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帰る道

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「寂しい場所ですね?」


 人通りの少ない往来を見てアデルが呟いた。私の代わりにアンジェラも寂しいと呟く。外灯が少ないので出歩く人もいない。領地の中でも中心部ではなく、アンバー領へ行く前の町というだけで特に何もない。それに以前なら商人すら寄り付かなかったアンバー領であったので、どうしても用事がある人だけがこの町で滞在場所を確保していたらしい。
 今では、アンバー領に泊まる商人が多い。明らかに昼夜問わず領地全体が明るくなったおかげだろう。
 屋敷の回りは人家が少ないので感じないが、テクトやユービスが拠点としている町は、本当に活気ついているため賑やかだ。
 それを知っているアデルにとっても賑やかな場所しか知らないアンジェラにとっても、とても寂しい町に見えたのであろう。


「アンジェラもアデルもそうはいうけど……他領はこんなもんよ?公都と比べるとどこも見劣りするし、夜の町は静かなもの。アンバー領やコーコナ領が賑やかだったり明るいのよ」
「町を明るくするのには、何か意味があるのですか?」
「一応ね?どっかの国での報告をお父様から聞いたことがあるの」
「どんな報告なのですか?」


 そうね……と、飲み物を一口飲み、父から教えてもらった話をする。雑談程度に話てくれたことだったと記憶にしているが、領地では役に立っていると思うと、父の思惑通りなのかもしれない。


「ある国でした実験なんだけど……同じ町でした実験ね。もちろん、同じ町だから条件は一緒。昼間の犯罪の量も、賑わう往来も一緒。その町を半分に分けたの」
「分けた?」
「そう。同じ条件化で唯一違うのは、夜の外灯をつけたことだけ。港町でね、交易も多いから夜に移動する人もいるのよ」
「どうなったんですか?」
「犯罪比率が98対2だった」
「それは……」
「すごい割合よね?外灯がないほうの犯罪は98件あったのに対して、外灯のあるほうでは2件起こった。どちらも事件が起こったことに変わりはないけど」


 アデルはヒュッと息を飲んでいる。


「……ママ、どういうこと?」
「アンジェラには難しいかもしれないわね。でも、覚えておいて。犯罪と言っても、スリがほとんどだったらしいのだけど……100件の事件があって、98件と2件にわかれたという話。私が実際にその場にいたわけじゃないからわからない……でも、暗いから狙いやすいっていうのがあるみたいで、短期的な結果だけしかないらしいけど、抑止できる犯罪があるなら、したいじゃない?」
「たしかに。アンバー領は他領に比べると犯罪率は低いし、あったとしても領地外から流れてきた人が多いと聞きます」
「明かりをつけるだけで、救われる人もいるなら、しない手はないわ。領地でも、路地裏まで明かりがつくようになったのは最近だけど、効果あると信じてはいるの」


 店先の明かりで休憩を取っていた私たちをチラチラと見てくる視線を感じた。暗がりにいる彼らはその不躾な視線でしか感じ取れなかったが、路地から出てこれば夜目のきく私には勝てないだろう。


「アデルって夜目はきくほう?」
「なんです?急に」
「どうなのかなって思って」


 聞き耳をたてているであろうこちらを窺う者たちに聞こえよがしに聞こえるようにアデルに問う。アデルはまだ感じていなかったようで、私から質問の意図がわからなかったようだ。


「ちなみに、私はきくから、何かあったら指示を出すわ。まぁ、ストロベリーピンク髪をした私に何かをしようものなら、どうなるか知らないものはいないと思うけど」
「……冗談にしてはきついですよ?」
「冗談じゃないわ。近衛にも勝てるんだから!」


 そう言ったとき、路地裏の者たちが諦めてくれたら良かったのにあろうことか、姿をあらわした。

 本当……、バカなの?

 私はそんな彼らを心底バカにしながら、剣を抜く。アデルは未だに気が付いていないようだ。


「私のこと、知らないで襲うの?」


 一人の男性が近寄ってくる。盗賊というなりの彼は私を見て笑った。きっと私はなめられたのだろう。
 痛い目を見てもらうことにした。アデルと呼びかけ、アンジェラを頼んだよ?そっと囁く。
 何も盗賊だけが動きやすいわけではない。夜目のきく私にも十分に戦える状況であった。
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