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サラおばさんを尋ねると

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「今日は何をするんだい?」
「そうですね。昨日、イチアと話をして、しばらく領地を回りたいという話が出たので、明後日からの予定で回ります」
「……アンナが?」
「あっ、私ではなくイチアが。ビルとユービスを案内人にして」
「大丈夫なの?護衛なしでも?」
「うちの領地内なら、大丈夫かと。イチアは剣も使えるそうなので、帯剣していくと言っていました」
「……さすが、ノクトさんの軍師ってところだね?」


 そうですねと言いながら、私が外套に手を伸ばそうとしているのをジッと見ていたようだ。ジョージアはもう一度、同じ質問をしてくる。


「……イチアがいなくなるので、私はしばらく領地の屋敷で引きこもりです。その前に、少し、サラおばさんのところへ行ってきてはどうかと言われたので、顔を出してこようかと」
「一人で行くつもり?」
「いえ、アンジェラも連れていこうかと」
「当然、ウィルかアデルも連れて行くんだよね?」


 そのつもりですけど?と言えば、ジョージアも厚手のセーターを着て、外套を持つ。何を考えているのだろう?と見上げれば、ついていくからと言われた。驚きはしないが、急なことでどうしたものかと考えた。


「止めても無駄だから。いつも思うんだけど、二人を連れていくのに、俺はダメな理由、あるの?」
「理由はありません。アンバー領なら、危険なこともないので、構いませんが……本当に一緒に行くのですか?」
「あぁ、領地を回るなら、ついて行っても問題はないだろう?」
「そうですね。では、アンジェラを迎えに行きましょうか。今日は、馬に乗っての移動ですから、気を付けてくださいね?」
「あぁ、わかった」


 子ども部屋へ向かえば、準備万端のアンジェラとエマが私たちを待っていた。今日は、エマもついていくようで、普段着ている服であった。


「エマ、とても似合っているわ!」


 褒められ慣れていないからか、恥ずかしそうにしながらありがとうとお礼をいう。表情が随分豊かになったエマを見ているのは、こちらも嬉しい。デリアに聞けば、全く笑いも泣きもしない子だったので、この変化はデリアが1番喜ぶだろう。
 エマが笑うようになったのは、私やアンジェラの側にいるようになってからだとリアンも言っていた。表情が乏しいのではなく、心的に表情を意図的に遮断しているようだと聞いたことがある。今は、アンジェラが笑わせればニコリと笑い、悪いことをすれば叱ってくれる。お姉さんのような存在だ。他にもマリアたちがアンジェラを囲むことが多くなってきたので、先輩として後輩に仕事を教えるというのが、いい変化をもたらしているように思える。

 ……根はいい子だから、きっかけさえあれば、輝けると思っていたのよね。まさにって感じ。デリア、喜ぶだろうな。


 エマの成長を間の当たりにして、私も嬉しくなった。


「今日は寒いから、外套だけでなく、マフラーや手袋もお願いできる?」
「はい、それは可能ですけど……どこへ向かわれるのですか?」
「どこだと思う?」


 首を傾げて、どこだとう?とエマは考えていた。


「……サラおばさんのところ?」
「そうね。アンジェラ」
「……先に言われてしまいました。今日は、どんな御用で?」
「特に用はないのだけど、暮らし向きはどうかとかを聞きにね?」
「そうだったのですね。今日は馬での移動だと聞いてます。これをアンじゃら様につけてもいいでしょうか?」


 もふもふとした耳当てをエマが差し出してきた。ナタリーが冬の馬での移動のときに、冷たい風で耳が痛いと試作品を作ったのだ。アンジェラの分を作ってくれていたらしく、私にエマが耳当てを渡してくれるので、しゃがんでアンジェラの耳に当てる。モフモフしたところがいいのかほわっと頬が緩んでいた。


「気に入ったみたいね?」
「そうみたいですね?アンナ様の分もありますが、どうされますか?」
「私はいいわ。ジョージア様に渡してあげて?今日は結構な早さで馬を走らせるつもりだから」
「わかりました。こちらを」


 そう言って、ジョージアに手渡ししている。もらったジョージアは、耳を当てる部分が気持ちいいのか、アンジェラと同じ表情で口元もによによとしている。


「いいですか?」
「アンナもつけてみるといい。冬の移動にこれは助かるな。馬車移動なら、まだしも、雪花が散る季節になれば、重宝されると思う」
「本当ですか?それ、売り物にするっていうのは、どうでしょう?」
「いいと思うよ。この品質で出来れば、貴婦人もこぞって買い付けることだろうな。ナタリーも次から次へと……本当によく動いてくれているのがわかるよ」
「それ、ナタリーに直接言ってあげてください」
「俺、好かれてないから……」
「それでも、認められているというのは、嬉しいものだと思いますよ?」


 そうかな?と渋っているジョージアに、コクt頷く。実際、ジョージアのこととなると、ナタリーが不機嫌になるのだが、それでも、ジョージアからの労いは喜んでくれるだろうと考えていた。
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