上 下
1,247 / 1,479

私のやりたいことⅣ

しおりを挟む
 レオが解体した鹿のうち、この山に埋葬するぶんについてはウィルが穴を掘ってくれていたのでそちらに埋める。血の匂いに肉食動物が寄ってくるかもしれないが、なるべく深く掘ってもらった。


「父様、ありがとうございます」
「いや、いいよ。よく解体をがんばったな。初めてにしては、本当によく頑張った」


 レオの頭をくしゃくしゃと撫でるウィルは少し目が赤い。こんな機会がなければ、レオも何も考えずに戦場に立っていることもあったかもしれない。それが回避できたことを喜んでいる。


「あの……アンナ様」
「ん?どうかして?」
「どうして今日だったのですか?」
「なるほど。たまたまよ。春は、鹿が繁殖期に入っているから多くなるの。少しだけ間引かせてもらっている。そうしないと農作物に影響がでるから。ただ、それだけよ」
「……そうですか」
「怖かった?」


 レオに問うと頷く。まだデビュタント前の子どもだ。いきなりのことで戸惑いや驚きがあったことだろう。それには同情をするが、こういうことはいつも突然にだ。人とのあいだの裏切りはほぼ毎日どこかで起こっているし、凪の心を持たないとと願う私にウィルが苦笑いをしている。


「でもね。生きるために必要になるかもしれないから……きちんと覚えておいてほしいわ」
「部隊で近衛も動くけど、はぐれることもあるから。そのときにこういう知識が役立つこともあるってことだ」
「そんなことあるのですか?」
「ないこともないよな?姫さん」
「そうね、ないこともないわ。さっきも言ったけど、レオを待っている人がいるの。もしものことにも対応できるようにしてほしいのよ」


 ふふっと笑うと、レオも笑う。今日のことはレオにとって不思議な光景だ。いきなり狩りに連れられ、鹿まで解体される。沢で手を洗ってきたが、今思うと私の考えに便乗したウィルはずるい。


「さてと、お腹もすいたしお昼にしましょう」
「ここで焼くのか?それ」
「いいえ、この先に山小屋があるわ。そこで昼食にしようかとデリアが先に行ってくれているわ」
「先回りして昼間のよういをデリアがしてくれているわ」


 解体終わって、食べられる肉を持って、山小屋を目指す。


「デリアがか……大丈夫なのか?」
「何が?」
「デリアがその……腕前は」


 私のお墨付きだからと返事をすれば、二人とも頷いていた。私の侍女であるデリアが何か作れると思っていなかったらしい。
 ほっぺが落ちるほど上手なのだから、久しぶりにデリアの手料理を食べられることを喜び、少し小さめだが、この肉の塊が早くおいしくなるようにと願うだけとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう
ファンタジー
なろう様でも投稿しています。 真夏の昼下がり歩道を歩いていた「加賀」と「八木」、気が付くと二人、見知らぬ空間にいた。 そこに居たのは神を名乗る一組の男女。 そこで告げられたのは現実世界での死であった。普通であればそのまま消える運命の二人だが、もう一度人生をやり直す事を報酬に、異世界へと行きそこで自らの持つ技術広めることに。 「転生先に危険な生き物はいないからー」そう聞かせれていたが……転生し森の中を歩いていると巨大な猪と即エンカウント!? 助けてくれたのは通りすがりの宿の主人。 二人はそのまま流れで宿の主人のお世話になる事に……これは宿屋「兎の宿」を中心に人々の日常を描いた物語。になる予定です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...