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イチアの報告Ⅳ
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「今回領地を回ってみて、改めて3年前とは様子が変わったと感じました」
「イチアはこちらに引っ越してきたのは多少なりアンバー領が綺麗になったころだったかな?」
「そうですね。ノクト様と一緒にこちらに参りました。事前調査もしていましたが、正直なところ……ノクト様を疑ったものです」
イチアの言葉に頷く一同。事前調査というのは、私がアンバー領の改革を始める前のことらしくゴミや汚物だけでなく、浮浪者や死体があちこちにあったときの話らしい。その時点から、こちらに移住を考えていたのかと思うと驚いた。
「ノクトにも聞いていい?」
「ん?なんだ?」
「……こういっちゃ失礼かもしれないけど、よくアンバー領へこようという気になれたわね?」
「あぁ、そう言われればそうだな。正直な話、俺が普通の公爵であれば、たぶんこなかった」
ノクトのその言葉に首を傾げると、ウィルならわかるだろ?と話を振っている。そこから推測できたことは、戦場だ。インゼロ帝国の元皇帝の弟であるノクトは、爵位も高く、領地も広大だ。運営も順調で、資金も潤沢。道楽として商人まがいのことをしては、各国に屋敷を構え、その屋敷すら目が飛び出るほどの金額の骨とう品やら美術品が置いてあるような場所に住んでいる。ただし、1年のうち、ほとんどが、戦場にいるノクトとイチアにとって、アンバー領の異常さは日常茶飯事の出来事だったのだろう。
「戦争してる最前線なんて、数年前のアンバー領みたいなものだった」
「……俺は戦争には行ったことがないから、正直わからないけど?」
「初陣はなんだったんだ?」
「おっさんと出会ったあの小競り合いが初陣。俺、まだ、近衛に入ってそんなに経ってなかったし」
「そこにセバス乱入か……そうすると、セバスも?」
「僕も文官になってそんなに経ってないよ」
「血気盛んというより無謀だな……」
ノクトが真相を知れば、イチアは大きなため息と首を振っていた。言いたいことはわかる。私も二人のことをどれほど心配したか。
「俺が無謀じゃなくて、セバスが無謀なんだよ。馬もろくに乗れずに、敵の本陣に突っ込むとか……どれほど焦ったか」
「ノクトとイチアじゃなかったら、僕らここにいなかったかもしれないんだな」
「……しみじみ言ってるけど、確実に首が飛んでるから!」
イチアがセバスを戒めると、ごめんなさいと謝っている。本当に、この二人だったから、今も生きていられるのだと自覚してほしい。
「それで?そんな場所であると認識しながらこちらに移り住んできて、ビックリした?」
私がニヤニヤとしながらイチアに問うと頷いた。
「報告とやけに違うことには驚きました。ただ、その前に、アンナリーゼ様に会っていたので、あなたが始めたことなのだろうというのはすぐにわかりましたよ?」
「……イチアには敵わないわ。正直、領地のことはほとんどまかせっきりなんだけど、そつなくこなしてくれるし」
「それは、きちんとアンナリーゼ様が道を作ってくれているから出来ていることですよ。領地を回って、それは感じました。他の領地では未だ下水処理はされていないと言うことを知っていますが、バニッシュ領も同じ。あれほど遅れている、文化的ではないと噂のあったアンバー領が今では、国1番の最先端なのではないかと思います」
「汚水処理はね……ヨハンの助手のおかげでなったことだから」
「地底湖でしたか?」
「そう。その研究をしてくれたおかげで、出来たことだもの。道を整備したいと進めていたことも、汚水処理の関係で少し時間がかかってはいるけど、進んでいるしね?」
イチアが頷くとアデルが横から話に入ってきた。
「街道と言えば、もうすぐ、領地全体が終わると聞きましたよ?」
「そうなの。この前リアノから報告をもらったのだけど、あと1ヶ月ほどで終わるって聞いているわ!」
「誕生日会から続く客を招待するときはいいですね。整備された街道であれば、揺れも少なく、馬車も走りやすいはずです」
「そうなの。領地の境目までは用意してもらうことになっているから、きっと驚くと思うのよね」
「たしかに、あれは驚きますね。私も今回、外の世界を見て回って驚いたひとつです」
「イチアに驚いて貰えたなんて、嬉しいわね?」
「基本、引きこもっているので、報告書として文字でしか知りませんでしたが、実際見ることでずいぶんと見識が広がった気がします。最初の視察で少し見たくらいだったので、驚きは隠せません。あと、石の橋ですね。大水がでても流れないようにと考えられているというのには感動しました」
「今後は川の整備もして、出来る限り氾濫するようなことがないようにしたいと思っているわ!」
「確かに、そこはまだ着手出来ないでいるから」
私は頷く。この領地、たくさん整備をしているところだ。まずは街道と道を直すことで、より情報の共有が早くなると考えていた。他にも物流など、諦めていたことが出来るのではないかという期待もしていたのだ。
今回の視察、イチアの報告を聞く限り、順調ではないかとほくそ笑むのであった。
「イチアはこちらに引っ越してきたのは多少なりアンバー領が綺麗になったころだったかな?」
「そうですね。ノクト様と一緒にこちらに参りました。事前調査もしていましたが、正直なところ……ノクト様を疑ったものです」
イチアの言葉に頷く一同。事前調査というのは、私がアンバー領の改革を始める前のことらしくゴミや汚物だけでなく、浮浪者や死体があちこちにあったときの話らしい。その時点から、こちらに移住を考えていたのかと思うと驚いた。
「ノクトにも聞いていい?」
「ん?なんだ?」
「……こういっちゃ失礼かもしれないけど、よくアンバー領へこようという気になれたわね?」
「あぁ、そう言われればそうだな。正直な話、俺が普通の公爵であれば、たぶんこなかった」
ノクトのその言葉に首を傾げると、ウィルならわかるだろ?と話を振っている。そこから推測できたことは、戦場だ。インゼロ帝国の元皇帝の弟であるノクトは、爵位も高く、領地も広大だ。運営も順調で、資金も潤沢。道楽として商人まがいのことをしては、各国に屋敷を構え、その屋敷すら目が飛び出るほどの金額の骨とう品やら美術品が置いてあるような場所に住んでいる。ただし、1年のうち、ほとんどが、戦場にいるノクトとイチアにとって、アンバー領の異常さは日常茶飯事の出来事だったのだろう。
「戦争してる最前線なんて、数年前のアンバー領みたいなものだった」
「……俺は戦争には行ったことがないから、正直わからないけど?」
「初陣はなんだったんだ?」
「おっさんと出会ったあの小競り合いが初陣。俺、まだ、近衛に入ってそんなに経ってなかったし」
「そこにセバス乱入か……そうすると、セバスも?」
「僕も文官になってそんなに経ってないよ」
「血気盛んというより無謀だな……」
ノクトが真相を知れば、イチアは大きなため息と首を振っていた。言いたいことはわかる。私も二人のことをどれほど心配したか。
「俺が無謀じゃなくて、セバスが無謀なんだよ。馬もろくに乗れずに、敵の本陣に突っ込むとか……どれほど焦ったか」
「ノクトとイチアじゃなかったら、僕らここにいなかったかもしれないんだな」
「……しみじみ言ってるけど、確実に首が飛んでるから!」
イチアがセバスを戒めると、ごめんなさいと謝っている。本当に、この二人だったから、今も生きていられるのだと自覚してほしい。
「それで?そんな場所であると認識しながらこちらに移り住んできて、ビックリした?」
私がニヤニヤとしながらイチアに問うと頷いた。
「報告とやけに違うことには驚きました。ただ、その前に、アンナリーゼ様に会っていたので、あなたが始めたことなのだろうというのはすぐにわかりましたよ?」
「……イチアには敵わないわ。正直、領地のことはほとんどまかせっきりなんだけど、そつなくこなしてくれるし」
「それは、きちんとアンナリーゼ様が道を作ってくれているから出来ていることですよ。領地を回って、それは感じました。他の領地では未だ下水処理はされていないと言うことを知っていますが、バニッシュ領も同じ。あれほど遅れている、文化的ではないと噂のあったアンバー領が今では、国1番の最先端なのではないかと思います」
「汚水処理はね……ヨハンの助手のおかげでなったことだから」
「地底湖でしたか?」
「そう。その研究をしてくれたおかげで、出来たことだもの。道を整備したいと進めていたことも、汚水処理の関係で少し時間がかかってはいるけど、進んでいるしね?」
イチアが頷くとアデルが横から話に入ってきた。
「街道と言えば、もうすぐ、領地全体が終わると聞きましたよ?」
「そうなの。この前リアノから報告をもらったのだけど、あと1ヶ月ほどで終わるって聞いているわ!」
「誕生日会から続く客を招待するときはいいですね。整備された街道であれば、揺れも少なく、馬車も走りやすいはずです」
「そうなの。領地の境目までは用意してもらうことになっているから、きっと驚くと思うのよね」
「たしかに、あれは驚きますね。私も今回、外の世界を見て回って驚いたひとつです」
「イチアに驚いて貰えたなんて、嬉しいわね?」
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「今後は川の整備もして、出来る限り氾濫するようなことがないようにしたいと思っているわ!」
「確かに、そこはまだ着手出来ないでいるから」
私は頷く。この領地、たくさん整備をしているところだ。まずは街道と道を直すことで、より情報の共有が早くなると考えていた。他にも物流など、諦めていたことが出来るのではないかという期待もしていたのだ。
今回の視察、イチアの報告を聞く限り、順調ではないかとほくそ笑むのであった。
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