1,161 / 1,493
少し出かけてきてはいかがですか?
しおりを挟む
イチアとの話も終わり、ビルとユービスにも少し話を聞くと、バニッシュ領には行ったことがないらしく、イチアと一緒に見て回りたいというので、許可すると伝えた。後日、許可証を渡すと言えば、では、少し仕事を進めてきますと部屋を出ていく。二人を見送ったあと、イチアとは領地の話をした。
今現在、イチア以上に領地のことを把握しているものはいないだろう。ひとつひとつ丁寧に説明をしてもらい、領地から離れていたときのことを補完していく。
「アンナリーゼ様って、動き回っている印象がありますが、領地全体の話しを聞くときは、誰よりも真摯に聞かれますよね?」
「それは、普通のことではないの?私が領地のことを把握しないで誰がするの?イチア?セバス?違うわよね?私がこの領地の領主なのだから。もちろん、貴族としての責務もあるから、領地を離れることもあるけど、私は、領地のこともきちんと把握しておきたいと常々思っているわよ!」
「実は、その考えがなかなか出来ない領主が多いのですよ。私のような管理が出来るものがいれば、任せっぱなしという領主も」
「確かに、楽だものね」
クスクスと笑うと、そうでしょ?と困った表情をしているイチア。私を見つめて、何度か頷く。それが何の合図なのかわからないが、イチアにとって意味のあるものなのか……不明だ。
「アンナリーゼ様のように忙しい人には、補佐は必要だと思いますけどね?公にまで、慕われているのですから、領地だけにその才を眠らせておくのはもったいないですし」
「……私に才なんてないわよ。あるのは、楽しそうだからやってみるっていう行動力だけよ?」
「みんなが、おっかなびっくりするくらいのですけどね?」
「……そう思っているんだ。私は、昔から、こんな感じだったけど……普通、貴族の令嬢は、馬にのって領地を駆け回らないわよね?」
「一人心当たりがありますが?」
「ナタリーは私の影響を受けているだけ。馬に乗る練習を相当したらしいわ」
「セバスより自在に乗れるとか?」
私は頷くと、イチアが驚いていた。馬に乗れると言っても、セバスには劣るだろうと考えていたらしい。実際、ナタリーは、馬でアンバー領や公都、コーコナ領を移動していることが多い。どうやら、それは知らなかったようだ。
「……セバスは、どんくさいということですか?」
「……大きな声では言えないけど。イチアたちも初めて会ったとき、馬が机の上に乗ったとウィルから聞いたわよ?」
「あぁ、あれですね?驚きました。止まらない!って叫びながらしがみついていましたし。まさか、そんなセバスに国随一と言われた私が戦略で負けるとは思いもしませんでしたが」
「イチアは、ノクトについてきてよかったと思っているの?」
常勝将軍であったノクトの軍師であったイチア。戦場をノクトと共に駆けまわっていたことは想像出来る。イチアはアンバー領に来て、どう思っているのだろう?とたまに考えることがあった。
「ノクト様についてきて、よかったと思っていますよ。正直、戦争は私の懐を温かくしましたが、心は絶対凍結のように固まったままでした。感情を揺らさない、そうじゃないと、軍師になんてなれませんから」
「駒ひとつで、人の生き死にを左右させるのが軍師だものね。イチアの作戦が、盤上の駒を動かすためのものではなく、実際に剣をもった生身の人間を動かすことですもの。心を守るには、それしかないのはわかるわ」
「……そうでしょうか?」
イチアの目を見た。言いたいことは伝わってくる。私は戦場に立ったことすらない小娘だとイチアの目には見えるのだろう。
「わからないと?戦場に立ったことはある。軍師という特殊なものになったわけではなく、一兵士としてだから、実際は、イチアの本当の心まではわからないかもしれないわね」
「……どうして、人は争いを好むのでしょうね?優劣を付けたり、上下にしたり。私は、数えきれないほどの命をこの駒ひとつで奪ってきました。正直なところ、アンバー領にこれたことは、最高の死に場所を見つけたとさえ思っていますが、償いきれない命への懺悔はあります」
「……そう。奪ってしまった命は戻らないし、奪われたほうは、イチアを許せないでしょうね。でも、ここで、やり直すことで、生きて出来ることもあるはずよ」
イチアの手は、剣を握ってごつごつとした手というよりは、ペンダコが出来るほど、事務仕事をしているようだ。机の上で戦っていたのだ。理不尽な敵としてみなされていたことだろう。
セバスたちとの出会いがなければ、今の生活はないだろうし、私の死後、ノクトとイチアがアンジェラと敵対していた未来もあったのかと思うと、不思議な縁だった。
「アンナリーゼ様」
「何?」
「末永くよろしくお願いします」
「こちらこそ!私の孫の代まで、よろしく頼むわ!」
「何をおっしゃいますか。いくつ年上だと思っているのですか?」
少し拗ねたようにイチアがいうので、そうねと笑う。そんな私にイチアが領地を回るまでのあいだに、領地の中でも近場のサラおばさんの家を尋ねるのはどうか?と提案してくれるので、私は明日の朝、イチアの進めのとおり出かけることにした。
今現在、イチア以上に領地のことを把握しているものはいないだろう。ひとつひとつ丁寧に説明をしてもらい、領地から離れていたときのことを補完していく。
「アンナリーゼ様って、動き回っている印象がありますが、領地全体の話しを聞くときは、誰よりも真摯に聞かれますよね?」
「それは、普通のことではないの?私が領地のことを把握しないで誰がするの?イチア?セバス?違うわよね?私がこの領地の領主なのだから。もちろん、貴族としての責務もあるから、領地を離れることもあるけど、私は、領地のこともきちんと把握しておきたいと常々思っているわよ!」
「実は、その考えがなかなか出来ない領主が多いのですよ。私のような管理が出来るものがいれば、任せっぱなしという領主も」
「確かに、楽だものね」
クスクスと笑うと、そうでしょ?と困った表情をしているイチア。私を見つめて、何度か頷く。それが何の合図なのかわからないが、イチアにとって意味のあるものなのか……不明だ。
「アンナリーゼ様のように忙しい人には、補佐は必要だと思いますけどね?公にまで、慕われているのですから、領地だけにその才を眠らせておくのはもったいないですし」
「……私に才なんてないわよ。あるのは、楽しそうだからやってみるっていう行動力だけよ?」
「みんなが、おっかなびっくりするくらいのですけどね?」
「……そう思っているんだ。私は、昔から、こんな感じだったけど……普通、貴族の令嬢は、馬にのって領地を駆け回らないわよね?」
「一人心当たりがありますが?」
「ナタリーは私の影響を受けているだけ。馬に乗る練習を相当したらしいわ」
「セバスより自在に乗れるとか?」
私は頷くと、イチアが驚いていた。馬に乗れると言っても、セバスには劣るだろうと考えていたらしい。実際、ナタリーは、馬でアンバー領や公都、コーコナ領を移動していることが多い。どうやら、それは知らなかったようだ。
「……セバスは、どんくさいということですか?」
「……大きな声では言えないけど。イチアたちも初めて会ったとき、馬が机の上に乗ったとウィルから聞いたわよ?」
「あぁ、あれですね?驚きました。止まらない!って叫びながらしがみついていましたし。まさか、そんなセバスに国随一と言われた私が戦略で負けるとは思いもしませんでしたが」
「イチアは、ノクトについてきてよかったと思っているの?」
常勝将軍であったノクトの軍師であったイチア。戦場をノクトと共に駆けまわっていたことは想像出来る。イチアはアンバー領に来て、どう思っているのだろう?とたまに考えることがあった。
「ノクト様についてきて、よかったと思っていますよ。正直、戦争は私の懐を温かくしましたが、心は絶対凍結のように固まったままでした。感情を揺らさない、そうじゃないと、軍師になんてなれませんから」
「駒ひとつで、人の生き死にを左右させるのが軍師だものね。イチアの作戦が、盤上の駒を動かすためのものではなく、実際に剣をもった生身の人間を動かすことですもの。心を守るには、それしかないのはわかるわ」
「……そうでしょうか?」
イチアの目を見た。言いたいことは伝わってくる。私は戦場に立ったことすらない小娘だとイチアの目には見えるのだろう。
「わからないと?戦場に立ったことはある。軍師という特殊なものになったわけではなく、一兵士としてだから、実際は、イチアの本当の心まではわからないかもしれないわね」
「……どうして、人は争いを好むのでしょうね?優劣を付けたり、上下にしたり。私は、数えきれないほどの命をこの駒ひとつで奪ってきました。正直なところ、アンバー領にこれたことは、最高の死に場所を見つけたとさえ思っていますが、償いきれない命への懺悔はあります」
「……そう。奪ってしまった命は戻らないし、奪われたほうは、イチアを許せないでしょうね。でも、ここで、やり直すことで、生きて出来ることもあるはずよ」
イチアの手は、剣を握ってごつごつとした手というよりは、ペンダコが出来るほど、事務仕事をしているようだ。机の上で戦っていたのだ。理不尽な敵としてみなされていたことだろう。
セバスたちとの出会いがなければ、今の生活はないだろうし、私の死後、ノクトとイチアがアンジェラと敵対していた未来もあったのかと思うと、不思議な縁だった。
「アンナリーゼ様」
「何?」
「末永くよろしくお願いします」
「こちらこそ!私の孫の代まで、よろしく頼むわ!」
「何をおっしゃいますか。いくつ年上だと思っているのですか?」
少し拗ねたようにイチアがいうので、そうねと笑う。そんな私にイチアが領地を回るまでのあいだに、領地の中でも近場のサラおばさんの家を尋ねるのはどうか?と提案してくれるので、私は明日の朝、イチアの進めのとおり出かけることにした。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
真実の愛の言い分
豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」
私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる