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「アンナリーゼ様、手続きが終わりました。領地へまずは入ってもらいましょう」
「わかったわ。そういえば……あの人たちの振り分けはどうする?」
「それなんですけど……今日は、警備隊の訓練場に仮説の寝床を用意してもいいですか?」


 セバスが住民の振り分けをするのに、少し時間が欲しいというので、リリーを呼ぶ。


「どうかしましたか?」
「訓練場に仮説の寝床を用意したいんだけど、できるかしら?」
「もちろんですよ。百人くらいなら、なんとかなります」
「1週間も仮説だと……辛いわよね?」
「……子どももいるので、もって3日だと思いますよ」


 リリーの見立てに私とセバスは頷いた。早々に振り分けをして新しい住む場所ををあてがった方がいい。


「レンジ!」
「……呼びましたか?」
「えぇ。受け入れると言っても、すぐに行き先を用意できないの。3、4日、警備隊の訓練場の仮説の寝床で過ごしてほしいのだけど……大丈夫?」
「それくらいなら。実際問題、住む場所もないものばかりなので」
「じゃあ、そのように手配するから、しばらく時間をちょうだいね?」


 レンジの了承をとったあと、私たちは警備隊の訓練場を目指して歩くことになった。子どもが多いので、荷馬車を用意して乗せていく。


「なんていうか……大人より子どもの方が多いように見えるのは何故でしょうか?」
「どこも事情が同じと言うことじゃない?」
「……食扶持減らしですか?」


 セバスが荷馬車のうえで大人しく座っている子どもたちを見た。考えていることはわかる。セバスもきっとあちら側に近かったはずだ。トライド男爵はそういう人には見えないが、人の心の内はわからない。
 セバスの背中をポンと叩くと、見上げてくる。


「大丈夫?」
「あぁ、うん。僕は本当にアンナリーゼ様と出会えてよかったって再確認してたところ」
「そう。セバスが私と友人になってくれて、本当に嬉しいわ。これからもよろしくね?」


 ニコッと笑いかけると当たり前だよ!と笑っている。私はどうやらセバスの笑顔も守れたのかもしれない。


「セバスは、ウィルの話をどう思う?」
「考えすぎ……と言いたいけど、それくらいの警戒は必要だなって思っているよ。あまり自覚はなさそうだからあえて言うけど、アンナリーゼ様は暗殺の名簿に名前が乗っていると思うよ。僕もあまり気に留めてなかったけど……」
「そうなのね。私の周りはいつも私の命を狙っているから自覚はあるけど……そっか。本格的に私を邪魔に思い始めたってことか」
「アンナリーゼ様は目立つからね」


 私は手を組んでぐぅーっと空に向けて伸ばした。真っ青な空を見ながら、セバスと名を呼ぶ。


「狙っているのは、インゼロ帝国の皇帝よね?」
「……そうだね。ウィルのところにも公から連絡が入っているはずだよ」
「そっかそっか。この首が欲しいのか。はいどうぞと渡せるものではないけど」
「渡してもらっちゃ困るどころじゃないけどね?」
「もしかしなくても、エリックを私に付けようとか思ってないよね?」
「……違うと思うよ?さすがに、エリックだとそれはそれで目立つよ。公妃にでもなるつもり?」
「それもありかもね?」


 驚いた表情でこちらを見てくるので、冗談よといえば、わかっていても……返答に困ると眉尻を下げていた。


「……私が目立つように動き回っているのには理由があるの。わかってくれる?」
「察しはつくけど……」
「何?」
「アンジェラ様のことだよね?」
「さすがだよね。アンジェラを失うわけにはいかないの。といっても、私は、セバスも失うわけにはいかなし、ウィルやナタリー、ジョージア様……私に関わった人が寿命以外でなくなるなんて、もうあってほしくないわ」
「そうだね。アンナリーゼ様にあんな想いは二度としてほしくないし、荷物は分け合おう。ウィルたちもそう思ってくれている」
「ありがとう。その気持ちだけで十分だよ。私が背負うべき業だから」


 三人の顔を思い出す。ダドリー男爵、ソフィア、カルア。私が背負うべきものだ。


「私は護衛がなくてもいいけど……勝手に送ってきそうじゃない?公のことだから」
「確かに。事前に話をしておいてほしい気はするけどね」
「本当、有難迷惑だよね。そうそう。今日お願いがあるんだった」
「何?僕にできること?」
「うん、お願いしたいわ」


 セバスに事情を話す。万能解毒薬を井戸という井戸に流してほしいと驚いていた。


「それって……」
「うん、狙われる可能性はあるでしょ?飲み水は。無防備だし……」
「確かに。いつ井戸に入れる?」
「うん、手配は小鳥に伝えたから、ヨハンの助手が持ってきてくれるはず」
「そっか……飲み水か。でも、それなら……自分も苦しむんじゃ?」
「解毒薬くらい持っているはずだし、もしかしたら、それが最後の任務なのかもしれないわ」


 そういうこともあるのか……とセバスが顔色を青くする。私に関わらなければ、こんな話をきくこともなかったのにとセバスを少し同情する。でも、セバスのことだ。これで、次の対策は練れただろう。これからもこうやって成長していってほしいともう一度セバスの背中を叩いた。
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