上 下
1,155 / 1,480

約10年後を見据えて

しおりを挟む
 朝起きたときには、ジョージアはすでに机の上で昨日の地図を広げていた。珍しく早く目が覚めたらしく、私が起き上がったので、声をかけてくる。


「よく寝てたね?」
「はい、よく寝れました」


 もうひと眠りできそうなくらい、おおきなあくびをしてしまう。慌てて隠したが、ジョージアは見ていたようで、クスクスと笑っている。


「まだ、早いから、もう少し眠ったら?」
「そうですね……」


 そう言いながらも、ジョージアの方を見ていると、ベッドへ近づいてきて、一緒に布団へと潜り込んだ。
 私が眠らないのは、ジョージアが起きているからだと思ったらしい。
 頭を撫でて一緒にベッドへ寝転ぶ。


「アンナは寝起きだから温かいね?」
「ジョージア様は、結構な時間、起きていたのですか?冷たいですよ?」


 ギュっと抱きしめると、ジョージアの冷えた体に体温が吸い取られていくようだった。ブルブルっと震えながらもジョージアにしがみつく。ゆっくり私から体温が流れていったのか、少しずつ温かくなってきた。


「まだ、少しいいかな?」
「えぇ、いいですよ」


 微睡みながらジョージアの声を聞き、質問に答えていく。内容は昨日の地図の話で、だんだんふわふわと聞いて、ふにゃふにゃと答えていたようだ。
 最後におやすみというジョージアの声が聞こえたところで、また、夢の中へ入っていった。

 余程、ジョージアに抱きついて眠るのがよかったのだろう。目をあけると、ぴったりくっついて離れないぞと主張している私に驚いた。メイドが朝の支度のために部屋に入ってきていたが、私の目が覚めるまで、寝かせておいてと言ってくれたのか、寝坊をしてしまう。


「……おはようございます」
「おはよう。よく寝ていたね。やっぱり、疲れていたようだ」


 頭を撫でてくれるので、目を細めた。まるで、アンジェラにでもなったかのようで、少し恥ずかしい。


「アンジーも頭を撫でられるのが好きなようだけど、母娘だな」
「気付いていたのですか?」
「まぁ、一応、アンナの夫ですから?知らないわけはないかなぁ?と」
「……でも、私……」
「見ていれば、わかるよ?たまに、アンジーの頭を撫でていると羨ましそうな表情でこちらを見てるから。お義父さんやサシャが、アンナの頭を撫でていそうだよね?」
「……そうですね?お父様にもお兄様にもいっぱい撫でてもらっていましたよ。お兄様は、どう思っていたか知りませんけど」


 当時のことを思い出す。小さかったころは、寝静まったころ、兄の部屋に行き、ベッドに潜り込んだ。怖い夢を見ていたから、私を慰めてくれていたのだ。その名残か、大人になったあとでも、兄は子どものように頭を撫でてくる。たとえば、いいことをしたときとかに。大きくなった兄の手で頭をわしゃわしゃと撫でられるのは好きだった。ジョージアは優しく撫でるようであるが、兄はもっと雑だ。懐かしくて笑ってしまう。


「さて、朝食を食べようか。そのあと、また、昨日の地図を見て話をするんだろう?」
「そうですね。基本的にはウィルしか空いていないので、ウィルと話合うことになると思いますが」
「それなら、俺も入ろう。昨日の話の続きを聞きたい」


 私は頷き、今日も緩い服に着替える。いつでも、昼寝できるようにと準備されているものだ。
 朝食を食べ終わったころ、部屋の扉がノックされる。そこにはウィルとレオ、アデルがついてきていた。


「お邪魔します」
「おはよう!」


 みなに挨拶すれば、応えてくれる。今日はジョージアも一緒にこの図上訓練をすると言えば、ウィルがレオとカイルを一緒に勉強させたいと連れてきている。
 アデルは、カイルの付き添いだと言っているが、自分も混ざりたいと言うのは目に見えていた。


「じゃあ、昨日の続きからと言いたいけど、アデルも途中からだったし、ジョージア様も最初の頃は聞いていなかったですよね?」
「あぁ、途中からだった」
「最初から話ましょう。姫さんと二人で、最初はこの戦術書を元に話合っていたのですから。地図に書き込んであるメモだけ見てもわかりづらいだろうし」


 ウィルが初めから説明を始めた。アデルでさえ、図上訓練は初めてだったらしく、わかりにくかったらしい。なので、子どもたちなら、戦術のせの字も知らないのだからと、懇切丁寧に事細かく話していく。わかりにくい場所は、私が補足していけば、なんとか、最年少であるレオも頷いている。


「レオもアデルもカイルも。わからないことがあれば、いつでも言ってちょうだい」
「アンナ様、ここはどのような攻め方をすれば、こうなるのでしょう?たとえば、数で押し切ってくるとしたら……味方が負けてしまいます」
「所詮は机上の話だから、そのときそのときの状況判断で、変わっていくと思うわ。でもね?この戦術は、クーデターが起こったときのことを想定して話をしているから、物量で押してくることは、まずないと思っているの」


 なるほどと頷きはしているが、アデルは納得まではいっていないようだ。所詮、机の上で、作戦を練っているだけに過ぎない。だけど、それを実際の戦場でどうなのかというのは、そのときになってみないとわからない。こういう戦い方があるからね?という注意喚起くらいに考えるようにアデルに伝えた。
 私とウィルは10年後を見据えて話はしているが、他のみなは、その部分を知らないので、戦争になったときの城の守りかただと考えているようだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...