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春に向けての準備Ⅱ
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植樹をしている二人を見ていると、とても政略結婚だとは思えないほど、お互いを意識しているようだ。ジョージアもそれを感じたのか、私を引き寄せる。
「どうかしましたか?」
「いいや、何もないよ」
素知らぬふりをしているが、その表情には羨ましいというのが滲み出ている。クスっと笑った後、ジョージアの腰に私も腕を回す。
「セバスたちが羨ましいのですね?」
「なっ、そんなこと……」
「いいのですよ?隠さなくても。私も羨ましいので」
私たちは結婚後、まぁ……いろいろとあったおかげで、噂の絶えない公爵夫妻として社交界では噂になっていたわけだが、ようやく、最近は落ち着いているようで、おしどり夫婦とまで呼ばれるのも近いうちではないかと思っている。
ウィルたちに言わせれば、まだまだ先だと言ってくるだが、問題は私の方にあるらしい。
夫婦揃って公爵なのは異例であるうえに、私が筆頭公爵となったこと、ふたつある領地を飛び回っていること、公の命令で危険な場所へも向かうことを危惧している貴族はいるらしい。大きなお世話であるのだが、ハニーローズが生まれたという事実が少し特殊な世論を呼んでいたりもする。
「ジョージア様は、いつ第二夫人を迎えるのですか?」
「えっ?それはどういうこと?」
知らないわけはないよね?とニコニコと笑いかけながら、圧力をかけて行く。私たちも政略結婚として大々的に発表された婚姻であった。だからだろうか?ジョージア宛にお見合いを申し込んでくる貴族だけでなく、私にまで早く第二夫人を娶るように説得してくれという手紙が送られてくることもある。
貴族のうちでも、腐っても公爵家。領地が盛り返している今、娘を嫁がせたい貴族たちが多いことは、執務机とは別に設えられた机に積み重なっていくのでわかる。
ハニーローズが生まれたことで、私が公に特別待遇されていると思われているようで、自身の娘もそんな子を授かるかもしれないと、権力欲しさに近寄ってきているものが多かった。私が跳ねのけてしまうことは可能なのだが、それをしてしまうと角が立つので、こっそりジョージアが処理をするように手を回していた。
「とぼけても無駄ですからね?ジョージア様への手紙は、私が検閲してますから。本当、みんな節操なしですよね。アンジェラが生まれなかったら、アンバー領が領地として輝きを取り戻さなかったら、見向きもしなかったはずなのに」
「……アンナ」
「そうでしょ?ジョージア様の婚約者は唯一、ダドリー男爵家のソフィアだけだったのはお忘れですか?」
「……忘れてないよ。もちろん。それも、仕組まれていたことだったも」
ジョージアが困ったような表情をする。隣に来ていたジョージの黒い髪を撫でる。ちょっといじめすぎたようで、少しむねがいたんだ。
「それで?アンナはどう思っているの?」
「そうですね……ジョージア様が望むのであれば、迎えてもいいですよ?」
「そう、なんだ?」
「まぁ、夫人ですからね?私の激務に耐えられる令嬢がいるとは思えませんからね……」
「……夫人ってさ?第二夫人だよね?」
「えぇ、そうですよ?公爵夫人でもある私の補佐をするのです。ナタリーとデリア以上の仕事が出来る人でないと……認められません」
「……それって、その」
「私は、ダメだとは言っていませんよ?蝶よ花よと育てられた令嬢は、私が使い潰してしまいますから」
どうしますか?とジョージアのトロっとした蜂蜜のような瞳を覗き込むとクスクス笑う。そのうちおかしすぎて、腹を抱えて笑い始めた。そんなジョージアを不思議そうにみなが見ている。
「……ふぅ、笑った笑った。アンナのその条件だと、俺の見立てでは今のところナタリーしかいないんだけど?ナタリーは俺にライバル宣言しているから、第二夫人なんて無理だろうし、意外と領地を飛び回って生き生きしているナタリーを好ましく思っているから、そんな枠組みに縛りたくない」
「そうですか。残念です」
「とても残念そうに見えない顔をしているけど?」
そうですか?ととぼけておくと、耳元まで顔を寄せてくる。
「俺にはアンナっていう素敵な奥さんがいるんだけどね?アンナ以外では手一杯で、他の女性なんて目に入らないんだ」
「さっき、ナタリーのこと言っていましたけど?」
「それは、この領地をよくする同志的ないみだよ。女性としてももちろん魅力的ではあっても、そういう感情は別もの。愛しているのはアンナただ一人だし」
「だし?」
「アンジェラっていうとっても困った子もいることだしね?母娘揃って、おてんばで大変なんだよ?」
「聞き捨てならないですけど……」
チロリと睨むと頬にキスをされた。にこにこしているので、ジョージアは余程機嫌がいいのだろう。
「俺は、アンナ以外をもう娶るつもりもないよ?今晩にでも、手紙の返事を書く手伝いでもしてもらおうかなぁ?さすがに捌ききれなくなってきた」
苦笑いするジョージアに、しかたないですね?とため息交じりに微笑むと、みんなが見ていたことに気が付いた。
「おしどり夫婦の噂、流してもらうか?」
呆れたウィルが、ナタリーに言えば、カレンに連絡しておきますと返事をしていた。これで、第二夫人の件は、もう少し落ち着くのではないだろうかと淡い期待をした。
「どうかしましたか?」
「いいや、何もないよ」
素知らぬふりをしているが、その表情には羨ましいというのが滲み出ている。クスっと笑った後、ジョージアの腰に私も腕を回す。
「セバスたちが羨ましいのですね?」
「なっ、そんなこと……」
「いいのですよ?隠さなくても。私も羨ましいので」
私たちは結婚後、まぁ……いろいろとあったおかげで、噂の絶えない公爵夫妻として社交界では噂になっていたわけだが、ようやく、最近は落ち着いているようで、おしどり夫婦とまで呼ばれるのも近いうちではないかと思っている。
ウィルたちに言わせれば、まだまだ先だと言ってくるだが、問題は私の方にあるらしい。
夫婦揃って公爵なのは異例であるうえに、私が筆頭公爵となったこと、ふたつある領地を飛び回っていること、公の命令で危険な場所へも向かうことを危惧している貴族はいるらしい。大きなお世話であるのだが、ハニーローズが生まれたという事実が少し特殊な世論を呼んでいたりもする。
「ジョージア様は、いつ第二夫人を迎えるのですか?」
「えっ?それはどういうこと?」
知らないわけはないよね?とニコニコと笑いかけながら、圧力をかけて行く。私たちも政略結婚として大々的に発表された婚姻であった。だからだろうか?ジョージア宛にお見合いを申し込んでくる貴族だけでなく、私にまで早く第二夫人を娶るように説得してくれという手紙が送られてくることもある。
貴族のうちでも、腐っても公爵家。領地が盛り返している今、娘を嫁がせたい貴族たちが多いことは、執務机とは別に設えられた机に積み重なっていくのでわかる。
ハニーローズが生まれたことで、私が公に特別待遇されていると思われているようで、自身の娘もそんな子を授かるかもしれないと、権力欲しさに近寄ってきているものが多かった。私が跳ねのけてしまうことは可能なのだが、それをしてしまうと角が立つので、こっそりジョージアが処理をするように手を回していた。
「とぼけても無駄ですからね?ジョージア様への手紙は、私が検閲してますから。本当、みんな節操なしですよね。アンジェラが生まれなかったら、アンバー領が領地として輝きを取り戻さなかったら、見向きもしなかったはずなのに」
「……アンナ」
「そうでしょ?ジョージア様の婚約者は唯一、ダドリー男爵家のソフィアだけだったのはお忘れですか?」
「……忘れてないよ。もちろん。それも、仕組まれていたことだったも」
ジョージアが困ったような表情をする。隣に来ていたジョージの黒い髪を撫でる。ちょっといじめすぎたようで、少しむねがいたんだ。
「それで?アンナはどう思っているの?」
「そうですね……ジョージア様が望むのであれば、迎えてもいいですよ?」
「そう、なんだ?」
「まぁ、夫人ですからね?私の激務に耐えられる令嬢がいるとは思えませんからね……」
「……夫人ってさ?第二夫人だよね?」
「えぇ、そうですよ?公爵夫人でもある私の補佐をするのです。ナタリーとデリア以上の仕事が出来る人でないと……認められません」
「……それって、その」
「私は、ダメだとは言っていませんよ?蝶よ花よと育てられた令嬢は、私が使い潰してしまいますから」
どうしますか?とジョージアのトロっとした蜂蜜のような瞳を覗き込むとクスクス笑う。そのうちおかしすぎて、腹を抱えて笑い始めた。そんなジョージアを不思議そうにみなが見ている。
「……ふぅ、笑った笑った。アンナのその条件だと、俺の見立てでは今のところナタリーしかいないんだけど?ナタリーは俺にライバル宣言しているから、第二夫人なんて無理だろうし、意外と領地を飛び回って生き生きしているナタリーを好ましく思っているから、そんな枠組みに縛りたくない」
「そうですか。残念です」
「とても残念そうに見えない顔をしているけど?」
そうですか?ととぼけておくと、耳元まで顔を寄せてくる。
「俺にはアンナっていう素敵な奥さんがいるんだけどね?アンナ以外では手一杯で、他の女性なんて目に入らないんだ」
「さっき、ナタリーのこと言っていましたけど?」
「それは、この領地をよくする同志的ないみだよ。女性としてももちろん魅力的ではあっても、そういう感情は別もの。愛しているのはアンナただ一人だし」
「だし?」
「アンジェラっていうとっても困った子もいることだしね?母娘揃って、おてんばで大変なんだよ?」
「聞き捨てならないですけど……」
チロリと睨むと頬にキスをされた。にこにこしているので、ジョージアは余程機嫌がいいのだろう。
「俺は、アンナ以外をもう娶るつもりもないよ?今晩にでも、手紙の返事を書く手伝いでもしてもらおうかなぁ?さすがに捌ききれなくなってきた」
苦笑いするジョージアに、しかたないですね?とため息交じりに微笑むと、みんなが見ていたことに気が付いた。
「おしどり夫婦の噂、流してもらうか?」
呆れたウィルが、ナタリーに言えば、カレンに連絡しておきますと返事をしていた。これで、第二夫人の件は、もう少し落ち着くのではないだろうかと淡い期待をした。
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