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少し出かけてきてはいかがですか?

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 イチアとの話も終わり、ビルとユービスにも少し話を聞くと、バニッシュ領には行ったことがないらしく、イチアと一緒に見て回りたいというので、許可すると伝えた。後日、許可証を渡すと言えば、では、少し仕事を進めてきますと部屋を出ていく。二人を見送ったあと、イチアとは領地の話をした。
 今現在、イチア以上に領地のことを把握しているものはいないだろう。ひとつひとつ丁寧に説明をしてもらい、領地から離れていたときのことを補完していく。


「アンナリーゼ様って、動き回っている印象がありますが、領地全体の話しを聞くときは、誰よりも真摯に聞かれますよね?」
「それは、普通のことではないの?私が領地のことを把握しないで誰がするの?イチア?セバス?違うわよね?私がこの領地の領主なのだから。もちろん、貴族としての責務もあるから、領地を離れることもあるけど、私は、領地のこともきちんと把握しておきたいと常々思っているわよ!」
「実は、その考えがなかなか出来ない領主が多いのですよ。私のような管理が出来るものがいれば、任せっぱなしという領主も」
「確かに、楽だものね」


 クスクスと笑うと、そうでしょ?と困った表情をしているイチア。私を見つめて、何度か頷く。それが何の合図なのかわからないが、イチアにとって意味のあるものなのか……不明だ。


「アンナリーゼ様のように忙しい人には、補佐は必要だと思いますけどね?公にまで、慕われているのですから、領地だけにその才を眠らせておくのはもったいないですし」
「……私に才なんてないわよ。あるのは、楽しそうだからやってみるっていう行動力だけよ?」
「みんなが、おっかなびっくりするくらいのですけどね?」
「……そう思っているんだ。私は、昔から、こんな感じだったけど……普通、貴族の令嬢は、馬にのって領地を駆け回らないわよね?」
「一人心当たりがありますが?」
「ナタリーは私の影響を受けているだけ。馬に乗る練習を相当したらしいわ」
「セバスより自在に乗れるとか?」


 私は頷くと、イチアが驚いていた。馬に乗れると言っても、セバスには劣るだろうと考えていたらしい。実際、ナタリーは、馬でアンバー領や公都、コーコナ領を移動していることが多い。どうやら、それは知らなかったようだ。


「……セバスは、どんくさいということですか?」
「……大きな声では言えないけど。イチアたちも初めて会ったとき、馬が机の上に乗ったとウィルから聞いたわよ?」
「あぁ、あれですね?驚きました。止まらない!って叫びながらしがみついていましたし。まさか、そんなセバスに国随一と言われた私が戦略で負けるとは思いもしませんでしたが」
「イチアは、ノクトについてきてよかったと思っているの?」


 常勝将軍であったノクトの軍師であったイチア。戦場をノクトと共に駆けまわっていたことは想像出来る。イチアはアンバー領に来て、どう思っているのだろう?とたまに考えることがあった。


「ノクト様についてきて、よかったと思っていますよ。正直、戦争は私の懐を温かくしましたが、心は絶対凍結のように固まったままでした。感情を揺らさない、そうじゃないと、軍師になんてなれませんから」
「駒ひとつで、人の生き死にを左右させるのが軍師だものね。イチアの作戦が、盤上の駒を動かすためのものではなく、実際に剣をもった生身の人間を動かすことですもの。心を守るには、それしかないのはわかるわ」
「……そうでしょうか?」


 イチアの目を見た。言いたいことは伝わってくる。私は戦場に立ったことすらない小娘だとイチアの目には見えるのだろう。


「わからないと?戦場に立ったことはある。軍師という特殊なものになったわけではなく、一兵士としてだから、実際は、イチアの本当の心まではわからないかもしれないわね」
「……どうして、人は争いを好むのでしょうね?優劣を付けたり、上下にしたり。私は、数えきれないほどの命をこの駒ひとつで奪ってきました。正直なところ、アンバー領にこれたことは、最高の死に場所を見つけたとさえ思っていますが、償いきれない命への懺悔はあります」
「……そう。奪ってしまった命は戻らないし、奪われたほうは、イチアを許せないでしょうね。でも、ここで、やり直すことで、生きて出来ることもあるはずよ」


 イチアの手は、剣を握ってごつごつとした手というよりは、ペンダコが出来るほど、事務仕事をしているようだ。机の上で戦っていたのだ。理不尽な敵としてみなされていたことだろう。
 セバスたちとの出会いがなければ、今の生活はないだろうし、私の死後、ノクトとイチアがアンジェラと敵対していた未来もあったのかと思うと、不思議な縁だった。


「アンナリーゼ様」
「何?」
「末永くよろしくお願いします」
「こちらこそ!私の孫の代まで、よろしく頼むわ!」
「何をおっしゃいますか。いくつ年上だと思っているのですか?」


 少し拗ねたようにイチアがいうので、そうねと笑う。そんな私にイチアが領地を回るまでのあいだに、領地の中でも近場のサラおばさんの家を尋ねるのはどうか?と提案してくれるので、私は明日の朝、イチアの進めのとおり出かけることにした。
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