が有していたものは、全て手に入れてしまっていることは用意に考え垂れる。
「姫さんさ?さっきから内緒話ばかりなんだけど、俺らにもわかるように教えてくれる?」
「いいわよ!かいつまんででもいい?」
「把握できるならなんでも」
わかったというウィルにさっきの話の続きを教えた。ただ何も言わずに聞いている。
「……そんなこともあるのか?インゼロ帝国の中では」
「あるわよ。それがこの国でもありえること」
「……予知夢か。その未来は、起こりうる未来だってことか。本当、えらいものしょい込んだな?」
「……私ではないわ。実際のところ。こんな重い荷物は誰にも背負わせたくないもの」
「そりゃそうだろう。お嬢が背負うことになるならなおのこと。姫さんはさ、自分の人生を犠牲にしたとは思わないわけ?」
「思わないわ。ウィルもだろうけど、選べる選択肢の中で、自分がこうでありたいと願うものを選んできたでしょ?断念しないといけないこともあったかもしれないけど、それすら、ウィルのにとっての選択だわ。後悔してる?私の手をとって」
少し考えたあと、ちっともと笑うウィル。振り返れば、ああしておけばよかったとかもっとできたんじゃないかと思う日はあっても、ここまでの道のりを間違っていたとは思わない。
「それで、どうするの?この子らは。いわゆる捨て駒にされるような子らだろう?」
意味ありげに見られるが、さっき、ウィルが私を叱ったじゃないかと睨み上げると、そうだなと考えている。公に渡せば、確実に命を奪われるだろう。後ろ盾となる私の命を狙っていたのだから。
「……私は何もしないわよ?見捨てるのかっていうかもしれないけど、私がこの子たちを守ってあげられるほど、余裕はないわ」
「ふーん、そっか。じゃあさ?」
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